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第十一章 使い魔召喚編
872話 紙に書いてあること
しおりを挟む図書室で、休憩がてらに水を飲みに行った。
そして席に戻ろうとしたところ、対面から歩いてきた男の子とぶつかってしまい……足元に、紙が落ちていることに気づいた。
それを拾い上げる。元々床に置いてたんじゃなければ、彼が落としたのか?
私はなんとなしに、紙に文字が書いてあったのでそれを読むと……
『魔力枯渇による種族変化について』
……私は、すぐに振り返った。ぶつかった男の子の姿を確認するためだ。
だけど……振り向いた先に、男の子の姿はなかった。ぶつかってからまだ、数秒程度だというのに。
キョロキョロと辺りを見回す。いない。カウンターを見る。いない。
本を持っていたし、カウンターで借りるのだと思っていたけど……
「……いない」
もう図書室から出て行っちゃったのか? いや、それはさすがにない。
じゃあいったい、どこに……それに、この紙。
ぶつかった男の子が落としたものとは限らないけど。なんでか、無関係には思えなかった。
「魔力枯渇による種族変化について、か……」
紙に書いてあることを復唱する。なにを驚いたって、ここに書かれてあるのはまさに私が知りたかったことだってことだ。
私が拾った紙に、私の興味を引くことが書いてある……こんな偶然、あるだろうか。
それに……
「なんか、前にも同じ事があったような」
……落ちている紙を拾い、そこに重要なことが書いてあった。それに、私はなんだか似たような経験があったことを思い出す。
あれは……そう、学園祭初日だ。私は、地面に落ちていた紙を拾った。ゴミかと思い、生徒会のメンバーとしてきちんと処理しようと思っていた。
拾ったそれは、写真で……そこに映っていたのは、私と師匠の姿だった。それは、私が師匠のところで暮らしていた時の写真だ。
なんでそんなものが、あの場にあったんだと思った。もしかして師匠が来ていたんじゃないかと、捜したけど……見つけることはできなかった。
あとになって考えると、あの写真には私だけでなく師匠が写っていたんだから、師匠が撮ったものではないんだよな。それでも、師匠である可能性が高いとは思ったけど。
……なんで今、そのことを思い出すんだろう。
「でも、これ……どうしよう」
驚きはしたけど、冷静に考えてみるとだ。私が気になっていることが紙に書いてあるからって、その先がない。
これが、魔力枯渇による種族変化について書かれた本とかならわかる。でも、紙だ。こっからどうしようっていうんだ。
ただ、捨てるのもな。それに、書いてあること自体はとても興味深い。
「魔力枯渇……魔力がすっごく少なくなることで、種族が変わっちゃうってことだよね」
ここに書かれているのは、魔力を限界まで使えばその影響で種族が変わる。そういうことだ。
もしそういう現象があるとしたら……リーフェルさんがルリーちゃんの友達である可能性が上がる。
実際、ラッへは魔力を使い切ることで記憶を失った。それはつまり、自分ではない自分になったと言える。
種族が変わるのだって、自分ではない自分になった、と言えなくもない。
「でも、そんなことが起こるなら、もっとみんな知っててもいいと思うけど」
魔力の枯渇で種族が変わるなら、そういう事例がもっとあってもいいと思う。
人は誰にも、自分の魔力の限界を知っておくために極限まで魔力を放出する。私だって経験がある。
魔力がなくなったら疲れるだけで、種族が変わるなんてことはない。
一瞬、私の記憶喪失と関係あるかもと思ったけど、もしそうなら世界中に記憶喪失の人間が溢れているはずだ。
だいたい、そんな簡単(?)な問題なら、師匠がわからないはずがないし。記憶喪失のことは伏せるにしても「魔力を限界まで放出してはいけない」とか言うだろう。
……多分。
「そもそもこんなの、適当にメモした……なんてことはないよね」
誤って落としたなら、メモしていたものという可能性もあるけど……意味のないものをメモしたりはしないだろう。
ということは、これは嘘や酔狂で嗅いたものではないのか?
もっとも、わざと落としてその後拾った人を混乱させて嘲笑うため、という可能性もなくはないけど……そんなことする理由がないしなぁ。
「……誰かが、私に向けたメッセージだったりして」
ずっと突っ立っているのも怪しまれる。なので、自分が座っていた席へと戻る。
座ってからも、紙をじっと見るけど当然変化があるわけもなく。
仮に、仮にだ。誰かが私になにかを知らせるために、これを落としたのだとしたら。その誰かは、私がなにを知りたいのか知ってたってことになる。
私がなにを調べているか。あの日一緒にリーフェルさんと話したクレアちゃんやルリーちゃんなら気づきそうだけど、だとしてこんな回りくどいことをする意味がない。
「んぁーっ、わっかんない」
誰がなんのために紙にこんな文字を書いたのか。そして私が拾ったのは偶然かそれとも?
考えても、答えは出てこない。そのため、一旦考えることをやめにする。重要なのは、この紙を持っていた人物の意図ではなくて。
この紙に書いていることが、果たして真実なのか。そして真実だとしたら……いろいろ納得いくことも、あるわけで。
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