『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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獣人国での冬

210:眠りの魔術

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「……因みになんだが、イリンは何か珍しかったりするのか? いろいろ使えるみたいだし」

失礼な事だが、変わり者っていうんならイリンは当てはまると思う。ちょっとアレだし。

「ん~、そうねぇ。数の多さは気になるわね。私が知ってる中では三つが最高だし。それだって英雄とかそういう類の奴よ。薬の件は除いても四つとなると多いわよねぇ」

……英雄? イリンが?

俺たちの後ろをついてくるイリンを見てみるが、とても英雄には見えない。
……ああでも、一応とはいえ勇者である俺の全力疾走についてこれたんだから可能性は無くはない、かな?

「魔力の質と魔術の系統からして、風の属性に偏ってる感じかしら?」

風っていうと、確かイリンの神獣の属性が風じゃなかったか? そこまで詳しく聞いてなかったからうろ覚えだけど。

神獣の関係性について聞いてみようと思ったところで、背後のイリンから警告が飛んできた。

「……お二人共、お話はそこまででお願いします。敵が来ます」

そんなイリンの声に一拍遅れて俺の探知の中にそこそこの反応が入ってきた。

……え、うそ……えっ? 俺の探知とかいらない感じなのか?

今回は戦力がわからないケイノアがいるのでいつもより広めに探知を広げていたのだが、イリンは俺よりも早く敵の存在に気がついた。

そういえば、さっきケイノアがイリンのオリジンについて『把握』とか言ってたような気がするから、多分そのせいか?
強制とはいえ探知系の魔術が使われていたから負けたんだ。決して無強化の状態のイリンに負けたんじゃない。……まあ、どのみち索敵性能で負けてる事には違いないんだけどさ。

「敵? ならここは私に任せなさい!」

ケイノアは堂々と俺たちの前に出てきたが、その姿に違和感を感じてしまった。

「なんか、お前がやる気を出すってのは違和感があるな」
「何よ、折角私の魔術を見せてあげようと思ったのに、そんなこと言うわけ?」

そういえば元々はこいつの戦力確認してたんだったか。

「そうか。んじゃまあ、お手並み拝見といこうか」

若干の違和感を残しつつも俺がそう言うと、ケイノアはニヤリと笑った。

「フフッ。しっかりと見てなさいよ!」

ケイノアの笑うその姿が不安を誘う。

……本当にこいつに任せてもいいんだろうか?

「来ます」

だが悩んでいるうちに魔物はすぐそこまでやって来ており、イリンが敵の接近を告げた。

「それじゃあ、刮目しなさい! これが私の魔術よ!」

そう言って片手を腰に当て、もう片手を天高く突き出すケイノア。
天に向かって挙げた手の先には光る玉が生み出されている。

そして、敵──六本足の狼のような魔物がその姿を現した瞬間、ケイノアの生み出した光の玉は弾け──

あっ、待て。そういえばこいつの魔術って、確かさっき……

キイイィィィイイィィン!!

その玉を中心に、暴力的なまでの光と甲高い耳障りな音が辺りを埋め尽くした。

「うっ……。なんだ、これは……」

その光と音を感じた瞬間、立っていることすら嫌になるほどの眠気が襲いかかってきた。

なんとか意識を保って何があったのか周りを見てみると、魔物は突っ込んできたまま不格好に転んで起き上がらない。

ドサッ。

背後から聞こえた音に、なんだと思って振り向くと、俺の後ろに立っていたはずのイリンが倒れていた。

「イリンッ……!」

俺はすぐにイリンのそばに駆け寄るが、どうにも眠気でいつものようには動けない。

「寝てる、のか?」
「そうよ、寝てるだけ」

俺がイリンの様子を確認すると、後ろからケイノアがやってきたが、その姿はなんの問題もなさそうだ。

「……何を、した」
「何をってさっき言ったじゃない。私の根源魔術は眠りだって。あの魔術は光を見るか音を聞くか、もしくは拡散した魔力に触れるとみんな寝ちゃうのよ」

やっぱりか。でも、こいつは確かに言ってたが……光を見るだけで眠る? 無差別すぎるだろ。使う前に先に言っておけよ。

「でも、あんたはまだ起きてられるみたいね。なにか細工してる?」

以前シアリスに心を読まれたことを警戒して、元々つけていた防御の魔術具に加え、精神防御系の魔術具を追加しておいたんだが、多分そのおかげだろう。

「ほらほら、眠いんでしょ~? いいわよ、寝ても? 私が守ってあげるから」

ケイノアは手を後ろで組んでニヤニヤと笑いながら近づいてくる。

なにがしたいのかわからないが、思い通りになってたまるか!

俺は収納から状態異常を解除する魔術具をありったけ取り出し、その全てを発動する。加えて、眠気覚ましに聞く薬を取り出して飲む。
すると、さっきまで濃い霧がかかったような思考は途端にクリアになった。

「ほぇ?」

ケイノアがボケた声を出しているが、知ったことではない。

「……さて、なにをするつもりだったのか、教えてもらおうか?」
「え、えっと、いや、その。こ、これは違うのよ。だって……そう! 貴方たちが私の魔術を見たいって言ったでしょ? だから私は使っただけなのよ! だから私は悪くないわ!」

ケイノアは、自分は悪くないと手を前に突き出してブンブンと振るが、俺は魔術を見せろとは言っていない。

「能力を教えてほしいとは言ったが、見せろとは言ってないな。お前が自分から見せると言い出したんだ。……それに、その手に持っているものはなんだ?」

ケイノアは、突き出したブンブンと振っていたその手に一本のペンを持っていた。

「さっきまで持ってなかったよな? なんでこんなことをしたのか、何をするつもりだったのか。正直に話してもらうぞ?」

ケイノアの顔が悲壮に歪むが手加減なんてしてやるつもりはない。精々反省しろ。
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