『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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治癒の神獣

263:襲撃犯狩り

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 目の前には怪我を負い、地面に倒れ伏す巨大な蛇。

 よく見ると、尻尾の方も同じように抉られており、尻尾の先だけが神獣──スーラの身体から離れて落ちていた。

「おい何が……誰だっ!!」

 何があったのかとスーラに問いかけようと近づいたところで、少し離れた森の中から誰かの気配を感じた。

「──ッ!」

 俺が振り向き問いかけた先にいた人物は、何を言うでもなく俺に魔術と思わしき光を放ってきた。

 俺は咄嗟に収納を発動して、魔術が俺に触れた瞬間に放たれた魔術をしまうが、これで確定だ。俺の視線の先にいるあいつらがスーラを襲った犯人だ。

「なにっ!?」
「馬鹿なっ!」

 動揺して声を上げた襲撃の犯人達。その声からしてどうやら犯人は複数いるらしい。

 俺は意識が薄れない程度の強さで探知を拡げ、敵の数と位置を確認する。

 ……人数は四人か。

 俺が確認していると、失敗を悟ったのか犯人達はすぐさま全員がバラバラの方向に走って逃げ出した。
 失敗するなり全員が一斉に逃げ出すという事は、よほど訓練されているという事に違いない。これでただの野盗、という事はないだろう。

「……追って……」

 襲撃犯を追うか怪我をしているスーラの対応をするか悩んでいると、怪我をしているスーラ本人から声がかけられた。

「私は大丈夫。これでも再生能力には自信があるのよ」

 そう言っている間にも神獣の負った傷は徐々に塞がっていく。流石は治癒の神獣といったところだな。

 それでも完全に治りきったというわけではないが、ここに俺がいても何ができるというわけでもない。心配ではあるが、スーラが言うように奴らを追った方がいいだろう。

 襲撃犯達をこのまま放置しておけば次に何をするかわからないし、もし生け捕りに出来たのならして色々聞くべきだろう。どこから来て何故こんなことをしたのかを。

 ……まあ多分、何処からってのは聞くまでもないことだろうとは思うけど。

「わかった。奴らを追う」

 それだけ言うと、俺はすぐさま飛び出して逃げた襲撃犯を追い始めた。

 だが、徐々に襲撃犯達に追い付いてはいるものの、このままではダメだ。全員一緒にいるわけじゃないから一人捕まえたところで残りの奴らに逃げられてしまうだろう。

 ならどうすれば、と考えた結果俺は足を止めて、その場に座り込んだ。

 そして、今までは動きに支障がない程度にしか広げていなかった探知を、襲撃犯がどう逃げようと捕捉出来るように広げた。

 強く探知を使良すぎるとそっちに意識が持っていかれて、俺を狙う奴がいたとしてもすぐに対処できなくなるからあまりやりたくないのだが、襲撃犯を逃すわけにはいかないので仕方がない。

「……いた。止まれ」

 収納魔術に限らず、魔術は視界内でのみ発動できると思われているが、実際には認識できる範囲でのみ発動できる、というのが正しい。

 つまりは視線が通っておらず直接見ることができずとも、認識できていれば離れた場所に魔術を発動させる事ができるということだ。

 俺はバラバラに逃げた襲撃犯達の背後に収納魔術の渦を作り出して、そこから襲撃犯達の前方の足元に槍を射出して襲撃犯達の動きを止めた。

 射出された槍は、以前まとめ買いした安物を俺が収納の渦に向かって思い切り投げたもの。

 何かを収納するとき、収納する物体のエネルギーに変化はない、というのが収納魔術の効果だ。
 つまりは、勢い良く収納されたものは、取り出した時にもその勢いを失わずに出てくるということである。

 俺はそれを利用して収納の渦から槍を射出したのだ。

 動きを止めた襲撃犯達はその槍がどこからきたのか確認するためか背後に振り返ったが、止まってしまったのが運の尽き。
 今度は狙いを足元じゃなくて足そのものに変えて再び槍を射出する。

 すると、襲撃犯は足を貫かれて地面に縫い付けられて動けなくなった。これで生け捕り完了だ。
 槍を抜いて移動できるようになったとしても、足を貫かれた怪我ではそう簡単に歩けるようにはならないだろう。

