とある作家の執筆おやつ。

はなえ

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海苔しらすトースト、カフェラテ、下読み②

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がんばって小説を書いて文学賞やらコンクールに応募したって、どうせちゃんと読んでは貰えなくて、一次選考なんてあらすじだけ読んで決めてたりするんじゃないの?

だって、あんなにたくさんの応募作を最初からから最後までぜんぶ読んでるわけない。



なーんて思っていた過去の自分をブン殴ってやりたい。


段ボールから紙のたばを1つ取り出す。横向きにして右上「ダブルクリップで閉じられた、どこかの誰かが書いた小説。

『金沢おにぎり堂へようこそ!』

おおーっ、グルメ&ご当地モノ!!

これは楽しいヤツ!!!


読書の時は、ステンレスの保温できるマグカップに熱々の紅茶を入れてちびちび飲むのが好みだけど、これは大事な大事な応募作。
万が一にもマグカップを倒してる汚すなんてことになったら大変なので、冷蔵庫にチルド飲料を取りに行く。

甘いヤツがいいな……。

しっかり脳みそ働かせて読まなきゃ。



他のレーベルがどうかは知らないけど、私がデビューさせてもらった所は年に2回、大きなコンテストをやっている。
で、そのコンテストの一次審査は「下読み」と呼ばれて、売れてなくて暇そうな作家が担当する……って言ったら、他の下読みしてる人に失礼か。

まぁでも、シリーズものやってて忙しい作家さんには声かけてないだろうから、やっぱ売れっ子作家はやってないだろうと思う。
本気の大御所とか売れっ子は、名前出して最終審査の審査員とかってパターンもあるし。

私に初めて下読みの話が来たのも、改稿につぐ改稿を経てようやく世に出たデビュー作が全く売れず、続編なし、と正式に決まった直後のことで、正直、「私なんかが下読みしていいものか」「応募してくる人は、こんな新人に審査されるのイヤじゃないのかな」と悩んだ。

けど、コンテストの担当者さんから、「竹内さんなら安心して任せられる。下読みは、正直、カテゴリーエラーなどを弾くだけでもかなり数が絞られるし、迷った場合はどんどん通過させてもらって大丈夫」等と言われ、ドキドキしながら一度やってみたら「的確に審査できてる。次もお願い」となって、晴れてレギュラーメンバー入りしたようで。

多分、初回は私が下読みしたあとで、編集者さんがもう一度応募作品をサラッとチェックしたんじゃないかと思う。

謝礼ももらったので、2度手間になってほんと申し訳ないと思ったけど、同時に、こんなにちゃんと審査してもらえるんだなぁと、長年投稿してた身としてはありがたくも思った。

送っても送っても一次審査を通過しなかったころ、「ぜったい読んでくれてない!」って憤っていた私に聞かせてやりたいよ、ほんと。

今回で下読みさせてもらうのも3回目。
昔は「一次審査を通過しない作品は、そもそも小説として成り立ってない」みたいなことが言われていたらしいけど、今はぜったいそんなことない。

聞いてたほど、カテゴリーエラーも無いし。

面白くて読み応えがある作品が多いし、うまいなぁさと唸らされたりする。

で、すごく巧くて書籍化経験のある人の作品でも、明らかに「これは渾身の一作じゃないなぁ」なんて思ってると二次審査でサクッと落ちてたりするから、ほんと、こういうのって運とタイミングだなぁと思う。

編集部が「こういうの欲しい」って思ってる作品だったら、少々粗が目立って受賞を逃しても、担当さんがついて拾い上げデビューってパターンもあるし。

下読みで担当した作品が大賞取るとほんと嬉しいし、新しい面白い作品が世に出る過程に関われるのは楽しい。

まぁ、ヒットシリーズでも出せてたらもう下読みは卒業してるはすだから、楽しんでる場合なのかどうかは微妙だけど。


冷蔵庫の中から期間限定のミルク多めカフェラテを取ってきて、コタツの定位置に座る。


『金沢おにぎり堂へようこそ!』。



一枚、二枚……。

私はその作品を注意深く読み進めていく。
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