史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第十一章 使い魔召喚編

876話 エランとラッヘ、手合わせの時間

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 ラッヘから私に、手合わせの申し出があった。
 私としては断る理由もないし、受け入れることに。このまま中庭でやると、騒ぎになるだろうし……

 私たちは、訓練所に来た。この時間だし、人もまばらだ。それに、他にも訓練をしている人もいる。
 その人たちの邪魔にならないように、私たちは端の方へ。

「でも、まさかラッヘから手合わせしたいなんて言ってくれるなんて」

 移動しながら、話す。

「いつかやってみたいと思ってたんだよね。迷惑じゃなかったかな」

「全然」

 なんというか、こういうの珍しいかもな。ダルマスとの時は授業の一環ではあったし、ゴルさんの時はワタシから申し出た。
 相手から私にこういったことを申し込まれるというのは、新鮮な感じ。

 私とラッヘは互いに向き合い、距離を取る。記憶を失っていてもその実力までなくなっているわけではない。
 それに、記憶がないまっさらな状態だからこそ……純粋だからこそ強くなる力というのもある。

「それで、手合わせって言うからには……いくつか禁止しておいた方がいいこともあるのかな?」

 これは試合や決闘ではない。互いに全力でぶつかる必要もない。
 手合わせだ、勝負ではあるけど競争やゲームの意味合いが強い。

「うーん、そうだなぁ」

 ラッヘは顎に指を当て、少し考える。

「お互い使い魔はなしで。だってあのおっきなクロガネ出されたら、私に勝ち目ないもん」

 ある意味予想していたことを、ラッヘは苦笑いを浮かべながら言う。
 私だって、同級生との手合わせでクロガネを召喚するつもりはない。さすがにそこまで勝利にこだわることはしないよ。

 じゃあ、ラッヘは使い魔オーケーで……と言っちゃうのは、ラッヘを軽んじることになる。それは、私だっていやだ。

「あと、手合わせでは魔術は使用禁止だったっけ」

「あ、そうだったね」

 立ち会いが必要な試合や決闘とは違い、手合わせは気楽なもの。なので魔術なんかはなし。
 そもそもみんながみんな魔術を使えるわけじゃないし、立ち会いもいない中で魔術を使って惨事が起きたら大変だもんな。

 というわけで、魔術と使い魔はなし。ま、だいたいこんな感じになるだろう。

「手合わせだから、危なくなったら切り上げるからね」

「はーい」

 立ち会いがないだけ気楽とはいえ、逆に言えばそこで発生した被害や怪我は自己負担だ。大きな怪我をして、自分含め近くに回復魔術を使える人が居なければ大変なことになる。
 訓練所だし、下手な怪我がないようにそれなりの結界は張ってあるとはいえ。

 ともかく、手合わせとはいえ、手を抜くことはしない。

「じゃ、そんな感じで。初めよっか」

「うん」

 私とラッヘは、ほとんど同時に魔導の杖を抜く。
 こうしてラッへと真剣にやり合うのは、初めてだ。魔導大会の時はバトルロイヤルだったしね。

 それにあの時は殺意マシマシだったから、きっと手合わせしようって言っても殺しに来ていただろう。

「はっ」

 ラッへは杖の先端を私に向け、先端が赤く光る。
 魔導はイメージ……イメージを具現化させ、魔力はもうもうと火の玉のように燃え上がる。

 そしてそれを放つ。だけど、一直線に向かってきた火の玉なんて怖くもなんともない。こっちも魔導で弾くなり、壁で防ぐなり、やり方はいろいろと……

「せいや!」

 私が応戦しようとしていたところ、ラッへがかわいらしい声と共に杖を振るう。
 すると、向かってきていた火の玉が刹那六つに分かれたのだ。

 六つの火の玉は、上下左右から向かってくる。それを見て私は、素早く後退するけど……

「はっ……よっ……」

 火の玉は、私を追いかけてくる。追尾機能付きってわけか。
 って言っても、自動で動いてるわけじゃなさそうだ。あっちでラッへが杖を右へ左へ動かし、それに合わせて火の玉も動いている。

 しかも、一つならともかく六つの火の玉を同時に操るなんて……

「本当に記憶なくしてるのかなっ」

 その応用力は、たいしたものだ。記憶をなくした……つまりゼロの状態から、ここまで仕上げている。簡単そうに見えて、難しいぞこれは。
 やっぱり、記憶はなくても身体で覚えたことは忘れてない……ってことかな。

「!」

 火の玉の動きを操れるなら、防壁を張ってもかわされるだけだ。なら……

 私は自分の脚を魔力強化し、走る速度を上げる。
 とはいえ、なにも火の玉から逃げ切るためのものではない。これは、自分の中で魔力を練り上げる時間を稼ぐためのものだ。

 走っている間、集中し魔力を練り上げていく。
 ちょっと、試してみたいことがあるんだよねー。

「そいや!」

 立ち止まり、振り向きざまに杖を振る。それは最低限魔力強化はしているけど、剣代わりにしているわけじゃない。
 杖が、火の玉の一つに当たる。すると、火の玉はしゅっと消えたのだ。

「!?」

「よし!」

 成功したことに拳を握り、二つ三つと杖をぶつける。
 魔力強化した杖で火の玉を弾き飛ばした……わけではない。これは、別の魔導だ。
 そう、まるで火の玉が杖に吸収されたかのように。

 このまま全部火の玉を……と四つ目に杖をぶつけたところ、接触部位がチカッと光る。

「やばっ……」

 と、思った瞬間。バチンッ、と音が響くと接触箇所を中心に小さな爆発が起こる。
 それに吹き飛ばされた私は、尻もちをついてしまう。うぅ、おしり打った……

 なおも迫る二つの火の玉は、魔導で風を起こすことでかき消した。

「っつつ……やっぱ、ピアさんみたいにうまくはいかないなぁ」
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