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獣人達の国
138:料理
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手早く食事を終わらせたキリーに連れていかれたまだ食事途中のガムラを見送って俺たちは昼食を食べる。
「……美味しいです」
どこか悔しそうな雰囲気を出しながらイリンがそう呟いた。
恐らくは自分の料理と比較しているのだろうが、イリンは大人になったと言ってもその年齢自体は変わっていない。つまりはまだ十二歳のままだ。それで何年も努力してきたキリーに敵うはずもない。
「だな。流石は本職って感じだ」
イリンの里で食べたイーヴィン達の料理も美味しくはあったけど、それでも本職には敵わないのだろう。手早く作ったはずなのにキリーの料理はいつも通りに美味しかった。正直これが手抜きとは思えない。
「…ご主人様はこの料理がお好きなのですか?」
「…ん? ん~、この料理って言うよりはキリーの料理全般は好きだな」
そう言った途端イリンの表情が笑顔でも、顔をしかめるでもなく、無に変わった。イリンはそんな無表情でキリーたちが消えていった扉を眺めている。
……うん。なんか選択肢を間違えた感がひしひしとしてくる。なんでだ?
たしかに俺はキリーの料理は好きだし、今だって笑いながら言っていたかもしれないが、それでもそれは料理に対してだ。キリーに対してじゃない。
俺を好きだからこその反応だと思えば嬉しくないわけではないが、以前はもっと大人し……くはなかったかもしれないけど、それでもこの程度で反応したりはしなかった。はず。
……里についてしばらくしてからか? ちょっと変わったなと思ったのは。
それまでは緊張とか不安で通常のイリンとは違っていて、里に帰ってからのイリンが本来の姿なんだと思っていたが、今の様子を見るに違うのか?
……まあいい。それは置いておこう。ひとまず今は話を繋いで失敗を挽回しなければ。
「材料は奇抜だけど味は面白いからな」
これだって使っている食材は魔物由来のものだ。確かこれ、虹色に光る角を持つ魔物じゃなかったか? それも角部分を使ってた気がする。
その魔物の虹色に輝く角は魔術具の良い材料になるのだが、キリーはあろうことかその角を粉々にしてスライムから作った溶液で溶かして使ったらしい。
もうここまでくると料理っていうか科学とかそんな感じがするけど、まあ錬金術は台所から生まれたというくらいだ。料理=錬金術=科学とするのなら完全な間違いとも言い切れない。
「奇抜な料理……」
イリンが魔物の名前を呟いて何かを考えているけど、その中には到底食べようと思えないような魔物の名前まで出てきている。
キリーが作った料理だってスライムとか使ってんだから絶対に使い物にならないということはないのかもしれないけど、素人が手を出していいものじゃないと思う。キリーは長年の経験の積み重ねがあるからこそ出来ているのだ。
「気になるんならここにいる間にキリーに教えて貰えば良いんじゃないか?」
ちょっと作ってみました。なんて言っておかしなものを食べるのは嫌だし、イリンが味見で倒れるのも嫌だ。
キリーみたいにスライムを料理に使ったら喉が溶けました。なんてなったら嫌すぎる。
だったらキリーに教えを乞う事ができるのなら安全という意味では確かだ。
俺がそう言った途端にイリンはバッと俺の方を向き、耳をピンと立てて目をキラキラさせた。それ程気になったのか…。
「まあキリーがいいっていうかわからないけど頼むだけ頼んでみたらどうだ?」
自分の店を持っている料理屋の店主に料理を教えて欲しいと言っても、快い返事が貰えるとは思わない。普通は技術の流出を嫌って断るだろう。
キリーなら断らないかもしれないが、それだって俺の思い込みかもしれない。キリーだっていっぱしの料理屋の店主をやってるんだ。プライドとか画あると思うし。
「はい!」
だがイリンはすでに教えて貰う気満々のようで尻尾と耳をパタパタと動かしている。嬉しかったんだろうな。こういう姿を見ると大きくなっても中身は旅をしていた時と何も変わっていないんだなと感じられるよな。
それ程時間が立ったわけではないが以前の事を思い出してイリンの頭に手を伸ばそうとしたが、背が大きくなっている事で俺が伸ばした位置にはイリンの頭はなかった。
……大きくなったんだな……。
改めてそう思うと、なんだかとても気恥ずかしい気持ちになってきた。
確かに成長したイリンはウースが見惚れるほどに綺麗になっているが、その姿を今までまじまじと見ていなかった。それを改めて意識すると途端に心臓が激しく動き出す。
「? どうかいたしましたか?」
半端な位置で手を止めていた俺を見て不思議に思ったイリンが聞いてきたが、正直に応えることなんて出来ない。
「……いや。なんでもない」
俺は首を振ってはぐらかす。
「それよりイリン。キリーに料理のことを頼むなら俺も頼んでおこう。俺もそんなに長い付き合いってわけじゃないけど、突然きたお前よりは俺の方が話を通しやすいだろうからな」
「え?ですがご迷惑では…」
「そのくらい大した手間でもないし気にするな」
そうイリンに笑いかけると、イリンは照れたようにして小さくうなずいた。
「えっと、それではお願いいたします」
……はぁ……。
へたれてるのはわかってるけど、仕方がない。……いや。仕方がないで済ませられることでもないな。でもどうしても勇気が出ない。イリンなら断るはずがないと思ってはいるが、それでも……。
……ぅおお! ここは異世界なんだぞ! 恋愛の神とか勇気の神とかいないのか!? 神様! 俺にご加護をください!
