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王国との戦争
292:総指揮官との会話
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「っ……ふぅ。なんとか抜け出せたな」
そう言って前を見ると、そこには敵に向かって走っていく亜人達の姿がある。
号令に従って兵達が走りだすと、その隊列の中にいた俺は勢いに流されてその場に止まっていることはできなかった。
だがまあ、流されたとはいえ前に進む事自体は別に良かった。どうせ俺も向こうに行くつもりだったから。
さっきの結界以降、桜ちゃんの能力は見ていない。アレほどのスキルを使ったんだから、恐らくこちらの『姫様』同様には気絶しているんだろう。
そしてもう一人の勇者である海斗君は、俺の使った薬によってまだしばらくは眠っているはずだ。
このまま獣人国の兵達が王国の軍に攻め込んでもし意識のない勇者二人を見つけたら、おそらく……いや確実に殺すだろう。
だからその前になんとか見つけるとこができたら回収するつもりだった。
けど、世の中そんな上手い話はなく、敵陣に突っ込んですぐに探知をしたんだけど二人を捉えることはできなかった。
まあ二人は今は戦えないんだし、勇者なんて最高戦力、逃げるとなったら一番に逃すだろう。
見つからないのであればそのままいても仕方ないと判断した俺は、ある程度までは兵達と一緒にいたのだが、途中で敵に突っ込んだ軍の中から抜け出して戻ってきたのだ。
「……戻るか」
そうして自軍に戻ろうとしていると、誰かが馬に乗ってやってきた。
「ここにいたか」
「供を連れずに一人で戦場にいてよろしいのですか?」
きたのは今回軍の総指揮官を勤めているティーガーだった。
彼は総指揮官であるというのに、供を誰もつけずに単身で戦場を歩き回っているようだ。
「かまわぬさ。まだ戦いは終わっていないのだ。そう何人も連れて動くわけにはいくまい。それに、この程度であれば自身の身ぐらい守る事はできよう。もし死んだのであればその程度であったという事だ」
そうは言うが、それで本当に死んだら問題だろ。
だが言った本人は本当に気にしていないように堂々としている。
ティーガー総司令官は未だに戦いの続いている戦場を眺め、そしてしばらくの沈黙の後に口を開いた。
「……戻るのかね?」
「ここにいても、やることはないですから」
「まだ戦いは終わっていないのだがね」
総司令官の言うように戦争はまだ終わってはいない。だが、その趨勢は決まっている。
元々昨日の時点で獣人国の兵の数は王国兵の半分程度しかいなかった。なのに持ち堪えることができていたんだから、勇者がいなくなったうえに、兵が同数となった王国には勝ち目はない。
「……まあそれはいい。貴殿にどうこう言う権利を、私は持っていないのでな」
「では俺は戻らせていただきますね」
「ああ。……ふむ。だが貴殿が戻ると言うことは、勇者はすでに退がったという事か」
「ええ、見つける事はできませんでした」
独り言のように呟かれた言葉に一応の返事を返してから俺はその場を去ろうと歩き出すが、ふと足を止めて振り返る。
「……一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「願い、か。……勇者の保護かね?」
何も言っていないのにティーガーは俺の言う事を察していたようだ。
まあ、ここで無駄な問答をしてても危険だし、話が早くて楽いいけど。
「……はい。お察しの通りです。お願いできますか?」
「さて、どうしたものか。こちらとしては殺しておきたいところなのだがな」
馬上に乗ったまま戦場となっている方向を眺めていたティーガーだが、わずかに視線を逸らしてスッと俺の事を見た。
……もし。……もし本当にこいつらが海斗君と桜ちゃんを狙うと言うのなら、俺はこれ以上の追撃が出来ないように獣人国の兵と戦わなくてはならない。
あそこで戦ってるのは味方だ。できることなら怪我をさせたくはないし殺したくもない。
が、最悪の場合はしかたがない。
俺はその意思を込めて俺を見下ろしているティーガーを見つめる。
