『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人達の国

160:苛立ちと警告

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 尚も惚けるグラティースに俺は怒鳴ったが、当のグラティースはどこ吹く風とばかりに椅子に座っている。

「ふざけてなどいませんよ。私は貴方が例の人物と大会で戦うことのできる状況を用意する、としか言っていません。その状況というのが一回戦だとは言っていないはずです」
「そんな言葉遊びで納得するとでも?」
「ですが実際に貴方は勝ち、向こうも勝った。そして次の第二試合で戦うことになります」
「それは結果だ」
「ええ。ですが結果がすべてです。どれほど手を打ったところで、失敗してしまえばそれは意味がない。逆にどれ程成功率が低くとも、成功すればそれまでです」

 言っていることは正しい。過程は重要ではあるけど、王であるグラティースからしてみれば必要なのは結果だけだ。
 結局、何を言ったところで失敗すれば全ては無駄になるというのは、俺としても同意できる。
 だが、それで俺が納得出来るかと言ったら、納得できないし、するつもりもない。

 しばらくの間、俺達は睨み合っていると、不意にグラティースが息を吐き出した。

「ふぅ……。いいでしょう。説明します。……もし貴方が、一回戦から例の人物と当たっていたらどうなっていましたか?」
「倒して力を認めさせて終わりだろ」
「ええ。そうでしょうね。ですが、忘れていませんか? 貴方は力を認めさせなければならないのですよ? さっきの試合のように訳の分からないうちに終わらせてしまって、向こうは納得すると思いますか?」

 納得しないだろう。さっき戦ったやつだって状況的に負けだったから降参しただけで、負けを認めているとは言い難かった。
 だがそれでは、俺が大会に参加する意味がない。

「なら、最初からその事を俺に伝えておけばよかった。そうすれば、俺はそれなりの戦いをした」
「その場合は貴方が観客から認められません。もし、あなたが接戦の末にで勝ったとして、それで観客は納得しますか? 予選で負けた貴方が出場していることを、大人しく認めると思いますか? 一回戦は圧倒的に勝つ必要があったのです。『こいつなら特別枠で参加してもおかしくない』と、そう思わせるために」

 なるほど。圧倒的な力を見せつけることで、その後の試合に参加することをすんなりと受け入れさせ、文句を言わせないためか。
 でも──

「それはそっちの都合だろ? 俺には関係ない」

 そう。そんな事俺には関係ない。受け入れられようが、拒絶されようが、どっちでもいい。なにせ大会が終わったらすぐに神獣の元に向かうつもりなんだから。

「貴方にも関係ありますよ」
「何?」
「確かに、大会の一回戦で例の人物に認められれば、里へは連れて行ってくれるかも知れません。ですが、所詮貴方は無名の人物。向こうで受け入れられるかは別です」

 神獣の元に連れて行ってもらったとして、当の神獣に会うことが出来なければ行っても意味が無い

「ですが、大会で優勝。もしくは準優勝という『飾り』があれば、向こうにも受け入れられやすくなるはずです。それに、評判というのも重要ではありませんか?」

 確かに、知り合いの紹介で王から許可を得ているとは言っても、実績があるのとないのでは受ける印象が違うだろう。
 それに、悪評が立つような人物と、この国最大の闘技大会の優勝者では、どっちを受け入れたいかといったら圧倒的に後者だ。
 少しでも成功する確率を上げたいのなら、グラティースの言っている事に従うべきなのだろう。

「そのためにも、貴方は観客に受け入れられる必要がある。違いますか?」
「……」

 俺が返事をしないでいると、グラティースは満足したように頷いた。

「納得していただけて良かったです」

 ……納得せざるをえない。こいつの説明は正しいと思えるし、こいつだって俺を言い負かす為に予め準備していたんだから、この結果は当然なのかもしれない。
 ……だから、これは俺の我儘だ。

「「「──っ⁉︎」」」
「……どういう、おつもりですか?」

 俺は勇者として与えられた力の全てを解放して、威圧する。
 理由なんて特にない。ただやられっぱなしで、このままいいように使われるのが気に食わなかったっていう子供っぽい我儘だ。

「事情はわかった。だが、それを俺に隠していた理由にはなっていない。最初から説明して、俺に協力を求めていれば良かったはずだ」
「……」

 今度はグラティースが黙ってしまった。
 ここで言い返さないってことは、多分、説明した事以外になんらかの思惑があるんだろう。

「今回はいい。このまま大会に参加するさ。……でも、次があったら、その時は後のことなんか考えずに好きにやるぞ」

 俺はそれだけ言うと、反転してこの部屋に入ってきた扉へと歩く。

 負けたみたいでシャクだが、今回はこれで引き下がる。最後に思い切り苛立ちをぶつけることが出来て満足したし、一応警告もした。これで次からは勝手に利用されることも減るだろう。



「……はぁ」

 そんなため息しか出てこない。
 今俺たちは、会場の外に来ているのだが、正直やってしまった感がある。
 いくら向こうのやり方に苛立ってたとは言っても、あんな対応をするべきではなかったと今では思っている。

「……はぁ」
「ありがとうございます」

 俺がもう一度ため息を吐くと、何故だかイリンがそんな風に感謝の言葉を言ってきた。

「? 何がだ?」
「ご主人様が怒っていたのは私の為、なのでしょう? ですので、ありがとうございました」

 それは、その通りなのだが……、こうも面と向かって感謝されると面映いものがある。

「……いくぞ」

 俺はそれだけ言うと、まだ行き先も決まっていないのに歩き出した。
 背後から、クスリという笑いが聞こえた気がしたが、気にしないことにする。
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