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獣人達の国

182:優勝

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 壁には強化の魔術がかかっているから崩れたりはしていないけど、壁に激突したまま全く起きる気配のないクーデリアを見ていると、本当に生きているか不安になる。

 係の者がクーデリアに近寄りその状態を確認すると、そのものはどこかほっとした様子で胸を撫で下ろしてから審判に向かって頷いた。
 その様子から、どうやら殺さずに済んだんだと俺は理解し、審判も同じように感じたのか頷きを返すと俺の勝利を告げた。

「勝者、アンドウ選手! 今大会の優勝者は彼に決まりました!」

 直後、今まで聞いたことがないぐらいに大きな歓声が轟いた。中には遠吠えなんかしている奴もいる。

 今までこんなに注目された上に祝われるなんて場面に出くわしたことがなかったから、ちょっと尻込みしてしまう。

「この後は表彰、及び閉会式を行いますので本戦参加選手の皆様はこちらにお集まりください」

 司会はそう言ったが、それは俺にこの場に留まっていろってことか? 恥ずかしいから出来ればすぐにでもこの場から去りたいんだけど……。

 因みに、三位決定戦は無い。一位以外は興味がないってやつが多いからという理由だそうだ。

 俺は仕方がないので、観戦室にいるはずのイリンの姿を探す。
 観戦室自体は場所を知っているのですぐに見つかったのだが……。

「……何してんだ?」

 そこにあった光景を見て、俺は思わず声に出してそう呟いてしまった。

 観戦室では、イリンが両手を上げながら飛び跳ねている。多分喜びが振り切れたからなんじゃないかと思うが、普段の様子からは考えられないその姿を以て唖然としてしまった。

 ……まあ、実年齢は十二歳だし、それを考えれば無理もない……のか?

 イリンは俺が自分のことを見ているのを察したのか、上に挙げた両手をブンブンと振りだした。
 俺はそれに応えるように手を振り返す。

 それを受けたイリンは一瞬硬直した後、先ほどまでよりも勢い良く動き出した。

 ああコラ。そんなにはしゃぐんじゃない。喜んでいるのは分かったからもう少し落ち着け。何かにぶつかって壊したりするなよ?

 普段子供らしいところをあまり見せないイリンが子供らしく感情を表していることを喜べば良いのか、それとももう少し落ち着けと嗜めるべきか迷うな。どちらにしても、式が終わってここから移動しない限り声をかける事はできないな。

「優勝おめでとう」
「ああ、ありがとう。──そっちはなんで膨れてんだ?」

 そうキリーに尋ねたが、ガムラはどことなく拗ねているように見える。

「気にしなくて良いよ。こいつさっきの試合を見て、自分はあんたに本気を出させることができなかったって悔しがってるだけだから」
「……一応本気だったんだけど?」
「だけど、さっきの技は俺には使わなかったじゃねえか。俺が弱かっただけなんだがな……」

 ガムラはそう呟いた後にきつく目を瞑ると、突然目を開けて叫んだ。

「ああくそっ! 次は負けねえ! 俺が強くなったらまた勝負だ!」
「ふっ。──ああ。その時は受けてやるよ」



「見事な戦いでした」

 俺は優勝したので、グラティース王から直接の褒め言葉をいただいている最中だ。

 ……でもさぁ、正直に言っちゃうとありがたみないよな。だって俺普通に直接話したし。それなのにこれだけの距離がある状態で声をかけられてもねぇ。という感じしかしない。

 グラティースから褒め言葉をもらうとは言っても、なにも王様が目の前に来て言うわけじゃない。あいつは、王族専用スペースなのか知らないけど特別に設けられている席から俺たちを見下ろす形で話している。

 グラティースの横に見えるのは全員王族だろうか? 何人もの種族の違う亜人が並んでいる。

 あっ、不機嫌そうな顔で俺を睨んでいる奴がいる。あれ、名前は忘れたけどわざわざ俺に会いに来た王子か。こんな場でくらい笑顔でいれば良いのに。元がイケメンなんだからそれだけで人気が上がるだろうに。……イケメンの犬耳王子様とか、チッって感じだよな。

「──では、選手の方もですが、皆さん、祭りは明日まで続きます。存分に楽しんで下さい」

 そう言い終えたグラティースは、去り際に俺のことを見ていた。

 ……ああ、はい。分かってるよ。

 あいつの視線の意味はわかっている。話があるから来いって事だろうな。まあ、呼ばれなくても行ったけどさ。

「ではこれにて闘技大会を閉会します。選手の方はお話がありますので控え室にてお待ちください」



 式を終えて俺が、というか選手たちが会場から出ていく。
 俺も同じように会場を後にし、自分の控え室に入ると、誰かが勢い良く抱きついてきた。──イリンだ。

「おめでとうございます!」

 イリンは抱きつきながらそう言ったが、これも普段ならしないような行動だ。俺は普段と違いすぎる状況にどう対応して良いか戸惑ってしまう。

 ……えっと、抱きしめれば良いんだろうか? それとも何か声をかけるのが先か? え? どうすればいいの?

 恋愛経験などゼロに等しい俺に、こんな時に正しい対応を求められても困る。ここには俺以外に誰もいないので止めてくれるものもいないので、俺はアワアワと狼狽る事しかできない。

 とりあえず、ビクビクとしながらそっとイリンの頭に手を置いた。

 はたから見れば桃色のオーラでも見えるんじゃないだろうか、という空間が出来上がった。

 ──コンコンコン。

 そんな空間を壊すかのように扉を叩く音が部屋に響いた。

「アンドウ様。グラティース陛下がお呼びです」

 ……ん。きたか。

 俺はポンポンとイリンの頭を叩くと、その手を退けてイリンを離す。
 名残惜しそうにしながらも、しっかりということを聞いてくれるところははしゃいでいても変わらない。

「行こうか」
「はい」
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