「……だが、その場合は貴殿が敵に回りそうだな。……よかろう。見つけた場合は殺さぬように話は通しておこう」
見つめあっていたのは僅か十数秒程度ではあったが、ティーガー総指揮官は一軍の行動を決めるにはあまりにも短いその時間の間に決めてくれたようだ。
良かった。これで絶対に助けられると言うわけではないし、保険程度の意味合いにしかならないだろう。だが、それでも保険があるのとないのではこちらの安心感が違う。
まあそれも、単なる自己満足でしかないのかもしれないけど。
「ありがとうございます」
「なに、この程度で昨日の功績に報いることが出来るとは思っておらんがね」
昨日の功績……聞いた話では一万強。およそ二万近くの兵があの大穴の中に呑まれて行ったらしい。
アレをやったときはどれほどの数が呑まれていったのかなんて気にしていなかったけど、その話を聞いたときはあまりの数の多さに一瞬理解できなかった。
だがそれでも、その数の多さに俺は驚きはしたものの、それだけの人を殺した事に精々が顔を顰めるくらいで、嘆く事どころか心を痛める事すらなかった。
どうやら俺は、俺が思っている以上にその考え方、在り方が変わっているらしい。
それとも今はまだ俺自身も分かっていないだけで、本当は混乱しているんだろうか? だから実感が湧いていないだけなのかもしれない。
「……正直、貴殿のことを見誤っていた。まさかアレほどだとは。流石は勇者、と言ったところか」
そう言ったティーガーの視線には敬意を感じはするものの、恐れや拒絶感は感じられなかった。
その事が少しだけ重くなっていた俺の心を軽くした。
「俺は勇者ではありませんよ」
「……ふっ。そうであったな。まあ良い。後はこの拠点を壊せば終わりだ。残るもよし、帰るもよし。貴殿は自由にしてくれたまえ」
ティーガーはそう言うと、馬を走らせて再び戦場へと戻っていった。
……そうか。なら、お言葉に甘えて帰らせてもらおうかな。このままここにいたら、万が一環ちゃんが再び暴走した時にかなりの被害が出るだろうから。
「少しだけ、ツェルニード達に挨拶できないのが残念だな……」
それだけ呟くと、俺は戦場に背を向けてその場を後にした。
そう言って前を見ると、そこには敵に向かって走っていく亜人達の姿がある。
号令に従って兵達が走りだすと、その隊列の中にいた俺は勢いに流されてその場に止まっていることはできなかった。
だがまあ、流されたとはいえ前に進む事自体は別に良かった。どうせ俺も向こうに行くつもりだったから。
さっきの結界以降、桜ちゃんの能力は見ていない。アレほどのスキルを使ったんだから、恐らくこちらの『姫様』同様には気絶しているんだろう。
そしてもう一人の勇者である海斗君は、俺の使った薬によってまだしばらくは眠っているはずだ。
このまま獣人国の兵達が王国の軍に攻め込んでもし意識のない勇者二人を見つけたら、おそらく……いや確実に殺すだろう。
だからその前になんとか見つけるとこができたら回収するつもりだった。
けど、世の中そんな上手い話はなく、敵陣に突っ込んですぐに探知をしたんだけど二人を捉えることはできなかった。
まあ二人は今は戦えないんだし、勇者なんて最高戦力、逃げるとなったら一番に逃すだろう。
見つからないのであればそのままいても仕方ないと判断した俺は、ある程度までは兵達と一緒にいたのだが、途中で敵に突っ込んだ軍の中から抜け出して戻ってきたのだ。
「……戻るか」
そうして自軍に戻ろうとしていると、誰かが馬に乗ってやってきた。
「ここにいたか」
「供を連れずに一人で戦場にいてよろしいのですか?」
きたのは今回軍の総指揮官を勤めているティーガーだった。
彼は総指揮官であるというのに、供を誰もつけずに単身で戦場を歩き回っているようだ。
「かまわぬさ。まだ戦いは終わっていないのだ。そう何人も連れて動くわけにはいくまい。それに、この程度であれば自身の身ぐらい守る事はできよう。もし死んだのであればその程度であったという事だ」
そうは言うが、それで本当に死んだら問題だろ。
だが言った本人は本当に気にしていないように堂々としている。
ティーガー総司令官は未だに戦いの続いている戦場を眺め、そしてしばらくの沈黙の後に口を開いた。
