史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十一章 使い魔召喚編

874話 ぽっかり穴が開いてるみたいな感覚

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 中庭の端っこで、ラッヘと並んで座り空を見上げている。
 なんだこの状況。

 少し前までなら、このくらいの時間は空がオレンジ色になっているところだったのに。今は暗くなるのが早くなってきた感じ。でも今日は、比較的明るい。
 時間の流れって不思議だなぁと思いながら、私は隣のラッヘを見た。

「ラッヘは、クラスメイトとかと遊ばないの?」

「んー、今日は一人でいたい気分だから」

「……そっか」

 ちょっと不安には思った。こんな時間に、こんな場所で一人でいるのだ。
 それにラッヘはエルフだし……師匠に加えてウーラスト先生の影響で、だいぶエルフに対あうる風当たりが弱くなってきたとはいえ。

 でも、ラッヘは望んでこうしているみたいだ。

「ラッヘはさ、クラスメイトとうまくやれてる?」

「え? うん、みんな優しくしてくれてるよ」

 私の質問に、一瞬きょとんとした表情を浮かべたラッヘだけどすぐに言葉の意味を理解したのか、にこっと微笑んだ。
 その表情に嘘はなさそうだし、そもそも記憶を失ったラッヘは純粋だ。嘘なんてつかない。

 もしもエルフだからって敬遠されていたらって心配だったけど。私もちょくちょく様子を見に行ったり、同じクラスのノマちゃんに様子を聞いているけど、全部わかるわけじゃないから。
 それはエルフへの認識の変化か、それともラッヘは記憶喪失だからみんな優しくなってるのか。それはわからないけど。

「ごめんね、ラッヘ」

「へ?」

「記憶戻す方法、全然わかんなくてさ」

 そもそも魔大陸から帰ってきて、ラッヘと関わる機会も減っちゃったしなぁ。
 本当なら、私は私の責任でラッヘの記憶を戻してあげたい。魔大陸を抜けられたのはラッヘのおかげでもある。クロガネと契約できたのだって。

 なにより……師匠の子供なんだから。

「うーん、私は別にこのまんまでも気にならないよ?」

 けれどラッヘは、あっけらかんと言う。

「……気にならない? 昔のこととか……親の顔とか」

「気にならない、なんてことはないけど。そりゃ、戻れーって念じて記憶が戻るならいろいろ考えるかもしれないけど。そんなことはないでしょ?」

「まあ、ね」

「だったら、わざわざ考えてもしょうがないかなって。それに、みんな優しくしてくれるし……特に、ノマちゃん!」

 その前向きな姿勢は、見習うところがあるな。確かに、記憶が記憶がって考えてても、記憶が戻るわけじゃないのだ。
 気になっても考えても思い出せない。ならその時間を、有意義に使った方がいい。

 ありがたいことに、ラッヘの周りの子は優しくしてくれるみたいだ。それも、特にノマちゃんが。

「へぇ、ノマちゃんが」

 ノマちゃんには、ラッヘの事情をあらかた話した。
 エルフであることは見ればわかるけど、師匠の子供であること、本当は『エラン・フィールド』という名前だったこと、クロガネとの契約を手伝ってくれたこと、頑張ってくれたおかげでピンチは脱した代わりに記憶を失ってしまったこと……

 ラッヘとしては、自分のことはあんまり話されたくはないだろう。でも、ラッヘのことを頼む以上ある程度の事情は知っておいてもらった方がいい。
 それにノマちゃん、意外にも口が堅い。友達の秘密を離すなんてことはしない。

「それでも、記憶が戻ったら殴られそうだけどね」

「?」

 勝手に話しやがって、と殴られるかもしれないな。記憶が戻ったラッヘに。
 ま、その時はその時で受け止めるさ。

 ……もしラッヘが、力を限界まで使ったことで記憶を失ったのなら。魔力が回復すれば記憶も元に戻る……なんて期待は今更できない。
 それだけの時間は、ゆうに過ぎてしまったのだから。

「あの、今更だけどさ……記憶、戻したい?」

 なんというか、今まで聞くのをためらっていたような気がする。
 当たり前のように以前のラッヘに、なんて考えていたけど、もしもそれを望んでいなかったら。私と同じように。

 ……同じ名前で、同じ顔で、記憶まで失って。ホント、私たちってよく似てるよね。

「そうだなぁ……自分の中に、ぽっかり穴が開いてるみたいな感覚。気持ち悪い、とはちょっと違うけど、違和感はある」

 トサ……とラッヘは地面に寝ころんだ。

「正直な話、いざ聞かれると自分でもわからなくなっちゃいそう。でも……やっぱり、取り戻せるものなら取り戻したいかな」

「……そっか」

 ……記憶は取り戻したい、か。どうやら、私となにもかも一緒ってわけじゃなかったみたいだな。

「あ、でもそのためにエランちゃんが無理することはないからね。私、たまに図書室で調べてるんだ」

「え、そうなの?」

「うん」

 知らなかった……でも、そりゃそうか。
 なにも、それを調べているのが私だけ……なんてことはないんだから。自分のことなら、なおさら。

 でも、自分から調べてるってことは、やっぱ記憶を取り戻したい割合が強いのかな。

「方法がわかればさ……どっちにしたいか、選べるじゃん? 方法が分からずに模索してるより、方法だけでも判明しとけばなんとかなるかなって」

 ……なるほどね。この辺、私と似た考え方をしてるな。
 なんというか……最初、殺意を持って私に接してきたラッヘとこんな時間を過ごすことになるなんて。人生ってわからないもんだねぇ。
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