だが、かつてないほど真面目に祈ったが、何もこらなかった。寧ろ自分で頑張れという声さえ聞こえた気がする。……くそぉ! 神は死んだのか!?
「……美味しいです」
どこか悔しそうな雰囲気を出しながらイリンがそう呟いた。
恐らくは自分の料理と比較しているのだろうが、イリンは大人になったと言ってもその年齢自体は変わっていない。つまりはまだ十二歳のままだ。それで何年も努力してきたキリーに敵うはずもない。
「だな。流石は本職って感じだ」
イリンの里で食べたイーヴィン達の料理も美味しくはあったけど、それでも本職には敵わないのだろう。手早く作ったはずなのにキリーの料理はいつも通りに美味しかった。正直これが手抜きとは思えない。
「…ご主人様はこの料理がお好きなのですか?」
「…ん? ん~、この料理って言うよりはキリーの料理全般は好きだな」
そう言った途端イリンの表情が笑顔でも、顔をしかめるでもなく、無に変わった。イリンはそんな無表情でキリーたちが消えていった扉を眺めている。
……うん。なんか選択肢を間違えた感がひしひしとしてくる。なんでだ?
たしかに俺はキリーの料理は好きだし、今だって笑いながら言っていたかもしれないが、それでもそれは料理に対してだ。キリーに対してじゃない。
俺を好きだからこその反応だと思えば嬉しくないわけではないが、以前はもっと大人し……くはなかったかもしれないけど、それでもこの程度で反応したりはしなかった。はず。
……里についてしばらくしてからか? ちょっと変わったなと思ったのは。
それまでは緊張とか不安で通常のイリンとは違っていて、里に帰ってからのイリンが本来の姿なんだと思っていたが、今の様子を見るに違うのか?
……まあいい。それは置いておこう。ひとまず今は話を繋いで失敗を挽回しなければ。
「材料は奇抜だけど味は面白いからな」
これだって使っている食材は魔物由来のものだ。確かこれ、虹色に光る角を持つ魔物じゃなかったか? それも角部分を使ってた気がする。
その魔物の虹色に輝く角は魔術具の良い材料になるのだが、キリーはあろうことかその角を粉々にしてスライムから作った溶液で溶かして使ったらしい。
もうここまでくると料理っていうか科学とかそんな感じがするけど、まあ錬金術は台所から生まれたというくらいだ。料理=錬金術=科学とするのなら完全な間違いとも言い切れない。
「奇抜な料理……」
イリンが魔物の名前を呟いて何かを考えているけど、その中には到底食べようと思えないような魔物の名前まで出てきている。
キリーが作った料理だってスライムとか使ってんだから絶対に使い物にならないということはないのかもしれないけど、素人が手を出していいものじゃないと思う。キリーは長年の経験の積み重ねがあるからこそ出来ているのだ。
「気になるんならここにいる間にキリーに教えて貰えば良いんじゃないか?」
ちょっと作ってみました。なんて言っておかしなものを食べるのは嫌だし、イリンが味見で倒れるのも嫌だ。
キリーみたいにスライムを料理に使ったら喉が溶けました。なんてなったら嫌すぎる。
だったらキリーに教えを乞う事ができるのなら安全という意味では確かだ。
俺がそう言った途端にイリンはバッと俺の方を向き、耳をピンと立てて目をキラキラさせた。それ程気になったのか…。
「まあキリーがいいっていうかわからないけど頼むだけ頼んでみたらどうだ?」
自分の店を持っている料理屋の店主に料理を教えて欲しいと言っても、快い返事が貰えるとは思わない。普通は技術の流出を嫌って断るだろう。
キリーなら断らないかもしれないが、それだって俺の思い込みかもしれない。キリーだっていっぱしの料理屋の店主をやってるんだ。プライドとか画あると思うし。
「はい!」
だがイリンはすでに教えて貰う気満々のようで尻尾と耳をパタパタと動かしている。嬉しかったんだろうな。こういう姿を見ると大きくなっても中身は旅をしていた時と何も変わっていないんだなと感じられるよな。
それ程時間が立ったわけではないが以前の事を思い出してイリンの頭に手を伸ばそうとしたが、背が大きくなっている事で俺が伸ばした位置にはイリンの頭はなかった。
……大きくなったんだな……。
改めてそう思うと、なんだかとても気恥ずかしい気持ちになってきた。
確かに成長したイリンはウースが見惚れるほどに綺麗になっているが、その姿を今までまじまじと見ていなかった。それを改めて意識すると途端に心臓が激しく動き出す。
「? どうかいたしましたか?」
半端な位置で手を止めていた俺を見て不思議に思ったイリンが聞いてきたが、正直に応えることなんて出来ない。
「……いや。なんでもない」
俺は首を振ってはぐらかす。
「それよりイリン。キリーに料理のことを頼むなら俺も頼んでおこう。俺もそんなに長い付き合いってわけじゃないけど、突然きたお前よりは俺の方が話を通しやすいだろうからな」
「え?ですがご迷惑では…」
「そのくらい大した手間でもないし気にするな」
そうイリンに笑いかけると、イリンは照れたようにして小さくうなずいた。
「えっと、それではお願いいたします」
……はぁ……。
へたれてるのはわかってるけど、仕方がない。……いや。仕方がないで済ませられることでもないな。でもどうしても勇気が出ない。イリンなら断るはずがないと思ってはいるが、それでも……。
……ぅおお! ここは異世界なんだぞ! 恋愛の神とか勇気の神とかいないのか!? 神様! 俺にご加護をください!
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