「……戻るのかね?」
「ここにいても、やることはないですから」
「まだ戦いは終わっていないのだがね」
総司令官の言うように戦争はまだ終わってはいない。だが、その趨勢は決まっている。
元々昨日の時点で獣人国の兵の数は王国兵の半分程度しかいなかった。なのに持ち堪えることができていたんだから、勇者がいなくなったうえに、兵が同数となった王国には勝ち目はない。
「……まあそれはいい。貴殿にどうこう言う権利を、私は持っていないのでな」
「では俺は戻らせていただきますね」
「ああ。……ふむ。だが貴殿が戻ると言うことは、勇者はすでに退がったという事か」
「ええ、見つける事はできませんでした」
独り言のように呟かれた言葉に一応の返事を返してから俺はその場を去ろうと歩き出すが、ふと足を止めて振り返る。
「……一つお願いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「願い、か。……勇者の保護かね?」
何も言っていないのにティーガーは俺の言う事を察していたようだ。
まあ、ここで無駄な問答をしてても危険だし、話が早くて楽いいけど。
「……はい。お察しの通りです。お願いできますか?」
「さて、どうしたものか。こちらとしては殺しておきたいところなのだがな」
馬上に乗ったまま戦場となっている方向を眺めていたティーガーだが、わずかに視線を逸らしてスッと俺の事を見た。
……もし。……もし本当にこいつらが海斗君と桜ちゃんを狙うと言うのなら、俺はこれ以上の追撃が出来ないように獣人国の兵と戦わなくてはならない。
あそこで戦ってるのは味方だ。できることなら怪我をさせたくはないし殺したくもない。
が、最悪の場合はしかたがない。
俺はその意思を込めて俺を見下ろしているティーガーを見つめる。
「……だが、その場合は貴殿が敵に回りそうだな。……よかろう。見つけた場合は殺さぬように話は通しておこう」
見つめあっていたのは僅か十数秒程度ではあったが、ティーガー総指揮官は一軍の行動を決めるにはあまりにも短いその時間の間に決めてくれたようだ。
良かった。これで絶対に助けられると言うわけではないし、保険程度の意味合いにしかならないだろう。だが、それでも保険があるのとないのではこちらの安心感が違う。
まあそれも、単なる自己満足でしかないのかもしれないけど。
「ありがとうございます」
「なに、この程度で昨日の功績に報いることが出来るとは思っておらんがね」
昨日の功績……聞いた話では一万強。およそ二万近くの兵があの大穴の中に呑まれて行ったらしい。
アレをやったときはどれほどの数が呑まれていったのかなんて気にしていなかったけど、その話を聞いたときはあまりの数の多さに一瞬理解できなかった。
だがそれでも、その数の多さに俺は驚きはしたものの、それだけの人を殺した事に精々が顔を顰めるくらいで、嘆く事どころか心を痛める事すらなかった。
どうやら俺は、俺が思っている以上にその考え方、在り方が変わっているらしい。
それとも今はまだ俺自身も分かっていないだけで、本当は混乱しているんだろうか? だから実感が湧いていないだけなのかもしれない。
「……正直、貴殿のことを見誤っていた。まさかアレほどだとは。流石は勇者、と言ったところか」
そう言ったティーガーの視線には敬意を感じはするものの、恐れや拒絶感は感じられなかった。
その事が少しだけ重くなっていた俺の心を軽くした。
「俺は勇者ではありませんよ」
「……ふっ。そうであったな。まあ良い。後はこの拠点を壊せば終わりだ。残るもよし、帰るもよし。貴殿は自由にしてくれたまえ」
ティーガーはそう言うと、馬を走らせて再び戦場へと戻っていった。
……そうか。なら、お言葉に甘えて帰らせてもらおうかな。このままここにいたら、万が一環ちゃんが再び暴走した時にかなりの被害が出るだろうから。
「少しだけ、ツェルニード達に挨拶できないのが残念だな……」
それだけ呟くと、俺は戦場に背を向けてその場を後にした。
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