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転生魔王は友達を作る

それは意外なる再会

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 この数日、俺に視線を向けていたのはこの女で間違いない。
 俺が間違えることはないし、なにより今、この女は認めた。

「そっかー、わかってしまったか。
 さすが、というべきかな」

 女は、とぼけたように笑う。
 だからこそ、俺の警戒度は上昇していく。

 目的が、わからない……俺を観察するような、あの視線。

「もう一度聞くぞ。お前は何者だ」

 再度、女の正体を聞く。
 その瞬間、それまでにまにまと笑っていた女から、表情が消えた。
 そこに、あったのは……

「……っ」

 脳裏によぎる、記憶。
 俺は……この目を、雰囲気を、女を、知っている……?

 それまで、気安い同級生だった女は……一転して……

「何者だ、か……
 それは、こっちのセリフでもあるのだけどね」

 凍えるような、瞳を浮かべた。

「お前……」

「私も、まさかと思ったよ。同時に、あり得ないだろうとも……
 でも、現に私が"こう"なっているんだから、可能性はあるとも、思ってた」

 女は、話し始める。おそらく、俺にとって重要な、なにかを。
 一言一句を聞き逃さないように、俺は集中する。

 同時に、周囲への警戒も、忘れない。

「お前、まさか……」

 女の姿も、声も、俺の知っているものとは違う。
 だが、その中身は……俺は、よく知っている。
 それに、俺も中身以外は、まったく別人になってしまっているのだから。

 もう、疑うべくもない。この女は……

「どうして、あなたがここにいるの……『魔王』」

 俺のことを、そう呼ぶのは……この世界の人間では、あり得ない。
 また、俺に対して、こうも敵対心をむき出しにしてくる者は、他にはいない。

「……『勇者』か、お前」

 目の前にいるのは……かつて、俺を殺した『勇者』だ。

 先ほどまで、物静かな雰囲気だったのが、嘘のよう……
 今、俺への敵対心で、満ち溢れている。
 これだけの殺気を向けられれば、視線の主を悩むまでもなく、察知できたのにな。

「なんでお前が、『勇者』がこの世界にいるんだ」

「それは、さっき私がした質問なんだけど?」

 まったく、俺と対話するつもりはないのか……相変わらずだな。
 それでも、いきなり襲い掛かってこないのは……

「とりあえず、話を聞く姿勢はあるということか」

「……さっさと答えて」

 やれやれ、まずは話し合いの席に着かせるのも、一苦労だ。
 まずは、俺の方から話をして、対話の方向に持っていくか。

 俺は軽く、ため息を漏らす。

「俺は、お前に殺された。
 その後、目が覚めたらこの世界に赤子として生まれ変わっていた……転生、というやつだな。
 言っておくが、俺自身は転生魔術を使っていない。ゆえに、なぜ転生したのか不明だ」

「……それで?」

「予想はしているんだろう。
 俺は人間として、この世界で育ってきた。家族に育てられ、学校に行き、今では友達と呼べる者もできた」

「……人間と、して」

 転生した、と聞けば、壮絶な人生を想像してしまうが……
 俺には、別に特出しべき点はない。

 強いて言うなら、以前と違う生活スタイル、環境に初めのうちは動じたくらいか。

「お前に殺された俺だが、別にお前がいたからって復讐してやろう、とかは考えていないから、安心しろ」

「……」

「俺の話は、した。お前の話もしてもらえると、ありがたいのだがな」

 別に人の人生に興味はない。
 だが、なぜこの世界に『勇者』がいるのか。それは、無視できない問題だ。

 魔王であった俺を追ってきた……にしては、噛み合わないこともある。
 俺がここにいることに不思議がっていたからだ。
 そもそも、俺を観察するようなあの視線は、俺が魔王かそうかを判ずるためのものだろう。

 それに、先ほどの『勇者』の言葉。
 そこから予想出来ることは……

「……私も、転生したのよ。この世界に」

 やはり……
 先の『現に私が"こう"なっているんだから、可能性はあるとも、思ってた』……この言葉。
 自身も転生していると、言っているようなものだ。

 ただ、転生したとして問題は……

「お前……まさか、殺されたのか?」

 それは、許せない自体だ。
 この女は、『勇者』は仮にも『魔王』たる余を討ち倒し、殺した唯一の人間だ。
 それが、まさか俺との戦いを終えた後、別の者に殺されたとでも?

 俺を殺した女が、そんなみっともない真似を……!?

「違う」

「なに?」

 しかし、『勇者』は違うと、首を振る。
 どういうことだ、殺されたのではない?

 ……だとしたら……

「まさか、じさ……」

「そんなわけないでしょ」

 余という強敵を討ち倒したことで、生きる気力が尽きてしまった……
 そのため『勇者』は、自ら命を絶った……

 そう考えたが、これも違ったらしい。

「あなたを殺した後、私は『勇者』として祀り上げられた。
 平和な世の中、不自由ない暮らし、そして理想的な旦那……」

「……嫌味か?」

「はっ、魔王にも精神的ダメージはあるのかしら。
 ……自慢じゃないけど、充実した人生だったわ」

 自慢じゃないのか、この野郎。

 ……ん?
 充実した、人生?

「おい、それって……」

「……私は、年を取っておばあちゃんになって、孫に看取られて死んだ。
 人生、いや、天寿を全うしたのよ」

「……!?」

 ……つまり、こういうことか?
 この女は、俺を殺した後……何十年も生き、寿命が尽きるまで人生を堪能したと。
 俺が死んで……何十年も、生きていた?

 ならばなぜ……『魔王おれ』と『勇者このおんな』が、同じ時代に、同級生の姿で、存在している……!?
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