史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十一章 使い魔召喚編

873話 わからないことはわからない

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「魔力が枯渇したら、種族が変化するかぁ」

 紙に書いてある文字をもう何度も読み返した私は、唇を尖らせていた。
 こんな現象聞いたこともないしなぁ。まあ元々私はあんまりものを知らないから世間じゃ常識ってこともよくあるけどさ。

 でもリーフェルさんの件について、クレアちゃんもルリーちゃんもなにも言わなかったし。そんな現象があれば言うだろう。
 となると、考えられるのは……

「エルフ族特有のそれ、ってことかな」

 魔力を限界まで放出したことで、自分の中が空っぽになってしまい……種族が変わってしまう。
 種族が変わるなんてそんなことあるか? とは思う。でも、こう考えるとリーフェルさんの身に起きたことは説明がつく。

 五十年前、ダークエルフたちは故郷を襲われた。そこにいたのが、ルリーちゃんたちや……エルフのリーフェルという名前の女の人。
 ルリーちゃんの記憶を見た限りでは、エルフのリーフェルの行方は謎のままだ。生死は分からない。

 もし、襲われたそこで必死に抵抗して、命からがら逃げ出せて。でも、限界まで魔力を使ってしまった結果、思いもよらない事態が起こった。

「そう考えると、二人は同一人物……」

 昔の記憶がないこと、五十年も彷徨っていたこと。彼女が元はエルフなら、合点のいくことはある。

 彼女がルリーちゃんの友達なら、昔のことを思い出させてあげたい……と思う一方で。そんなつらいことは忘れたままのほうがいいんじゃないかという思いもある。
 ルリーちゃんのことを思い出すってことは、自分の身に起こったことも思い出すってことだ。

「ウーラスト先生に聞いてみるかなぁ」

 この紙のこと、リーフェルさんのこと、ラッへのこと。先生ならエルフだし、ルリーちゃんの正体も知っている。
 エルフのことはエルフのことに。エルフ特有のものなら、物知りな先生に聞けばなにかわかるはずだ。多分。

 ラッへのことも、もっと早くに先生に相談すればよかったんだけど……なかなかタイミングってやつがね。

「とりあえず、今日はこれくらいにしておこう」

 エルフに関する本自体、他のものと比べれば少ない。少ないからこそ、情報も見つけやすいとは言えるけど……
 本からじゃ手がかりを得られなかったってことだ。残念なことに、手がかりは誰が落としたともわからないこの紙一枚。

 これは、一応持っておこうっと。筆跡からせめて男か女かくらいわからないかなぁ。まあ落としたのは男の子だったんだけど。

「はー、やっぱ師匠にいろいろ聞ければなぁ」

 私は本を本棚に戻しながら、身近なエルフのことを思い出す。
 十年ずっと一緒にいた、師匠。師匠なら、エルフ族のことなら知っているはずだよ、きっと。

 それに、世界中を旅してたって言ってたし、いろんな知識を持っているはず。ないものねだりしても仕方ないんだけどさ。

「あ、レニア先輩だ」

 どれか本を借りようかと思っていたけど、やめておいた。
 出口に向かって歩いていると、受付にレニア先輩が座っているのが見えた。それに、その隣には女子の姿。楽しそうに話している。

 ほほぅ、先輩も隅に置けませんなぁ。

「! エランさん、今帰りですか?」

「うん、とりあえず調べ物は終わったので」

 結局知りたかったことはなに一つ得られなかったけども。魔導大国である魔導学園の図書室……そこにないってことは、その辺に転がっている情報じゃないんだろうな。

「そうですか。またいつでも、利用してくださいね」

「はーい」

 それから図書室を出た私は、廊下を歩く。
 さすがに放課後だし、生徒の姿もまばらだ。ほとんどの生徒は中庭で使い魔と戯れている。

 お、中には先輩に指導してもらっている子もいるみたいだ。使い魔が同じタイプのモンスターだったりすると、いろいろ教えてもらいやすいんだろうな。

「らったったーらったったーらったったったったー」

 適当に鼻唄を口ずさみ、校舎の外へ。
 このまま寮の部屋に帰るか、それとも少しぶらぶらしていくか。悩ましいところだな。

 みんな楽しそうに笑っている。貴族ばかりが通う魔導学園、それなりにプライドの高い子もいるだろう。
 そういった子が衝突しない、なんて確証はない。けど、学園内はわりと平和だ。

 それだけ、生徒たちをまとめている人たちや環境がすごいってことだろう。

「ぼー」

「ん?」

 ふと、視界の端に映り込む人影。
 戯れているみんなとは少し離れて、一人で座っている女の子。ラッへは、膝を抱えて座り、空を見上げていた。

 風になびく金髪に、宝石のような緑色の瞳。とてもきれいだ。
 私は、彼女の傍に近づいていく。

「ラッへ」

「あ、エラーン」

 私の声に反応したラッへは、私に向かってぶんぶんと手を降っていた。
 なんと無邪気な仕草に笑顔だろう。以前のラッへなら考えられなかったことだ。

 ……思えば、ラッへとは学園に戻ってきてからこうして二人になるのは、初めてな気がする。

「なにしてたの?」

「空見てたんだ。雲の流れ、早いなって」

「そっか」

 記憶を失ったラッへは、まるで子供のようだ。
 それまでの記憶を無くすということは、自分を構成していた全てを無くすのと同じ。こうして幼児退行してしまっても、不思議ではない。

「隣、いい?」

「もちろん!」

 ラッへの許可を得て、隣へ腰を下ろす。
 芝生がなんだか、天然の絨毯のように思えた。
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