60 / 158
第二章 異世界っぽい世界で学校生活
第59話 大規模な魔法の脅威
しおりを挟む「んだこのやろう、妙な真似しやがって! おとなしくヒャッハーさせやがれヒャッハー!」
気温の変化は、当然対峙しているトサカゴリラにも影響がある。
だがそれに怯むことはなく、相変わらず頭の悪そうな言葉を並べている。
その気合いだけは、素直に称賛してもいいかもしれない。
言葉の意味はわからないが、トサカゴリラは数本の触手を伸ばす。鋭い刃ともなり得るそれは、リミへと襲い掛かっていく。
達志の声も届いていないリミに、目の前の脅威は映っているのだろうか。
だが……その心配は杞憂に終わる。触手が、リミからある程度の距離に近づいた途端、みるみる凍りついていく。
絶対零度の中心に近づく度に、触手が凍りついていくのだ。
リミはなんの動作もしていないのに、だ。
「な、なんだそりゃ……だが、お前の氷なんざ通じないぜ!」
リミに近づいただけで凍っていくなど、それはどれほど危険なことなのか。しかし、そんなものはこの際関係ない。
凍りついても、リミの氷程度であれば簡単に砕くことが出来る。それは先ほど実践したばかりだ。
砕くことの出来る氷ならば、いくら凍らされても問題は……
「あ、なっ……?」
だが、目論みは外れる。凍りついた触手が、自由にならない。氷が砕けないのだ。
つまり、今の氷は、先ほどのものとは別物……別格ということだ。
「……あなた、タツシ様に傷を……」
驚愕するトサカゴリラと同じ感情を、達志も抱いていた。ただただ、戦慄していた。目の前の少女の力が、すさまじいものであると。
そんな気持ちを抱いた時、その場に小さな声が響く。それは、怒りを押し殺しているかのような声。
……というより、押し殺し切れていない声。
リミの意識は今、達志を殴った男だけに向けられている。だから魔法の制御も出来ておらず、力の垂れ流しのような形になっている。
魔法技術は学園でトップだというリミの、集中力が今切れたのだ。
「な、なんつーガキだ……」
「報いは受けてもらいますよ」
冷や汗すら、凍る。どんどん冷気の範囲が広まっている。
このままでは、じっとしているだけでも全身が凍りついてしまうだろう。
その力の全てが今、トサカゴリラへ向けられようとしている。
この触手の硬度は相当なものだ。だがそれも、今のリミの魔法の前には通用しない。
いくら地面を陥没させられるほどの威力があろうと、凍らされ動かせなくなれば、意味がないのだから。
凍った触手は、魔法を解除すれば消滅する。凍ったものは消滅させ、新しい触手を生み出す……これが一番の方法。
だが、新しい触手を生み出すのにほんの数秒だが、タイムラグがある。その時間が、命取りになるだろう。
代わりの触手を生み出そうにも、触手を増やせば増やすだけ、制御が効かなくなってしまう。
今のリミは、トサカゴリラにとって、天敵にも等しい存在だということになる。
「あなたのその魔法も、全身も、全部凍らせて償わせて……」
リミが、手を向ける。その先端には青白い光が集まり、すさまじい魔力が溜まっているのがわかる。達志に魔力を感じる力はないが、それでもわかる。
それを放てば、人一人どころか、周囲の人間や草木地面すらも凍らせてしまうだろう。
このままではまずい。そう直感した達志は、出来る限り声を張り上げる。
「おいリミ! このままじゃさすがに……」
「ファイヤー・ボム!」
……だがその達志の叫びは、別の叫びによってかき消された。
それはつい数時間前に聞いた、その場でつけたであろう魔法名。そしてこの場で使えば、被害がとんでもないことになるからと、使うのを禁止されていたものだ。
赤い火花が達志の真横を通り、それは目の前のリミへと向かう。
狙いが目的地へと到達したその瞬間、火花は一瞬大きく輝き……膨大な魔力となって、爆発した。
「あぁああああああああ!?!?」
「おいなんだこりぎゃああああああああ!!」
「え、ちょっと待ってこれ俺までぶぁあああああああ!?!?」
爆発は、その中心にいたリミはもちろん、対峙していたトサカゴリラ、そして近くにいた達志までをも巻き込む。
幸い、リミから放たれる冷気によって、周囲から人は離れていたため、その他に被害のある人はいなかった。
強大な爆発は、当然その場の全ての注目を集める。戦っていた者も、逃げ回っていた者も、全ての者が行動を忘れ、ただただ爆発を見つめていた。
そして、爆発を起こした張本人も……
「さすがは我が魔力! 我が魔法! 我ながら惚れ惚れする威力……見たか! この力こそ、この私、ルー……」
「じゃねえよ! なにしてくれてんだこのロリ中二が!」
自身が放った魔法の威力にうっとりとした表情を浮かべ、声高らかに自身の名を告げようとしたルーア。
……であったが、それはルーアに迫る叫び声によって遮られる。
「た、タツ? なぜ無事で……」
「『よくぞ』じゃなくて『なぜ』な時点で、前提から俺を巻き込むこと悪いと思ってなかっただろ!」
それは、爆発に巻き込まれた、達志であった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
314
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる