『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

文字の大きさ
119 / 499
獣人達の国

185:グラティースの願い

しおりを挟む
「では貴方への賞品は家と、足りない分は金銭にて支払う事にしましょう」

 まあそれでいいか。今のところ金に困ってはいないけど、あって困るものでもないし。

「さて、それではもう一つの方ですが、よろしいですか?」

 俺は黙ったまま首肯する事で了承する。

「貴方にはお願いしたいことがあるのです。具体的には貴方が向かう神獣に、そちらの方の他にもう一人治癒を施していただけないかを願って欲しいのです」
「自分達で行くのはダメなのか?」

 できるなら俺に言わなくともやっているだろうが、気になったので聞いてみる事にした。

「ええ、どうも私は彼らに嫌われているようなので」

 さっきのコーキスの態度はそのせいか?
 こいつが嫌われる要素など思い当たるものは普通にあるが、しかしなにをしたんだろうか? まあ俺と同じように向こうを嵌めたんだろうけど。
 嵌めたと言っても結果的には最良だったのだろう。そこに関わった人の感情は無視して、だろうけど。だからこそ、嫌われていても敵対まではしていないのだと思う。

「それで、受けていただけますか? 報酬は用意しますよ。とは言っても、本来は大会の賞品では賄えない分の願いを報酬として出すつもりだったのですが、先程なにも要らないと言われてしまったばかりですのでどうしたものかと悩んでいるのですけれど」

 ……どうするか。受ける必要はないけど、大した手間でもないし受けておいた方がいいか? 願いはないけど、こいつに貸しを作れるのはうまい。

「とりあえず詳細を話してくれないか?」

 俺は話を全部聞いてから決める事にした。

「それは了承を得てからになりますね」
「手伝ってもらおうっていうんだからそれぐらい話すのが筋じゃ無いか?」

 俺とグラティースはお互いを睨み合う。詳細如何では俺に不利益が来るかもしれないのだから、俺は引く気はない。
 もちろん助けられるのなら助けたいとは思うが、それだって自分が幸せになるのが優先だ。俺は殺した奴らの命を無駄にしないために幸せになると決めたんだから。

 俺が引く気がないのを悟ったのか、グラティースは張り巡らせていた緊張を解いてため息を吐いた。

「はぁ……。わかりました。実は私の娘が賊に襲われまして、現在意識が無いのです。それを治すためにかの神獣の力が必要なのです」

 へぇ~、そうなのか。その程度の感想しかない。
 まあ元々予想してたし、実際に会った事もないのに「それは大変だ!」とはならない。
 とはいえ、どうせ神獣の元に行くんなら頼むくらいは構わない。それほど手間がかかるわけでもないし。
 ただ、それはイリンのことが完全に治ってからだ。だってこいつ向こうに嫌われてるらしいじゃん。聞いたら俺まで嫌われるかもしれないからな。

「因みに、その賊は貴方にも無関係では無いと思いますよ」
「なに?」
「賊は人間だったのですが、その方に話を聞いたところ隣の王国の者だったようです。どうやら戦争に向けての行動だったようですね」

 もし勇者を召喚した事で王国が戦争に向けて行動した結果というのなら、確かに俺にも無関係じゃないかもしれないな。
 こいつは俺が勇者として喚ばれたってことを知ってるし、そのことを言っているんだろう。

 ……戦争、か。できれば参加したくないんだよな。

「戦争が起こるのは確実なのか?」
「ええ。戦争自体は間違いなく起こります。それがいつなのか、というのはまだ分かりませんが」
「間諜とかは出してないのか?」

 この国の奴らは何かしら人間にはない特徴を持っているから難しいのかもしれないな。

「いましたよ。向こうの貴族や商人と内密に手を結んでいたのです。最近になってそのほとんどが狩られましたが」
「……貴族と?」
「ええ。おかしな話ではないでしょう? 自身の領地を守るために敵と手を組むというのは。我々が手を組んだのは、戦争が起こった場合に被害が出そうな場所、被害が出そうな人物ですから」

 まあ、それ自体は確かにおかしくはない。

「ですが、その者らは最近になって我々と繋がっている事がバレたのか、処分されました。残った者も、危険を感じて連絡をよこさなくなりましたし、それだけ次の戦争は力を入れているという事なのでしょうね。……はぁ。頭が痛いですよ、まったく」

 ……なんだろう。おかしいな。獣人たちと手を組んだ貴族達の話をどこかで聞いた事があるような気がする。ついでに言えば、そいつらが処分されるかもしれないって話も。いや~どこで聞いたんだろうな~。

 ……すみません。それ多分俺のせいです。話を聞いたっていうか、俺がそうなるように仕向けた本人だわ。

 多分、今回のって俺が王国から逃げる時にやった細工のせいだよな。
 やばい。俺の中の罪悪感が大きくなっていく。

「ああ、すみません。愚痴を言いました」
「……なに。王だって疲れる時はあるだろう。気にするな」

 その愚痴の原因が自分にあるということを知ったために、俺はついそんな言葉をかけてしまった。

「そう言っていただけるとありがたいですね。……それで、いかがですか?」
「……まあ、聞くだけなら特に手間がかかるってわけでもないし、やるよ。俺も助けられるんなら助けてやりたいし。……ただ、確実に了承が得られるかっていうと、それは分からない」
「それで構いませんよ。少なくとも私が直接行くよりも可能性は高いでしょうから」

 王が直接出向いても断られるって、本当になにをしたんだ、こいつ?
しおりを挟む
感想 317

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。