 でもとりあえず、念のためにもう一撃入れておこうということで残りの手足にも槍を飛ばして貫き、地面に張り付けておいた。これならどうあっても逃げられないだろう。

 だが、そうして確保できたのは襲撃犯のうち二人だけで、後の二人は最初の槍でも止まることなく走り続けていた。

 が、そちらは走る襲撃犯達の前方に収納魔術を展開する事で対処する。

 背後を気にしながら走っていた二人は、突然目の前にあらわれた収納の渦に突っ込んでいき、弾かれて倒れたところを前の二人と同じように足と手を槍で貫いて地面に縫い付ける。

 これで襲撃犯の確保は終わりだ。

 回収に行こうかとも思ったけど、流石に俺一人で暴れるであろう四人の人間を運ぶのは難しい。

 どうするかと悩んだが、探知の範囲内には人を襲うような奴はいなかったからしばらく放置しても大丈夫だろうと思い、広げていた探知をいつもの範囲まで戻してから怪我をした神獣の元に戻る事にした。



「大丈夫か?」

 泉にまで戻ると、地面に倒れた状態のスーラの姿があった。

 一応胴体に空いた傷は塞がっているが、尻尾の方の傷はそのままで、千切れている尻尾も地面に落ちたままだ。

 まさか死んだのか、なんて思ったが、俺の声に反応して顔を向けたので生きてはいるようだ。良かった。

「ええ。……私を襲ってきた者はどうなったの?」
「手足を潰して森の中で動けなくしてあるよ。四人いたから誰かの手を借りたいと思ってな」
「そう。ならそろそろ誰かが来るから、その子達に任せたらいいわ」
「わかった。……それで、本当に大丈夫なのか? かなり大きな穴が開いていたけど……」

 いくら既に塞がっているといっても、あれだけ大きな穴が開いていたのだから心配になる。
 現に尻尾のほうはまだ治っていないみたいだし、全く問題がないというわけではないだろう。

「平気よ。元々私にとって外見はそれほど重要ではないのよ。……前に言ったでしょう? 蛇の形をしたスライムのようなものだって」
「そうか」

 そういえばそんな話を聞いた気がするな。たしか、イリンの治療はその性質を利用して行われてるんだったな。

 以前言われた事を思い出していたのだが、スーラの次の一言でそんな事などどうでも良くなった。

「ただ……イリンちゃんの治療だけど、ごめんなさい」
「っ!」
「今はこの体の修復と術が途切れないように維持するのに精一杯で、詳しいイリンちゃんの状態までは分からないけど、私が攻撃を受けた事で、おそらく私と繋がっている状態のイリンちゃんの方にも影響が出てしまったわ。直接触れているわけではないから私みたいに穴が開いたりはしていないでしょうけど、多少なりとも怪我をしてしまっているはず」
「くそっ!」

スーラから話を聞き終えた瞬間に、襲撃犯の回収など忘れてイリンの元へと駆け出そうと身を翻す。

「待って! まだ話があるの!」

だが、それは背中からかかったスーラの言葉によって止められた。

「今回、死にはしなかったけどそれでも力のいくらかが削られてしまったの。なんとか術は維持しているけれど、それでも私が回復してから治療を再開する事になるから、完治は予定よりも時間がかかってしまうわ……ごめんなさい」

 イリンの治療を邪魔された。それどころか怪我をさせられた。
 俺の心の中はその事による怒りでいっぱいになり、ギリっと歯を食いしばり拳を強く握りしめた。

「……そうか。……どれくらいだ?」

 だが、今ここで暴れても意味はないことは理解している。
 怒りをぶつけるのならそれにふさわしい相手がいる。だからその時まで抑えるべきだと自分を言い聞かせた。

「正直なところ、わからないわ。私への攻撃に特殊な術を使っていたみたいで調子が出ないの。だから、最低でも今から一ヶ月、といったところかしらね」
「……わかった」
「ごめんなさい。一旦回復に専念するために少しばかり寝る事にするわ。後はお願いしていいかしら?」
「ああ。ゆっくり休んでくれ」
「ありがとう。三日もすれば起きられると思から、その間はよろしくね」

 そう言うと、スーラはそのまま目を閉じて動かなくなってしまった。
 寝ているんだろうけど、事情を知らないものからしたら死んでいるように見えるんじゃないだろうか?

「……ふぅ。……覚悟しておけよ」

 襲撃犯の親玉はわかっていないが、おおよその予想はつく。その人物を脳裏に思い浮かべて、俺は腰の剣を抜いてその剣身に映る自分を見つめた。
 いずれ相対するであろうその時にどうするのか、自身の覚悟を確認するために。

「てめえ何してやがる!」

 だが、確認を終えて剣をしまおうとしたところで、誰かが怒声をあげながらやってきた。
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