『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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治癒の神獣

257:神獣からの呼び出し

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「アンドーさん。少しいいかしら?」

 神獣の元に行きイリンの治療が始まった翌日。
 昨日と同じようにイリンの部屋で待機していると、チオーナが部屋のドアを訪ねてきた。

「はい。何でしょう?」
「さっき神獣様から貴方を向こうに送り出すように連絡が来たの。どう? 行ってもらえないかしら?」

 神獣から連絡? 昨日の今日で一体何の用だろう? いやまあ、呼んでいるというのなら行くけどさぁ。

 けど、そもそも連絡ってどうやってとってんだ? あの巨体だからここまで来れないだろうし、ここまで来れるんだったらわざわざ向こうに行けなんて言わないだろう。

「向こうっていうのは神獣のところですよね? 構いませんが、連絡というのは?」
「ああ、私は神獣様と……何というのかしら……頭の中で思念のようなものをやり取りできるのよ」

 神獣との契約によってできた繋がりを通してのテレパシー、的な奴だろうか。

「そうでしたか。時間の指定はありますか?」
「いいえ。でも出来れば今からお願いできますか? イリンちゃんは私の方で様子を見て、何かあったら私の方から神獣様にお伝えしますので」

 テレパシーで指示を仰げるのなら、俺がここにいるより非常事態の時の連絡は早いか?

 まあいい。できることならあまりイリンのそばから離れたくはないけど、世話になってるんだからそのくらいは構わない。

「わかりました。ではイリンのことをお願いします」
「ええ。まかせて頂戴」




 俺がチオーナの家を出て神獣のいる方向に歩いていると、里の出口付近に誰かが居るのを発見して足を止めた。
 多分知り合いじゃないとは思うけど、正直ここの人たちの見た目はよくわからない。わかるのは、精々しばらく一緒に居たコーキスくらいだ。

 こっちは神獣がいる場所につながっているから、許可がなければ森への立ち入り禁止になってるって聞いたし、門番的な奴も昨日はいなかった。

 となると、あの人物は何でここにいるんだろうか?

 だが、考えたところで理由はわからない。なので、誰か考えることに早々に見切りをつけて再び歩き出した。

 その際に問題を起こしてはまずかろうと、少しだけ道を外れるがその人物と接触しないように大回りして森へと入っていく。

「おい、待てよ」

 だが、避けて進んでいるにも関わらず、その人物は何故か俺の方に近づいてきている。

 どう対応するべきかと悩みながらも足を止めないで進んでいた結果……

「待てって言ってんだろうが!」

 肩を掴まれて強引に振り向かされた。

 だが、その態度と声で目の前の人物が誰なのか分かった。

「ソーラルさん、でよろしかったですか? 何故こんなところに?」
「……てめえ、これからどこに行こうとしてた」

 俺の方を掴んだままでいるソーラルと思わしき人物は、俺の質問に答えることなく逆に質問してきた。

 だが、俺が名前を呼んで訂正しなかったって事は、ソーラルで間違いはないんだろうと思う。

 しかし、ソーラルが俺の質問に答えなかったように、俺にも質問に答える義務はない。

 どうせ俺が神獣のところに行くって言ったら怒るに決まってるんだ。昨日の様子を知ってれば誰だって分かる。

 ……俺が言わなかったとしても、ここで待ってる時点でどこに行くかなんてバレてるような気もするけど。

「それを答える必要はありますか?」
「うるせえよ! いいからさっさと答えろ!」

 ソーラルは俺の肩を握り潰さんばかりに掴んでいる手に力を込め、更には恐竜のような鋭い歯を剥き出しにして俺を威嚇している。このままではいつまで経ってもこの状態は終わらないだろう。

 そう思うと、俺は諦めてソーラルの質問に答える事にした。

「はぁ……神獣様のところですよ」
「チッ……やっぱりそうかよ……」

 ソーラルは俺の肩を掴んでいた手で俺を突き飛ばし、俺の前に立ち塞がった。

「……何をしているか聞いても?」
「先には行かせねえ。もうてめぇらを神獣様には会わせやしねえ。連れてきた臆病モンの犬っころと一緒にこの森から出ていきやがれ」

 ……臆病者の犬っころってのは、イリンのことか?

