886 / 1,140
第十一章 使い魔召喚編
873話 わからないことはわからない
しおりを挟む「魔力が枯渇したら、種族が変化するかぁ」
紙に書いてある文字をもう何度も読み返した私は、唇を尖らせていた。
こんな現象聞いたこともないしなぁ。まあ元々私はあんまりものを知らないから世間じゃ常識ってこともよくあるけどさ。
でもリーフェルさんの件について、クレアちゃんもルリーちゃんもなにも言わなかったし。そんな現象があれば言うだろう。
となると、考えられるのは……
「エルフ族特有のそれ、ってことかな」
魔力を限界まで放出したことで、自分の中が空っぽになってしまい……種族が変わってしまう。
種族が変わるなんてそんなことあるか? とは思う。でも、こう考えるとリーフェルさんの身に起きたことは説明がつく。
五十年前、ダークエルフたちは故郷を襲われた。そこにいたのが、ルリーちゃんたちや……エルフのリーフェルという名前の女の人。
ルリーちゃんの記憶を見た限りでは、エルフのリーフェルの行方は謎のままだ。生死は分からない。
もし、襲われたそこで必死に抵抗して、命からがら逃げ出せて。でも、限界まで魔力を使ってしまった結果、思いもよらない事態が起こった。
「そう考えると、二人は同一人物……」
昔の記憶がないこと、五十年も彷徨っていたこと。彼女が元はエルフなら、合点のいくことはある。
彼女がルリーちゃんの友達なら、昔のことを思い出させてあげたい……と思う一方で。そんなつらいことは忘れたままのほうがいいんじゃないかという思いもある。
ルリーちゃんのことを思い出すってことは、自分の身に起こったことも思い出すってことだ。
「ウーラスト先生に聞いてみるかなぁ」
この紙のこと、リーフェルさんのこと、ラッへのこと。先生ならエルフだし、ルリーちゃんの正体も知っている。
エルフのことはエルフのことに。エルフ特有のものなら、物知りな先生に聞けばなにかわかるはずだ。多分。
ラッへのことも、もっと早くに先生に相談すればよかったんだけど……なかなかタイミングってやつがね。
「とりあえず、今日はこれくらいにしておこう」
エルフに関する本自体、他のものと比べれば少ない。少ないからこそ、情報も見つけやすいとは言えるけど……
本からじゃ手がかりを得られなかったってことだ。残念なことに、手がかりは誰が落としたともわからないこの紙一枚。
これは、一応持っておこうっと。筆跡からせめて男か女かくらいわからないかなぁ。まあ落としたのは男の子だったんだけど。
「はー、やっぱ師匠にいろいろ聞ければなぁ」
私は本を本棚に戻しながら、身近なエルフのことを思い出す。
十年ずっと一緒にいた、師匠。師匠なら、エルフ族のことなら知っているはずだよ、きっと。
それに、世界中を旅してたって言ってたし、いろんな知識を持っているはず。ないものねだりしても仕方ないんだけどさ。
「あ、レニア先輩だ」
どれか本を借りようかと思っていたけど、やめておいた。
出口に向かって歩いていると、受付にレニア先輩が座っているのが見えた。それに、その隣には女子の姿。楽しそうに話している。
ほほぅ、先輩も隅に置けませんなぁ。
「! エランさん、今帰りですか?」
「うん、とりあえず調べ物は終わったので」
結局知りたかったことはなに一つ得られなかったけども。魔導大国である魔導学園の図書室……そこにないってことは、その辺に転がっている情報じゃないんだろうな。
「そうですか。またいつでも、利用してくださいね」
「はーい」
それから図書室を出た私は、廊下を歩く。
さすがに放課後だし、生徒の姿もまばらだ。ほとんどの生徒は中庭で使い魔と戯れている。
お、中には先輩に指導してもらっている子もいるみたいだ。使い魔が同じタイプのモンスターだったりすると、いろいろ教えてもらいやすいんだろうな。
「らったったーらったったーらったったったったー」
適当に鼻唄を口ずさみ、校舎の外へ。
このまま寮の部屋に帰るか、それとも少しぶらぶらしていくか。悩ましいところだな。
みんな楽しそうに笑っている。貴族ばかりが通う魔導学園、それなりにプライドの高い子もいるだろう。
そういった子が衝突しない、なんて確証はない。けど、学園内はわりと平和だ。
それだけ、生徒たちをまとめている人たちや環境がすごいってことだろう。
「ぼー」
「ん?」
ふと、視界の端に映り込む人影。
戯れているみんなとは少し離れて、一人で座っている女の子。ラッへは、膝を抱えて座り、空を見上げていた。
風になびく金髪に、宝石のような緑色の瞳。とてもきれいだ。
私は、彼女の傍に近づいていく。
「ラッへ」
「あ、エラーン」
私の声に反応したラッへは、私に向かってぶんぶんと手を降っていた。
なんと無邪気な仕草に笑顔だろう。以前のラッへなら考えられなかったことだ。
……思えば、ラッへとは学園に戻ってきてからこうして二人になるのは、初めてな気がする。
「なにしてたの?」
「空見てたんだ。雲の流れ、早いなって」
「そっか」
記憶を失ったラッへは、まるで子供のようだ。
それまでの記憶を無くすということは、自分を構成していた全てを無くすのと同じ。こうして幼児退行してしまっても、不思議ではない。
「隣、いい?」
「もちろん!」
ラッへの許可を得て、隣へ腰を下ろす。
芝生がなんだか、天然の絨毯のように思えた。
10
あなたにおすすめの小説
本当に現実を生きていないのは?
朝樹 四季
恋愛
ある日、ヒロインと悪役令嬢が言い争っている場面を見た。ヒロインによる攻略はもう随分と進んでいるらしい。
だけど、その言い争いを見ている攻略対象者である王子の顔を見て、俺はヒロインの攻略をぶち壊す暗躍をすることを決意した。
だって、ここは現実だ。
※番外編はリクエスト頂いたものです。もしかしたらまたひょっこり増えるかもしれません。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ヒロイン? 玉の輿? 興味ありませんわ! お嬢様はお仕事がしたい様です。
彩世幻夜
ファンタジー
「働きもせずぐうたら三昧なんてつまんないわ!」
お嬢様はご不満の様です。
海に面した豊かな国。その港から船で一泊二日の距離にある少々大きな離島を領地に持つとある伯爵家。
名前こそ辺境伯だが、両親も現当主の祖父母夫妻も王都から戻って来ない。
使用人と領民しか居ない田舎の島ですくすく育った精霊姫に、『玉の輿』と羨まれる様な縁談が持ち込まれるが……。
王道中の王道の俺様王子様と地元民のイケメンと。そして隠された王子と。
乙女ゲームのヒロインとして生まれながら、その役を拒否するお嬢様が選ぶのは果たして誰だ?
※5/4完結しました。
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる