『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

276:出陣

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 その後、いくらかこちらの要望を伝えたり作戦を話したりしたが、最後には細かい隊列など話す事があるから、とか、俺は勇者を相手にするために準備を整える必要があるだろうから、とか言ってテントから追い出された。

 俺の準備は終わってる。というか最初から全部揃ってる。魔術具は常に身につけてるし、必要なものがあれば収納から取り出せばいい。
 だから問題ないんだけど……まあ、あそこにいた奴らだけで話したい事があるんだろうな。
 例えば、俺の扱いとか、俺が失敗した後の勇者の対応とかな。

 けどまあ、そんなのはどうでもいい。
 手柄なんて必要ないし、俺はただやりたい事ができればいいだけだから、扱いが悪かろうとここにいることを認めてくれさえすればそれでいい。認めてくれなくても戦争に参加するつもりではあるけど。

 それに勇者たちの相手も、最初から失敗なんて考えてない。失敗なんてするつもりはない。必ず成功させてやる。だからそんなこと気にするだけ無駄だ。

「……早く始まらないかな」

 戦争自体を望んでいるわけじゃないけど、さっさと始まって欲しい。

 今回の件──神獣への襲撃が行われてから、俺の心はなんだかずっと落ち着かないでいる。

 それはここに参加した理由である勇者の子達を助けなきゃいけないって思いのせいではあるけど、それだけではなく当然ながらイリンの件も影響している。

 勇者達とイリン。そのどちらもが自身のことを主張し合うように俺の中で渦巻いている。

 俺の事を信頼してくれていたのに見捨てていくしかなかった勇者の子達を逃すという事。

 俺に恩を感じて自身を犠牲にしてでもついて来てくれるイリンを怪我させられた事への復讐。

 そのどちらもが俺の中では大事な目的だ。

 一度勇者の子達を見捨てていった俺にそんな事を言う資格はないのかもしれないし、彼らからしてみても、俺が自分たちを助けるなんていうのはおかしい事なのかもしれない。

 イリンの治療の邪魔をされ、更に怪我まで負わされたとしても、向こうにはその気はなかったのかもしれない。

 けど、そんなのは知ったことではない。これは俺がやりたいからやるんだ。
 自分が正しいと思った事を最後まで貫いていき、死ぬ時に堂々と笑って死ねるように生きる。それが俺の目標だ。

 だから──

「今回は全力でやってやる」

 ──その邪魔をする王国の奴らの目的は、ここで潰しておく。




「そろそろ始まりますので、ご準備の程をお願いします」

 自分のテントで収納の中の武器類を確認していると、テントの外からツェルニードの声がかかって来た。

「ん、分かった」

 おれは手に持っていた武具を収納すると立ち上がり、テントの外へと出ていく。
 すると、そこには朝見た時よりもしっかりと装備を固めたツェルニードがいた。

 一見しただけでそれなりに力のこもった装備であることは誰の目にも明らかである程の鎧を身につけ、腰の帯びた剣は鞘に納められた状態でも威圧感を放っている。

「ご準備のほどは……」

 対する俺はそれほど豪華な装備はつけていない。
 いや、それは正確ではない。実際には国宝級の魔術具をいくつも身につけているが、そのどれもが指輪や首飾りなどの一見しただけではわかりづらいものだ。

 だからだろう。ツェルニードは少しばかり眉を寄せて俺に準備を促した。

 だが……

「問題ない。これでいいんだ」

 鎧も持ってるけど、俺の戦い方からすると正直言って無い方がいい。
 俺は敵の攻撃を収納して防ぐのだが、鎧の上から攻撃を喰らうとどうにも収納がし辛い。全くできないってわけじゃ無いんだけど、そっちに集中をさくぐらいなら初めから着ない方がいい。

 本当なら収納のしやすさってだけなら服も着ない方がやり易いんだが、さすがに全裸で戦うなんて嫌だ。

「それにしても、隊長自ら呼びにきてもいいのか?」

 いくら俺が特殊な勲章を持っていて王の頼みを受けて来たといっても、いきなりやって来た予定外の人間だ。
 会議に参加するような立場の者がわざわざ呼びに来るのはどうなんだろうか?

「ええ。本来であれば私ではなくもっと上の者が対応するべきなのでしょうが、申し訳ありません」

 だが、ツェルニードはそうは思わないらしく、俺を蔑ろにしている上層部の対応を謝罪して来た。

「ああいや、別にそれは気にしてないよ。あの会議にいた人達が相手だと居心地が悪そうだったし、むしろツェルニードでよかった」

 それは本当にそう思う。最初に会えたのがツェルニードだったってのは幸運だった。

「身内の不手際、申し訳ありません」
「あ、ああーっと……それよりもそろそろ始まるんだろ? なら早く配置につかないと」

 だが、このままではいつまで経ってもツェルニードが謝っていそうな感じがしたので多少強引だが、そこで会話を切り上げる事にした。

 ないとは思うけど、落ち込んだまま戦って負けられると嫌だからな。

 ツェルニードが負ければ俺の扱いが変わるだろうと言う意味でもあるが、それだけではなく短い付き合いではあるが、俺はツェルニードに死んで欲しくないと思っていた。

「そうですね。では参りましょう」

 そうして配置につくために俺達は移動を始めた。


「これからは別行動ですが、ご武運をお祈りします。……貴方には必要ないことかもしれませんが」

 ツェルニードは昨日と同じく左翼側の配置だが、俺は勇者の相手をするために中央に行かなくてはならない。

 どこに勇者が現れるかなんて分からないが、とりあえず真ん中にいれば対応はしやすはずだ。

「いや。ありがとう。そっちも無事で戻ってこれるのを願ってるよ」

 そうして人生初の戦争が始まった。
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