 かけられた侮蔑の言葉にピクリと反応してしまったが、いきなり殴りかかったりなんてしない。
 しないけど……

「お断りだ」
「あ゛あ゛っ!?」

 もうやめだ。こいつに丁寧な対応なんてものは必要ない。コーキスは問題が起こっても殺すなとは言っていたが、問題自体を起こすなとは言っていなかった。それはチオーナ達も同じだ。

 それはつまり、問題が起こることは予想の範疇だということでもある。

 極力問題を起こすつもりはないが、必要とあらば仕方がないと割り切ろう。

「そもそも、今日は神獣の方から俺のことを呼んだんだ。それなのに俺を止めるってことはお前は神獣の意向に逆らおうってのか?」

 そう。そもそも俺がこれから神獣に会いにいくのは神獣本人からの言葉があったからで、そしてその言葉を伝えたのは里のまとめ役であるチオーナ。

 俺を止めるってことは、この里の意思決定権を持っているトップの二人に逆らうってことだ。それは神獣を信仰しているここの者にとって許容できることなのだろうか?

「……誰だって間違えることはある。それは……仕方ねぇことだ」

 口を歪めて拳を握りしめているソーラルの姿は、人間とは違うからよくわからないが、どことなく悔しさと哀しさが混じったような感じがする。

 ……でも驚いたな。こんなにハッキリと自分の信仰対象である神獣の事を否定するなんて。

 まさか神獣達が間違えていると、こうもハッキリと口にするやつがいるとは思わなかった。

「だから、俺がこの森を護るんだ。じゃないと親父は……」
「親父?」

 俺が疑問を漏らすと、ソーラルはハッとしたように俯きがちだった顔を上げて、再び歯を剥き出しにして威嚇をし始めた。

「くそっ……いいからさっさと出て行け! じゃねえと痛い目に合う事になんぞ!」
「俺としても歓迎されていない場所に長居したいとは思わないんだけど、今はそうも行かないんだよ。イリンの怪我が完全に治るまでここを出ていくつもりはない」
「チッ、そうかよ。なら、てめえは敵だ!」

 ソーラルは持っていた槍を構えると、こちらの反応を待つことなく槍を突いてきた。

「ぁああああああっ!」

 このままでは当たるだろう。
 だが、俺はあえて一歩前に踏み出す。そうしたところで避け切ることはできないが、ソーラルの意識を乱すことができたのならそれで十分だ。

「……は?」

 ソーラルは、俺の行動に驚きながらも俺の位置がズレた分だけ槍を修正し、その槍は俺の体を貫こうとしていた。

「……な、にが……」

 だが、結果としては俺は貫かれておらず、代わりにソーラルが持っていたはずの槍が俺の手によってソーラルの首に突きつけられている。

 首元に突きつけられた槍を茫然と眺めることしかできないソーラル。

 やったことはいつもと同じ。槍が俺の体に当たった瞬間に収納し、取り出して突きつけただけ。
 槍で突かれる前に一歩前に出たのは、何かする気だ、と注意をそっちに逸らすためだ。まあ、そっちはやってもやらなくても結果は変わらなかっただろう程度の小細工でしかないけど。

「悪いな。俺は帰るわけには行かないんだよ」

 収納で奪った槍を茫然としているソーラルから少し離れた場所の地面に突き刺し、俺は当初の予定通り神獣の所へ歩き出す。

 ……お前に何か理由があったとしても、俺だって理由があるんだ。諦めてなんてたまるか。

 その際、背後からはドサリと何か音がしたが、俺が振り向くことはなかった。
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