異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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世界への反逆者 ~英雄と師~

限界を迎える体

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「ぐぅ、ふっ……!」


 めり込んだ拳は、確実にダメージを与えていく。今まで平気そうにしていた顔が、痛みに歪んでいるのがわかる。

 さっきまで平然としていた表情が、歪む。ダメージが通っているように見えるのは、呪術が消えた異変と関係があるのだろうか……

 異変というなら、呪術の存在自体が異変に分類されるのだとは思うけど。

 そういえば、私も呪術の関係で、痛みを伴うこともあったっけ。これがそういうことなら……別に、私だけが痛いってわけでもないのか。


「ふん、ぬ!」


 腹部にめり込んだ呪術の腕に、思いきりの力を集中させる。このまま、吹き飛ばす……のではない。もっと、もっと深い一撃を与えるために……


 ズボッ……!


「か、ふっ……!」


 呪術の腕は、師匠の腹部を貫通していく。鉄のように、とは比喩だが、それでもかなり硬かった師匠の体……それを、ついに貫通した。

 それは呪術の腕の殺傷力がすさまじいからか、それとも師匠の体が弱って防御力が低下しているからか……それは、わからないけどとにかく。

 黒い腕は、貫通した手先にべったりと血をつけている。


「このまま……!」


 腕を貫通させたまま、走る。師匠は抵抗しようにも、腹部を貫通させられたダメージからか体が弱ってしまったからか、たいした抵抗はできないようだ。

 そのまま……腹部に穴が空いたままの、師匠を岩壁へと、打ち付ける。岩が抉れてしまうほどに。


「ぐっ……!」

「死者は、あの世に帰れ……!」


 誰がなんの目的で、死んだ人間を生き返らせたのかわからない。ただのきまぐれ、でないことは確かだろう。

 いろいろ聞いてみたいこともあるけど、この男が口を割るようなことはないだろう。なら、自分の中で推論を立てていくしかないだろう。

 この男を生き返らせた人物と、ユーデリアの故郷を襲った連中の後ろにいる人物と。それが同一人物……いや、少なくともなんらかの繋がりがあることは考えてもいいだろう。

 この男からなにか手がかりでもと思ったけど、結局謎を増やしただけ……


「……ンズ……」

「ぃっ……」


 ボソリと、師匠の口が動く。まだ、生きているのか!

 生前からもしぶとかったけど、それは生き返っても変わらないのか……


「んぐっ……お、おぉお……」

「ちょ、ちょっと……!」


 腕が貫通したままの腹部。本来生きているどころか、動くことすらままならない深手だ。なのに師匠は、腕を動かし……自らの腹部に突き刺さった黒い腕を、ゆっくり引き抜いていく。

 こちらがいくら力を入れようとも、止められない。より深く突き刺そうとしても、それ以上の力で押し返される。この深手で、まだこんな力が残っているのか……!


「ぬぅ……ぉりゃあぁ!」

「ぅわっ」


 黒い腕を引き抜かれ、そのままぶん投げられてしまう。とはいえ、ただぶん投げただけだ……着地することに問題はない。

 ……師匠の腹には、確かに穴が空いている。血も、ドバドバ出ている。生き返った死者でも血は通っているのかとか、そんな今はどうでもいいことが頭に浮かんでくる。

 目は充血し、明らかにおかしい。それは体への深手が原因というわけではなく、もっと別のなにかが……


「アン、ズ……アンんズぅうう!」


 目を血走らせたまま、私に向かって迫ってくる。その動きは、驚くほど直線的だ。隙だらけ……それとも、そう思わせておいてなにかを狙っている?

 ……試してみるか。


「えいや!」


 地面の砂を素早く取り、それを向かってくる師匠に向けてぶん投げる。本来ならば、こんな目潰し……通用するはずもない。しかし……


「ぐぉ、ぉっ……」


 避けるでも、防御するでも、なにか別の行動を起こすでもなく……目潰しの砂が、師匠の目元へと降りかかっていく。それにより、動きを止めた。

 こんな簡単な、目潰しをくらってしまうなんて……本来の師匠ならばどころか、こんなの誰でも対処するだろうものだ。それをなんで、今頃……


「……もう、限界なんじゃない?」


 自然と、そんなことを言っていた。それが誰に向けたものなのか、師匠に向けたものなのか、それとも自分でただ呟いただけのものなのかは、わからない。

 なんで、そんなことを言ったのかも。こんなことを、言うのかも。


「その体は、もうもたないよ」


 なんらかの方法で生き返らせられて、呪術という力を与えられて……あれだけ動き回って、攻撃して、攻撃を与えられて。

 動かなくなっていた体は、本来もう動くようなものじゃない、禁術ってやつがどんな力かはよくわからないけど、死者を生き返らせておいて生前とまったく同じ動きをさせ続けるなんて、無理な話だろう。

 いかに『剛腕』と呼ばれた男であっても。もう、彼の物語は終わっているのだ……


「く、そ、目が……それに、体も思うように、動かん……どうなってる!」


 その事実に、本人さえも気づいていないのだとしたら。死んで、生き返った師匠……その、彼の記憶はいったい、どこで止まっているのだろう。

 私や、勇者パーティーのみんなのこと。魔王討伐の旅のことも、覚えているようだった。その後のこと、私があちこちを破壊して回っていることや、グレゴやエリシアを殺したことは、師匠が死んだあとのことだし知るよしもない。

 誰かに……師匠を生き返らせた人物に、聞いたのだろう。

 ならば……あの師匠は、自分が死んだ瞬間のことを覚えているのだろうか。死んで、生き返って……動かなくなったはずの人生に、無理やり続きを歩かされている。

 それはもしかしたら、考えているよりもずっと……恐ろしいことなのかもしれない。


「……なんか、やだな」


 ゆっくり、師匠に近づいていく。

 死んだ者を生き返らせる……それはこちらの都合で、本人にとっては、望まぬ景色なのかもしれない。どころか、生き返った本人は果たして、生前と同じといえるのだろうか。

 生前と同じ意識を、人格を、持っているのだろうか。そうでないなら、これは作られた仮初めの……?


「どっち、なんだろうね」


 苦しむ師匠の前で、立ち止まる。そこには、私が尊敬した男の姿はなく……死んでもなお動かされ、人としての尊厳を踏みにじられた、哀れな男の姿だった。
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