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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第59話 大規模な魔法の脅威

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「んだこのやろう、妙な真似しやがって! おとなしくヒャッハーさせやがれヒャッハー!」

 気温の変化は、当然対峙しているトサカゴリラにも影響がある。
 だがそれに怯むことはなく、相変わらず頭の悪そうな言葉を並べている。
 その気合いだけは、素直に称賛してもいいかもしれない。

 言葉の意味はわからないが、トサカゴリラは数本の触手を伸ばす。鋭い刃ともなり得るそれは、リミへと襲い掛かっていく。
 達志の声も届いていないリミに、目の前の脅威は映っているのだろうか。

 だが……その心配は杞憂に終わる。触手が、リミからある程度の距離に近づいた途端、みるみる凍りついていく。
 絶対零度の中心に近づく度に、触手が凍りついていくのだ。

 リミはなんの動作もしていないのに、だ。

「な、なんだそりゃ……だが、お前の氷なんざ通じないぜ!」

 リミに近づいただけで凍っていくなど、それはどれほど危険なことなのか。しかし、そんなものはこの際関係ない。
 凍りついても、リミの氷程度であれば簡単に砕くことが出来る。それは先ほど実践したばかりだ。

 砕くことの出来る氷ならば、いくら凍らされても問題は……

「あ、なっ……?」

 だが、目論みは外れる。凍りついた触手が、自由にならない。氷が砕けないのだ。
 つまり、今の氷は、先ほどのものとは別物……別格ということだ。

「……あなた、タツシ様に傷を……」

 驚愕するトサカゴリラと同じ感情を、達志も抱いていた。ただただ、戦慄していた。目の前の少女の力が、すさまじいものであると。
 そんな気持ちを抱いた時、その場に小さな声が響く。それは、怒りを押し殺しているかのような声。

 ……というより、押し殺し切れていない声。

 リミの意識は今、達志を殴った男だけに向けられている。だから魔法の制御も出来ておらず、力の垂れ流しのような形になっている。
 魔法技術は学園でトップだというリミの、集中力が今切れたのだ。

「な、なんつーガキだ……」

「報いは受けてもらいますよ」

 冷や汗すら、凍る。どんどん冷気の範囲が広まっている。
 このままでは、じっとしているだけでも全身が凍りついてしまうだろう。

 その力の全てが今、トサカゴリラへ向けられようとしている。

 この触手の硬度は相当なものだ。だがそれも、今のリミの魔法の前には通用しない。
 いくら地面を陥没させられるほどの威力があろうと、凍らされ動かせなくなれば、意味がないのだから。

 凍った触手は、魔法を解除すれば消滅する。凍ったものは消滅させ、新しい触手を生み出す……これが一番の方法。
 だが、新しい触手を生み出すのにほんの数秒だが、タイムラグがある。その時間が、命取りになるだろう。

 代わりの触手を生み出そうにも、触手を増やせば増やすだけ、制御が効かなくなってしまう。
 今のリミは、トサカゴリラにとって、天敵にも等しい存在だということになる。

「あなたのその魔法も、全身も、全部凍らせて償わせて……」

 リミが、手を向ける。その先端には青白い光が集まり、すさまじい魔力が溜まっているのがわかる。達志に魔力を感じる力はないが、それでもわかる。
 それを放てば、人一人どころか、周囲の人間や草木地面すらも凍らせてしまうだろう。

 このままではまずい。そう直感した達志は、出来る限り声を張り上げる。

「おいリミ! このままじゃさすがに……」

「ファイヤー・ボム!」

 ……だがその達志の叫びは、別の叫びによってかき消された。
 それはつい数時間前に聞いた、その場でつけたであろう魔法名。そしてこの場で使えば、被害がとんでもないことになるからと、使うのを禁止されていたものだ。

 赤い火花が達志の真横を通り、それは目の前のリミへと向かう。
 狙いが目的地へと到達したその瞬間、火花は一瞬大きく輝き……膨大な魔力となって、爆発した。

「あぁああああああああ!?!?」

「おいなんだこりぎゃああああああああ!!」

「え、ちょっと待ってこれ俺までぶぁあああああああ!?!?」

 爆発は、その中心にいたリミはもちろん、対峙していたトサカゴリラ、そして近くにいた達志までをも巻き込む。
 幸い、リミから放たれる冷気によって、周囲から人は離れていたため、その他に被害のある人はいなかった。

 強大な爆発は、当然その場の全ての注目を集める。戦っていた者も、逃げ回っていた者も、全ての者が行動を忘れ、ただただ爆発を見つめていた。
 そして、爆発を起こした張本人も……

「さすがは我が魔力! 我が魔法! 我ながら惚れ惚れする威力……見たか! この力こそ、この私、ルー……」

「じゃねえよ! なにしてくれてんだこのロリ中二が!」

 自身が放った魔法の威力にうっとりとした表情を浮かべ、声高らかに自身の名を告げようとしたルーア。
 ……であったが、それはルーアに迫る叫び声によって遮られる。

「た、タツ? なぜ無事で……」

「『よくぞ』じゃなくて『なぜ』な時点で、前提から俺を巻き込むこと悪いと思ってなかっただろ!」

 それは、爆発に巻き込まれた、達志であった。
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