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王国との戦争

278:再会・一人目

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「閣下、いかがされたのですか! 先ほどの巨大な岩山は、開戦前に行っておられた作戦なのでしょうか!?」

 後方からやってきた、おそらく副官だと思われる者が指揮官の男に尋ねている。
 後ろの方にいる者達は何があったのか分かっていないようだ。

 まあ、彼らに見えたのは突然大きな岩の塊が出てきて、それが地響きをたてながら沈んでいった事ぐらいだろう。

 だがその岩の塊は既に沈み切ってしまい、今ではほんのわずかな段差しか残っていない。

 ここは戦場なのだから、そんなわずかな段差があったところでそんなものは気にしないだろうから、事情がわかっていない彼らには王国の兵が消えたようにでも思えるんじゃないだろうか?

 だが指揮官の男は、そんな何が起こったのかわかっていない副官らしき人物の言葉に答える事もなく、呆然と前を見続けている。

 まあ、それはどうでもいい。

「俺は行きます。もう大丈夫だとは思いますけど、負けないでくださいね」

 勇者達をどうにか出来ても、この国が負けてしまえば完璧に目的を果たしたとは言い難い。

 さっきので敵は混乱しているし、中央の大部分を削ったのだから問題ないとは思うけど、一応注意しておいた。

 だが指揮官の男は、そんな俺の言葉にビクッと反応したかと思うと、その瞳に畏怖をのせて俺を見た。

 ……まあ、そうなるか。

 個人で軍を潰すような相手だ。それが慣れ親しんだ相手だったり、絶対に敵対しないと分かっている者であればただ敬うだけなのかもしれないが、それが俺みたいな得体のしれない奴がやったとなるとそんな反応でもおかしくはない。

 俺は無言のまま指揮官の男に背中を向けて、そのまま先ほどまで大穴の開いていた場所を歩き出した。

 ……それにしても、ちょっと前までは人を殺しただけで怯えていたのに、あれだけの人が死んでも……いや、殺してもなんとも思わないなんて、俺もこっちの世界に染まったって事なのかね。それがいい事なのか悪い事なのかはさておき。

 まあいい。どうせ、何かを感じたところで止まるつもりはなかったんだから。

 全部が終わってからになって何かを感じることはあるかもしれないけど、それはそれで、その時に考えればいいことだ。

 それよりも今は……

「……来たか」

 立ち止まる王国の兵士のが道を開けるように移動し、その間を抜けるように人型の炎が何体も現れた。

「これは環ちゃんだよな」

 現れた人型はぱっと見ではあるが、十を軽く超えている。百まではいかないみたいだが、もしかしたらそれに近い数はいるかもしれない。

 滝谷環。彼女は目の前にいるような炎でできた人型を操るスキルを持っている。
 彼女のスキルである『炎鬼』で生み出されたそれは、俺がいた時はこれほどまでに多くの数を操ることなどできなかった。

「あの子達も成長してるって事だな……」

 俺が城にいた時にはできなかったことが今はできるようになっているのだから、それは俺が逃げた後も彼女達は潰れる事なく頑張っていたということなんだろう。

 とことんまで自分のことしか考えていなかった俺は城から逃げ出す時は気づかなかったけど、王国から逃げ切って余裕ができてから改めて彼らの事を考え、ふとある可能性に思い至った。

 それは、突然異世界に連れてこられて混乱している中、仲間が突然死ねば彼女達の心に傷を残すかもしれないという事だ。
 死んだのが慕っていた相手であればそれは尚更であり、ショックで心を壊してしまってもおかしくはないかもしれない。

 今の俺に当てはめるとイリンが死んでしまったら、という状況だろうか? もしそんな事になったら、俺はどうするか、どうなるか分からない。

 その仲間に対してどう思っているかの違いはあれど、状況としては似たようなものじゃないだろうか?

 何を当然のことを、と思うかもしれないが、あの時の俺は本当に何も考えられていなかったんだ。

 ……けど、良かった。こうして成長をしているってことは、どうやら彼女達は──少なくとも環ちゃんは心が折れずに立ち上がることができたみたいだ。

 置き去りにして逃げた分際で心配するなんて、そんな資格はないのかもしれない。
 それでも彼女達が今まで無事にやってこれたっていうんなら、本当に良かったとおもう。

 そんな感慨を抱きながら、俺は炎でできているが故に音もたてずに近寄ってくる火鬼を眺めている。

 普通なら逃げたり対策をしたりするのかもしれないが、俺には必要ない。

「──収納」

 突っ込んできた炎達と俺の間に収納魔術の渦を作り出す。
 それだけで後は何もやらなくても良い。

 止まる事なく渦に突っ込んでいった人型の炎は、抵抗する事なく収納されていった。

 中には収納の渦を避けて回り込んできたのもいたけど、新たに渦を生み出して対応する事で傷一つなく終わった。

 そして全ての火鬼を収納し終えると、俺の周りには何も、誰もいなくなった。

 それでも俺は前に進む事を止めずに敵人の中央を堂々と進んでいく。

 ──けど、一つ気になることがある。

 俺は警戒して歩きながらも、気になった事について考える。

 それは、俺が残した手がかりはどうなったのだろうか? という事だ。

 俺は城から逃げる時に、俺が知り得た事を記した手帳を置いてきたけど、それは読まれなかったのだろうか? 読んでいたらこんな戦争に参加なんてしないで逃げ出していると思うんだが……

 俺は彼らを王国から連れ出そうとしてここにいるが、それでも彼らが自力で逃げてくれるんならそれに越した事はない。
 そのために手帳を手がかりとして残してきたんだし、それだけの力はあるはずだ。

 考えられる可能性としては、そもそも手帳が見つからなかった、もしくは読ませてもらえなかったって事か。

 一応日本語で書いてきたから王国の奴ら──いや、この世界の人には読めないと思うから俺の狙いが王女達に読まれる事はないとは思うが、それでも怪しんで見せなかったって事は十分に考えられる。

もしくは、あまり考えたくはない可能性。前からそうかもしれないとは考えていたが、できることならば違っていて欲しい可能性。叶うなら、こっちであって欲しくはないんだが……

「……まあ、答えは実際に会ってみないと分からないか」

 そうして考えに一旦区切りをつけると、鎧を着た一人の人物が目の前にいる王国の兵の間をすり抜けるように走ってきた。

 その人物は俺から少し離れた位置で一旦立ち止まると、ゆっくりとした足取りで俺の方に向かって歩きだし、数メートルという位置で再び立ち止まった。

「あきと、さん……」
「あー……うん。久しぶりだね。海斗くん」

 王国に勇者として呼ばれた異世界人であり、かつて俺が見捨てていった少年の神崎海斗君だった。
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