何でもは知らない。この世界のことだけ。

佐イツキ

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1章 大森林の支配者

5話 激痛と世界の記憶

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 暗闇からゆっくりと抜け出るようないつもの目覚めとは違い、今回の目覚めは頭の内側から湧き出てくるような激痛と共に訪れた。

「ぐあ、何だ……! 頭が割れるみたいだ!」

 何度も何度も鈍器で殴られるような痛みに襲われる度、俺の中に今まで存在しなかった知識が植えつけられていくのがわかる。
 世界の成り立ちから始まり、生物の進化の過程や世界全ての天候が昨日はどうだったかという事柄までが俺の中に激痛と供に植え付けられていく。

 そうして痛みによる失神と覚醒を繰り返し、痛みが引いて落ち着いたのは1時間が経ってからだった。

「あぁ、死ぬかと思ったわ……」

 既に一度死んでこの世界に来ているわけだが、まさかいきなりこんな目に合うとは思わなかった。

「とりあえず、喉が渇いた。水だ。水を飲もう」

 体力を消耗した状態で足場の悪いこの森の中を水場まで向かうのは少々だるいが致し方ない。

「どうせならもっと気の効いた場所に転移させてくれてもいいじゃないか、アルマ様め」

 アルマ。それは俺をこの世界へと導いた僕っ娘神様の名であり、この異世界『アルグランデ』では創造神として多くの国に崇められている。

 スキル『世界の記憶アカシックレコード』の効果により、俺はあの僕っ娘神様がアルマという名前である事、今自分がいる場所がフューズ大森林と呼ばれる強大な魔物ひしめく森の端っこであり、ここから西へ数分歩いた所に飲み水に適した水場がある事を知った。

 ちなみに、このフューズ大森林。比較的弱い魔物が生息している端っことはいえ、グレイウルフやレッドベアといった肉食の魔物も生息しており、もし俺が激痛でのた打ち回っていた時に遭遇していたら成す術なく食われていた事だろう。運が良かったのか、アルマ様が配慮してくれたのか……。配慮してたら最初からこんな危険な森の中なんぞに送らないわな。運が良かったんだ。

 そんな危険な魔物の動向も探ることなく把握できるおかげで、水場までは何の問題もなく辿りつくことができた。
 飲み水としても問題のない澄んだ色をした水を手で救い口に含み飲み込む。

「ふぅ……。くそっ!」

 喉を潤し、一息ついた直後に俺は悪態をつく。

 俺がこの世界の事で知った知識は神様の名前や地形やら魔物の種類だけじゃない。俺が知ったのはこの世界で起きた全ての出来事だ。
 
 幼馴染の二人が結婚して幸せな家庭を築いた。
 
 とある女冒険者がオークと呼ばれる魔物に敗北し、連れ去られ苗床として死ぬまで使われた。

 誕生日を迎えた男の子がずっと欲しがっていた玩具をプレゼントしてもらった。

 商売に失敗した商人が家族諸共奴隷として売られ悲惨な最期を迎えた。

 戦争に行った一人息子が無事に帰ってきて、戦果を挙げた事で褒章を受けた。

 幸福な出来事、不幸な出来事。全てを知った。

 そしてーー

 とある少女が大好きだった父の仇を取るために大量の、本当に大量の命を奪った。

 人族を始め、獣人族や妖精族に魔族といったアルグランデの主だった知的生命体の総人口が半減するほどの大事件。

 彼女は『破滅を齎した大魔王』として今の時代に名前を残している。
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