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第二章 異世界っぽい世界で学校生活

第61話 目覚めたリミたんとトサカの処遇

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 気になることは、いろいろとある。
 達志に他に怪我はなかったのかとか、結局あの暴走族はどうなったのだろうとか、発端となったルーアはどうしているのかとか……
 自分が意識のない間の、出来事が。

 いろいろ考えはあるけれど。
 部屋を出ようとする達志を見て、リミはとっさに口を開いた。

「タツシ様!」

「うん? なんだい?」

「えっと…………すみませんでした」

 声をかけたはいいが、言葉に詰まる。うまく出てこない。
 それでもリミは、今感じていることを、素直に伝えなければならない。これは、起きて真っ先に伝えないこといけないことでもあったのだから。

「私のせいで、その……怪我……はしてないですけど。えっと……」

 暴走しかけたリミを止めるために、ルーアが魔法を使った……というのなら。そこにはルーアに罪はない。
 原因を作ったリミに、罪があるといえる。

 ぼんやりとしか、覚えていない。でも、自分から漏れ出した魔力はきっと、近くにいた達志にも影響を与えたはずだ。

「なにが、すみませんって?」

「えっと……あ、わ、私の魔力の制御が効かなくなって、タツシ様、きっと……」

「……俺のために怒ってくれた……ってことだよな。そう思うと、こっちとしても素直に怒れないっていうか」

 素直な謝罪。しかしどうやら、それは達志には通用しなかった。
 確かに、あのままリミを放置すれば、あの場はとんでもないことになっていた。しかし、だ。
 リミがああなった理由は、いわば達志のため、だ。

 自分のために怒ってくれた女の子を怒るなんて、達志には出来なかった。

「それは……でも、私の魔力が暴走して……」

「謝るってなら、それは他の人たちにしてくれ。まあ、みんなひんやりしたくらいだから謝罪は必要ないと思うけどね。
 とにかく、俺のために怒って……まあその結果があれなんだから笑えないんだけど……それでもこのことで、俺からリミを責めることはないよ」

 自分を責めるリミだが、それを達志が責めることはない。
 達志からすれば、自分のために怒ってくれた女の子が自分を責めているところで、どうしたらいいのか、わからないのが本音だ。

 リミが怒ったことで、達志に怪我があったわけでもない。まあ、危うく凍えてしまいそうになったり、黒焦げになってしまいそうではあったが。
 後者はルーアのせいだし。

「他の人たち……あの、みんなは? あの変なトサカ集団は?」

 自分を責め、達志に謝罪し、しかしその謝罪は受け入れられず……いろいろと頭が回らない中で、リミは聞く。
 先生を呼びに行こうとした達志を、引き止める。それを悪いとは思いつつも。

 リミがトサカゴリラと対峙してから意識を失い、次に覚醒したのが保健室だったという疑問。

 ちなみにリミの中では、暴走族=変なトサカ集団となっている。
 トサカゴリラのトサカや、部下達のモヒカンも、『変なトサカ』ということで統一されているらしい。

「うーん、まあ伝えとくか。気になって仕方ないって顔してるし」

「そんな顔は……してないと、思いますけど」

 達志は、保健室から出ていこうとしていた足を戻し、先ほど座っていた椅子に戻る。
 ベッドの側に置いてある椅子に、座る。

「まあ、リミも起きたばっかで疲れてるだろうし、ざっくり言うとだな。リミが気を失った後、トサカゴリラも同じく気絶、それもリミより重傷。
 ぶっちゃけ瀕死。すなわち戦闘続行不可能。それによって暴走族の統制が崩れる……なんてことはなかったけど、それでも頭を失った組織は脆くなる。結局逃げたよ」

「そうだったんですか……あの、怪我人は?」

「した人もいたけど、由香……如月先生や、保健の先生のおかげで事なきを得てるよ。
 ま、トサカゴリラだけは瀕死の状態から動ける程度に治した、って感じだけど」

「そうなんです……え?」

 リミが意識を失ってからのこと、そして怪我人がいないことを知らされてほっとする。
 だがその中に、聞き逃してはいけない言葉があった気がする。いや、あった。

「え、タツシ様……あの変なトサカ、え、治したって……え?」

「あ、これも言っとかないとな。トサカゴリラ、生け捕りにしたんだわ」

 さらっと。まさかの生け捕り発言。
 それは、学校という枠の中では絶対に聞くはずのないはずの言葉だ。

 リミが唖然として口を開ける中、達志は続ける。

「あの暴走族も必死で取り返そうとしたんだけどさ、マルちゃんとかムヴェル先生の戦いぶりがすごくてな。ちょっと引くぐらいに。そんで逃げてった。
 ぶっちゃけこっちが決め手に欠けてたのは、トサカゴリラの触手が原因だったんだよ。あれに阻まれて、攻撃できなかった。
 いやあ、トサカゴリラなかなかにやる奴だったみたいだ」

「な、なるほど……?」

 困惑するリミであったが、達志はありのままを伝える。頭を失った組織も奮闘したが、所詮厄介なのは、頭だけだったということだ。
 結果として、組織の頭は生け捕りに。残党兵は追い返したということだ。

「でも、それじゃ……あの変なトサカを取り返すために、また襲ってくるんじゃ?」

「だろうな。だからトサカゴリラが目を覚ましたら、もう来んなって約束させる。ま、そのためにはこの騒動の発端にごめんなさいしてもらわないといけないけどなぁ」

 今達志の頭の中には、眼帯少女の顔が浮かんでいることだろう。
 彼女は今頃、ムヴェル先生やマルクスにお灸をすえられているはずだ。

 とにかく、今出来るのは負傷者の回復や、破壊された建物の復元。
 もっとも、これは魔法によりリミが目覚めた時には、ほとんど終わっていたのだが。

「じゃあリミ、今度こそ先生呼んでくるから、待っててな」

 一連の流れを話し、今度こそ達志は部屋を出ていく。一人残されたリミは、自身の左手を見つめる。
 目覚めた瞬間は、達志が繋いでくれていたため、ぬくもりを感じていた。今はもうない。

 その手を、右手で包み込む。嬉しくあり……そして悲しくもあるのは、なぜなのだろうか。
 達志は許してくれたが……魔法の暴走は、一歩間違えれば取り返しのつかないことになってしまう。

 一番怒られなければならない人に許されてしまった、というこのどうしようもない感情の名を、今のリミはまだ、知らない。
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