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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第60話 とりあえず戦いは終わりまして

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 現れた達志の姿に、ルーアはひどく驚いた様子を見せる。
 直撃でないにしろ、至近距離にも等しい距離での爆発を受けたのだ。平気でいられるはずがない。

 おまけに、十年の眠りにより常人よりも体の弱い達志だ。無事でいられるなど、まず考えられないのだが……

「……水?」

「いや、オイラオイラ」

 目を懲らせば、達志を覆うように水のようなものがある。
 人一人が入れる水風船……その中に達志が入っている、と言えばわかりやすいだろうか。

 その影響なのか、達志は爆発による被害を受けていない。驚くことに、水風船は喋りはじめて……
 いや、水風船ではない。

「……ライム、ですか?」

「ご名答!」

 喋り方には覚えがある。まさかと思い名前を呼んでみる。すると、水風船はどんどんと小さくなっていき……
 元の大きさに、戻った。

 達志の頭に乗っかっているそれは、間違いなくスライムのヘラクレスだった。
 つまりは、達志を守るように体を覆っていた水風船は、ヘラクレスだったのだ。

「ルーア、お前爆発魔法を……おかけでこっちはなぁ……!」

「まあまあタツ、落ち着けって。ルアちんも、オイラがいたからこその行動だったんだって。
 な?」

「……そ、そうです! ライムがいたから、大丈夫かなって!
 えぇそうですとも!」

「とんでもない嘘つきやがったな。絶対便乗したろ。そもそもヘラが水風船形態になれること知らなかったろーよ、ごまかされんよ?」

 そこにヘラクレスがいたから、爆発から守ってくれると信じて、爆発魔法を放った……とんでもない嘘をついた。
 証拠にルーアの目は、泳ぎまくっている。

 たまたまヘラクレスが達志の傍にいて、たまたまその防御力(?)が爆発の威力を上回ったから、達志は無事だったのだ。
 そうでなければ、今頃……

「まあ命あってなによりだよタツぅ」

「……っはぁあ……いや、助かったけどさ。助かったんだけどさ……
 ホントなんなんお前?」

 助かったので、文句を言うわけではない。が、これでまた、ヘラクレスの謎が一つ増えてしまった。
 防御系の魔法……というわけではないのだろう。使えるのは土属性だと言っていたし。それに今のは、魔法という感じがしない。

 となると、自前の防御力ということだろうか?
 ……謎だ。

「そんなことより、先に心配することあるんじゃね?」

「へ? ……あ、リミー!」

 ヘラクレスに指摘され、ようやく思い出す。そうだ、肝心なことを失念していた。
 なんかよくわからん力で無事だった達志と違い、リミはまともに爆発を受けているではないか。

 見ると、そこにはリミが倒れていた。黒焦げになって。

「あれ、思ったよりグロくない!」

「どうやら、リミたんから漏れてた冷気がいい感じに壁になって、爆発の衝撃を抑えたらしいな」

 駆け寄り、リミの状態を確認すると、思ったよりはひどくない。それでも黒焦げなのだから、爆発の威力の激しさを物語っている。
 達志の疑問に答えが返ってくるが、その答えで、わかったようなわからないような。
 まだ魔法のことは、よくわからない。

 ちなみに、向こうにトサカゴリラも倒れている。リミより状態がひどい。火傷もしている。
 むしろなんで火傷で済んでいるのだろう。

「ま、放っとくけど……リミ、おーい。
 ……気を失ってるだけか。それにしてもルーア、お前あれだけ魔法使うな言われてたのに……」

「いえいえ、許可が出たので。
 あの状態のリミを止めるには、とにかく大きな衝撃を与えるしかないと。で、指名されたのが、私というわけです! です!」

「セルフエコーやめろ。
 ……わからんでもないが、せめて事前に言ってもらいたかった」

 ルーアの魔法が発端でこうなったのに、事態を収めるにはルーアの魔法に頼るしかないとは……ひどいマッチポンプだ。

 ヘラクレスがいなければ、なにもわからないまま全身火傷、ひどければ死んでいただろう。
 緊急事態だったとはいえ、もう少し報告連絡相談のホウレンソウを大切にしてもらいたいと思う、達志であった。

「……う、ん……」

 それからしばらく。眠っていたリミが、目を覚ます。
 その視界の先には、白い天井。どうやら自分は今、寝転がっているようだ……それに、体の下にあるこの柔らかい感触は、おそらくベッドだ。
 そう、理解した。

 ここは、学校の保健室だ。首を動かすと、見慣れた風景、見慣れた小道具、何度か訪れたことのある部屋だ。間違いない。
 それと、なんだか手が温かい。

「わたし……」

「お、起きたか。リミ」

 自分はいったい、どうして保健室で寝ているのだろう。確か、学校に暴走族がやって来て、変なトサカがいて、それで……
 記憶を探るリミの耳に、聞き慣れた声がかかる。

 幼い頃の自分にとっての恩人であり、とても温かなそれを聞いた途端、リミは跳ねるように声の方向を見る。

「タツ……っつ」

「落ち着いて。威力が抑えられてたとはいえ、結構なダメージだったんだから」

 体を動かそうとすると、若干ではあるもの痛みがあった。それにより、リミは思い出す。
 変なトサカに達志が殴られ、それで自制が効かなくなってしまったことを。

 その後、激しい魔力に包まれたことも。

「ったくルーアの奴……いくら許可が出たとはいえ、いきなりあんな凶器ぶっ放すなんてな。結果的に人的被害はないけど、こっちは散々だっての」

「ルーア……?」

 愚痴る達志の言葉通りであれば、あの巨大な魔力の正体は、ルーアの魔法か。

 リミは、徐々に状況を理解していた。あのとき、ルーアの火属性の魔法を、直撃に近い形で受けたのだ。
 ルーアの魔法の強大さは、リミも知っている。あれを受けて、この程度の痛みとは、運が良かったのだろう。

 あのときのことは、実はあまり記憶にない。
 ただ、達志が傷つけられ、頭に血が上って、そのあとは……

「ま、細かい話は後するとして……先生呼んでくるわ」

 起きたばかりのリミに、いろいろ話をするつもりもない。達志は、保健室の先生を呼びに行くために、席を立つ。
 その際、リミの手からは温かさが離れる。

 少し寂しいと思ってしまうのは、子供のようなわがままだろうか。
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