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転生魔王は友達を作る

視線の正体

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 視線を感じるようにはなってそれなりに経つが、視線の主はなにかを仕掛けてくるわけではない。
 敵意も、今のところは感じない……
 それとも、敵意をうまく、隠しているだけか?

 正体もわからぬ視線に、正直いい気はしないな……
 なんとか、視線の主を引っ張り出せないだろうか。

「真尾ー。そうしたんだよしんきくせえ顔して!」

「いや……お前は、悩み事がなさそうでいいなと思ってな」

「いきなりディスられた!?」

 ……視線が、消えた。
 視線を感じるのは、ほとんど俺が一人でいる時が、多い。
 これまでは、視線の中にたまたま俺がいる可能性も考えたことはあったが……

 やはり、視線の主は俺だけを、ターゲットにしている。

「他のクラスか……」

 あるクラスと一緒になるときに、視線を感じる。
 つまりは、そのクラスに視線の主がいるということだ。

 本人も、その可能性には当然気付いているはず。
 隠れて俺を見張るつもりなら、他にいくらでもやりようはある。

 つまり、視線の主は、自分の正体を隠すつもりがない?
 俺に見つかってもいいと……いや、むしろ見つけてみろと挑発している?

「どの生徒が……」

 教員、という線はないだろう。
 体育の教員は共通だし、教員が犯人ならばもっとバラけたタイミングで視線があっても良い。

 もっとも、あるクラスに犯人がいると思わせるために、わざとそのクラスと一緒のときに視線を送っている可能性もなくはないだろうが……

 その場合、俺を混乱させる意図になる。
 これに、混乱させる意図は見受けられない。

「どうしたんだよ真尾ー、さっきから黙って。
 あ、もしかして別のクラスに、かわいい子発見しちゃったとか?」

「アホ抜かせ」

 こっちが真剣に考えているというのに、このアホは……
 第一、サナ以外の女にうつつを抜かすほど、俺は愚かではない。

「まあまあそう言うなって。
 ほら、あの子とかあの子とか……あ、あの子もレベル高い!」

「……」

 目移り、してるな。
 「彼女できない~」とぼやいていたことがあるが、彼女できないのはそういうところが原因なのでは?

「あ、ほら見てみろよ!
 すげーかわいい子いるぜ!」

「だからうるさ……」

 鍵沼に無理やり顔を動かされ、俺は視線を向ける。
 その瞬間、俺は目を見開いた。

 そこにいたのは、一人の女子生徒だ。
 茶髪を後ろで一本に纏め、あいとはまた違ったツリ目がちの目。それに、背が高い……男子の平均くらいあるんじゃないか?
 凛とした立ち姿……

 確かに、周りの生徒に比べ一線を画すほどの、存在感だ。
 だが、俺が目を奪われたのは、決してその容姿に見惚れたからではない。
 アレも大したものだが、さなに比べれば天と地……

 いや、そうではなく。

「……見つけた」

「んん?」

「あいつか」

 これは、なんというタイミングか。
 たまたま鍵沼に見せられた女が、視線の主だ。

 女の視線は、俺を向いているわけではない。
 むしろ、今は俺に背を向けてすらいる。

 だが、わかる。

「それくらいで、俺を誤魔化せんぞ」

「おい、どうし……お、おい?」

 戸惑う鍵沼をその場に残し、俺は女の所へと向かう。
 今は、体育の中の自由時間……幸運にも、自由に動いたところで咎める者は、いない。

 みな、自分のことに集中していてこちらを気にしている者も、いないしな。

「おい」

「……ん?」

 俺の呼びかけに反応し、女は振り向く。
 その際、髪が揺れた。

 女は俺を見据え、俺も女を見据える。
 初対面のはずだが、どこか初めて会う気が、しない相手だ。

「お前か、ずっと俺のことを見ていたのは」

「……なんのことかな」

「とぼけるな」

 女は、落ち着いた様子だ。こうして俺を前にしても、動揺の欠片も見せない。
 しらを通しきれば、ごまかせるとでも思っているのだろうか?

 だが、俺はそう簡単にはごまかされてはやらん。

「少し、顔を貸してもらおうか」

「……いいよ」

 女は、にこっと笑う。
 屈託のない笑顔ではなく、微笑といった感じだ。

 初対面のはずの俺に話しかけられ、いきなりふたりきりにという言葉にも、拒否感を示さないとは。
 やはり、俺に話しかけられるのを待っていた?

「あっちだ」

「校舎裏? わー、いきなり女の子を連れ込むなんて、やらしーなぁ」

「……」

「なんか反応してよぅ」

 悪いが、軽口に付き合うつもりはない。
 単刀直入に、行かせてもらおう。

「お前は、何者だ?」

 校舎裏にて、ふたりきりになったのを確認し……俺は、女に向き合う。
 女は、相変わらず微笑を浮かべている。

「何者……って、物騒だなぁ。でも、お互いの名前も、知らないもんね?
 じゃあ自己紹介しよう、私は……」

「そんなことはいい。
 俺を観察するような視線、なにが目的だ?」

 ここまで来て、意味のない会話に時間を使うつもりはない。
 女の名前以上に、気になるのはその正体だ。

 取り付く島がないと感じてか……女は、小さくため息を漏らした。
 そして、微笑をさらに、深め……口端を、釣り上げて。

「あらら、気づかれちゃったんだ」

 まるで、いたずらをした子供が、いたずらが見つかったときのような……
 そんな表情を、浮かべていた。
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