119 / 522
氷狼の村
殺意の正体
しおりを挟む突如として感じた、殺意の感情。それは間違いではなく、この村にいる何者かの仕業だ。
それを、私は感じた。だからこの村で、私たちに殺意を向ける何者かがいると……ユーデリアに伝えた。その結果……
「グルルルル……!」
「っ、すごい、風だ……!」
彼のトラウマを呼び起こしてしまう事態となり、猛烈な風が……吹雪が、ユーデリアを中心に吹き荒れる。なんてこった……!
「ヒィイイイン!」
「いけない……!」
このままじゃ、私はともかく間近にいるボニーは、氷付けになってしまう。なのでそれを防ぐために、ボニーを連れて一旦ユーデリアから距離をとる。
「近づいちゃ、ダメだからね」
「イィイン」
この冷気……私が過去で見た、『近づくものを瞬時に凍らせる』ものではないようだ。これまでに、マルゴニア王国や別の国で見せたのと、同じタイプ。
ただ……制御できずとも意識があった状態とも、意識的に制御できた状態とも、違う。意識はなく、制御もできていない……そんな、状態だ。
「勘弁してよ……」
意識なし、制御不可……これじゃあまんま、過去で見たあの冷気と同じ状態じゃないか。つまり、この冷気がいつ『近づくものを瞬時に凍らせる』に変化してもおかしくない状況ってことだ。
人も、人を燃やす炎も、瞬時に凍らせ砕いた冷気。あんなのをまともに浴びたら、私だってどうなるかわからない。
そうなる前に、ユーデリアを正気に戻したいとこだけど……
「ガルルル……」
「近づいたら、問答無用で襲われそう……」
今のユーデリアに近づくのは、相応の危険を伴うだろう。たとえ冷気に瞬間的な殺傷能力がなくても、ユーデリア自身に攻撃される可能性だってある。
正直今なら、ユーデリアと戦っても負ける気はしない。私は腕が一本ないが、ユーデリアは意識自体がない。片腕であろうと、意識のない相手くらい簡単にへし折れる。
おまけに、今の私には魔力がある。魔法が使えるのだ。半分の威力とはいえ、『魔女』エリシアの魔法……半分でも充分すぎる威力だ。
「もしくは……」
ユーデリアを正気に戻すには、手っ取り早くぶん殴るか。それとは別に、もう一つ考えがある。
それは、ユーデリアがこうなった原因……殺意を持った人物を探しだし、怒れるユーデリアの前に差し出す。そうすれば、怒りの感情はすべてそいつに向けられ、見境ない冷気も収まる。はず。
え、そうなったら、ユーデリアの前に差し出された奴が危ないって? 知ったことじゃないね。私たちに殺意を向けるのが悪いし、そもそもこの世界の人間がどうなろうと知ったことじゃないし。
ただまあ……ぶっちゃけ、どっちもユーデリアが正気を取り戻す確信はない。これが問題なわけだけど。
「グルルァアア……!」
「四の五の考えてる必要はない、か」
考えてる時間が、もったいない。なんかユーデリアの唸り声が大きくなってるし、吹雪の勢いも増している。
こうなったら、とりあえずユーデリアを一発ぶん殴って、正気に……
「ひ、ひぃい! な、なんなんだよ!?」
「!」
拳を握り、構えた……ところへ、どこからともなく情けない男の声が届く。それは……先ほど、殺意を感じた場所から聞こえてきた。そう、殺意を感じたのは、あの方角、場所からだ。
すぐに視線を向ける。そこには一人の男が……しりもちをついて、震えていた。あいつが、殺意の正体? とてもそんなタマには見えないんだけど。
「……ま、なんでもいいか。ラッキー」
考えてみれば、この村に人がいる時点でおかしいのだ。生き残りはいないし、ここは氷狼の村。地図にも記されていないこの場所は、誰でも来られる場所ではない。
私は、ユーデリアの案内で。バーチは、"あの人"からの情報で。"あの人"がどうやって氷狼の村の居場所を知ったのかは定かじゃないけど……今は、置いておこう。
つまり、この村にいる時点で、そいつはただの人間じゃないってことだ。
「くそっ、聞いてた話とちが……」
「どーもー、こんにちわー」
男は情けなく震え、顔が青ざめている。私はそんな男の前に立ち、とりあえず笑顔を浮かべてみる。
殺意の主を探し出すより、ユーデリアをぶん殴った方が早い。そう思っていたのだけど、まさか主自ら出てくるなんてね。
「ひぃ! な、なんだお前は……」
「それはこっちの台詞なんだけど……あんた、誰?」
震え、怯え、もはや立てないほどに精神が参っている……ように見える。だけど……
「た、助けてくれぇ!」
……これは、フリだ。震え、怯え、もはや立てないほどに精神が参っている……フリ。よくできた演技だ。普通の人なら、騙されてしまうレベル。
この男……私があと、一歩でも近づけば、腰に差している剣で即座に斬りにくる。演技も、殺意を隠すのもうまい。実力も高い。けれど……
「まずは確実に、動けなく……」
「……!」
近づく前に、完全に動きを封じてしまえばこちらのものだ。そう思い、魔力を発動させ……男に金縛りを、かける。
……はずだった。
キィン!
「ちっ!」
私の魔力を感じたのか、体が動かなくなるよりも早く、男は私へと剣を向ける。しかし、寸前のところで空間に防壁を張るのに切り替え、剣擊を防ぐ。
こいつ……魔力の動きを、読み取って反撃してきた。何者だ……?
0
あなたにおすすめの小説
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる