『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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王国との戦争

296:ソーラル襲来

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 俺へと飛んできた物体は、俺に当たると同時にスキルによって収納されていったが、もしまともに喰らっていれば強化魔術のかかっている俺であってもかなりのダメージになり得るものだった。

「槍っ!? 誰がっ──!」

 そして飛んできた物体を収納してからわかった事だが、飛んできたものとは弓や魔術などではなく槍だった。

 だがそれを誰が投げたのかわからない。
 側にいるのはウースくらいだが、奴は今地面の下で出てこれないはずだし、周囲を見渡しても誰もいない。
 ……いや、違う。
 一見誰もいないように見える平原だが、遠目にではあるがこちらに向かって走ってくる人物がいる。

「あいつが槍を投げた犯人か? だが誰だ?」

 この状況なら冒険者って事はないだろう。なにせウースだったものはすでに人の形をなくし、魔物とも言えぬような異形の見た目をしていた。どう見ても人ではない。
 そしてその力も通常の魔物とは一線を画している強さだ。
 それと戦っているのに邪魔をする冒険者なんていない。

 これが俺ではなくウースを狙ってのものだったら加勢に来たという可能性もあるけど、今のは確実に俺を狙っていた。

 俺を狙っているとしたら今のタイミングだと……あるとしたら王国か?
 というかそれ以外に思いつかない。流石に獣人国の奴らから狙われるって事はないと思うし、ほかに敵対してる勢力とかないし。

 まあ、ウースみたいに俺を恨んでいる個人もいるから例外がないってわけじゃないけど……

「……人か?」

 さて誰だ、と思って迫り来る人物を観察していると次第にその姿がはっきりしてきたのだが、どうにもその姿は人ではないように思える。

 そしてある程度距離が近づくとその姿はハッキリと確認する事ができた。

 だがそれは同時に相手からも俺の事を認識する事ができるということで……

「アンドオオオオォォォ!」

 迫り来る誰かは、そう叫んだと思ったらその速度を落とすどころかさらに加速した。

「お前は……ソーラル!?」

 その身長は四メートルほどまで巨大化しているし顔だってかなり凶暴なものへと変貌している。
 だが、全身のシルエットは元のリザードマンのままだし、声も若干擦れて聞こえるけど聞き覚えのあるものだ。
 リザードマン姿のものでなおかつ俺の名前を知っていて俺に攻撃してくる様なやつなんて、一人しか思いつかなかった。

 例外の方かよ! 思わずそう心の中で叫んでしまった。

 恨まれるのは、まあ構わないが、それがここで重なるなんてどういう確率だよ! しかも二人ともなんか知らないけど姿変わってるし!

 ……いや待て。二人同時にあんな姿の変わる状態になって俺を探してここにきた? そんな偶然あるか?
 それだったらまだ誰かが意図的にこの状況を作ったという方が納得できる。

 というか実際そうなんだろうと思う。

 誰が、ってのは考えるまでもないか?
 二人をこんなのにして俺にけしかけたのは、それこそ王国の奴らだろう。
 流石に個人でこれほどのことができる奴はいないだろうし、いたとしてもそいつに恨まれる覚えは流石にない。……ないよな?

 まあいないと仮定して、そうなると個人ではなく組織となるのだが、俺を狙っている組織なんて王国の奴らしか思いつかない。

 だがそれにしても早すぎるな。戦争の件で俺を狙うんだとしても、これほど早く俺と因縁のある二人を探し出して改造し、ここに向かわせる。そんな事ができるかっていうと、まず無理だろう。

 だとしたら、こいつらは元々俺を狙うために接触されていた?

 ……その可能性はあるな。
 見たところ、二人の変化度合いはウースの方が大きく、ソーラルはまだそれほどではない。

 多分俺に出会った順番が関係してるんだとは思う。ソーラルは出会ったのが最近だったからあの程度の変化で済んでいるんだろう。

「チッ。相変わらず、やってくれるな……」

 俺が関わったことでウースもソーラルもこんな姿に変えられた。
 元々その素質というか、俺に対する蟠りを持っていたのだろうけど、それだけではここまで変わることもなかったはずだ。

 その事に若干の罪悪感と苛立ちを感じながら、俺へと迫りくるソーラルへと注意を向ける。

 ソーラルは、先ほどのウースとの戦闘で地面に刺さったままになっていた槍を手に取り再び俺に向かって投げつけた。

 その槍は先ほど俺に向かって放たれたものよりも速く、力強いものだった。

 だが、それでも槍というものが命を持たない道具である以上、さっきと結果は変わらない。

 再び投げられた槍も俺の体に当たった瞬間スキルによって収納され、俺に傷一つ残す事はなかった。

「俺は里を守る! 俺が里を守る! お前は邪魔だああああ!」

 複数の声が重なって聞こえる声で、ソーラルはそう叫ぶ。どうやらソーラルは里を守るという父親の言葉が核となっているようだ。

 だが俺には里や神獣をどうにかしようなんて思っていない。それは俺にあの里の存在を教えたグラティースもそうだろう。

「俺はあの場所をどうにかしようなんて思っていない!」

 一応無駄であろうとは思っているが、そう反論してみる。
 これで止まってくれればいいんだが、まあそう上手くはいかないだろうな。

「うるさい! 俺は騙されない! お前は俺が倒す! そのためにこの力を得たんだ!」

 ああ、やっぱりか……。思わずそんなため息が溢れてしまう。

 俺の言葉を聞いてもなおソーラルは止まる事なく巨大化した体をもって、ため息を吐く俺へと殴りかかってきた。

 叫びながら攻撃してくるソーラルは流石というべきか、以前と比べてその能力は桁違いに上がっている。

 とはいえ、その動きはウースほどに速いわけではない。
 その上、まだ強化された肉体に慣れていないのかその戦い方は直線的なものであり、ウースのようにいくつもの腕を生やしたりなどはしないので、容易く避ける事ができるし収納魔術で弾く事ができる。

「お前を倒せば俺はまだ戻れる! まだやり直せる! 里に戻って守るんだ!」

 やり直せる、だと? 知る限りではこいつは追放されたわけでもない。なのに戻れるってのはいったい……

 もしかして、俺が里を出て行った後に何かあった? 

 ……考えられるのは王国の奴らと接触して何か問題を起こしたか? それも、俺をどうにかすると言った感じのやつ。
 それでチオーナ……いや、時間的にはスーラが起きてたのかもしれないな。それで自身の祀る神獣に怒られてて自棄になったが? スーラも流石に追放まではしないだろうし。

 だがどうする? 追放されようが自分から出てこようがどっちでもいいけど、ソーラルには意識がまだ残っている。ウースはもう手遅れだと思うが、それでもソーラルであればまだどうにかできるんじゃないだろうか?

 ひとまず意識を奪って里の奴らに見せればいいんじゃないだろうか?

 里の奴らをここまで連れてくるのか、それともソーラルの意識を奪った後に連れて行くのかはまだ考えていないが、殺すというのはまだやらなくていいだろう。

「ッ──! なにっ!?」

 しかし、そうし思ってソーラルの対処をしていたのだが……

「カエセエエエェェェエエェエ!!」

 地面の下に封じたはずのウースが、蓋の役割をしていた収納魔術を壊して穴から飛び出てきた。
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