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王国との戦争
317:街の異変
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「あの、あそこがこの国の首都なんですよね?」
「ああ、そうなんだが……」
環ちゃんからかけられた問いに、俺ははっきりと答えることができなかった。
色々なことがあって、やっと帰ってくることができた。
だが、ある程度近づいたら分かったのだが、なんだか街が騒がしいというか、異変でもあったように見える。
「とりあえずもう少し近づいてみるか」
ここから街を見ることはできると言っても、街まで結構な距離がある。なんとなくおかしいとは思っても正確に何があったとは分からない。
というか何かあったとしたら、いったい何があったんだ? 戦争があったとはいえ、敵の軍は国境の守りを抜くことはできなかったはずだ。
少数なら出来たかもしれないけど、それでも気づかれないように行動できる程度の少ない人数では、遠目から見てわかるほどの被害を出せる騒ぎなんて起こすことはできないのではないだろうか?
だとしたら本当に何があったっていうんだ……
「……彰人さん?」
近づくかと言いながらいつまで経っても歩き出さなかった俺に、環ちゃんが顔を覗き込んできた。
「っ! あ、ああ、すまない。行こうか」
そうして疑問はあるものの、俺たちは街へと近づいて行った
「工事の音が聞こえます」
街に近づいて行くと、突然ピクピクと耳を動かし始めたイリンがそんな事を言った。
「工事ってのは何かを建てたりか?」
「それもですが、何か大きな物を動かす音や男性達の叫び声です。叫びと言っても悲鳴の類ではありませんが」
ここまで聞こえるほどの大きな工事? イリンの耳だから聞こえるんだとしても、ここまで聞こえるってのはかなりの大規模なものじゃないか?
「それと、門や外壁の一部が壊れているようにも見えます」
「っ! それは……襲撃に合った?」
「その可能性が高いかと。とはいえ戦闘音や血の匂いの類は感じられないので戦闘自体は終わっているものだと思いますが。……如何されますか?」
まあ戦争があったのは一ヶ月近く前だ。襲撃を受けたって言っても、流石にもう終わったんだろう。
今更俺が急いだところで何ができるってわけでもないだろうけど、あそこには家がある。一応ケイノアを守りを頼んでおいたが、それでも襲撃があったと聞くとどうしても心配になる。
「……少し急ごう。戦闘がないって言っても、早めに行って状況の確認がしたい。二人とも、まだ走れるか?」
「問題ありません」
「大丈夫です、彰人さん」
ここまでの旅で歩き通しだったから疲れているんじゃないかと思ったが、二人は俺の事を気遣ってくれたのか、大丈夫だと頷いてくれた。
まあ、イリンは即答したしその様子からすると本当に疲れていないんだろうが、環ちゃんは少しばかり疲れているように見える。
だが、彼女の気遣いを無駄にするのもなんなので、俺はそれに気づかないフリをして走り出した。
「本当に門がやられてるな……」
街のすぐそばまでやって来たのだが、俺たちがこの街を出た時には健在だった門も街を囲う外壁も、傷つき、一部は穴が空いたりしていた。
「それにしても、あなたよくあの距離から見えたわね」
「この程度当然です。……むしろ、あなたはできないのですか? 勇者なのに?」
純粋な環ちゃんの疑問の声に、イリンは少し不思議そうな顔をしてそう言って逆に問いかける。
でも、その言葉は一応勇者として召喚された身である俺にも刺さるんだが?
「……その言葉だと彰人さんにも言ってる事にならないかしら?」
環ちゃんが俺の心を読んだかのように一瞬だけ俺に顔を向けてからそう言ったのだが、イリンはその言葉に僅かばかりの嘲笑を交えて返した。
「何を言っているのですか。配下である私の力は主人であるアキト様の物です。ですので、アキト様はできなくてもなんの問題もありません」
……その台詞はなんだか俺がヒモみたいでやだなぁ……
「ですがあなたは違います。私の主人ではなく、アキト様の配下なのでしょう? であればこの程度できなくてどうしますか」
いや、俺はイリンはもちろんだが、環ちゃんを配下として見たことはないし、これからも配下として見る気はないぞ?
できることなら、イリンには自分のことを俺と対等な存在として見てほしいんだが、それはまだ先のようだ。まあ、今までの奴隷よりは良くなってるからまだマシなんだけどさ。
「それは……くぅっ」
「ふっ、まだまだですね」
「今はまだでも、絶対に諦めないんだから」
「そうですか。期待しないでおきますね」
環ちゃんの言葉に対して、イリンは俺には向けないような挑発的な笑みを浮かべながらそう言った。
ここにくるまでの旅の最中の様子や今の感じからすると、この二人は仲良くなったってわけではないけど、仲が悪いってわけでもないように見えるな。
けど二人の間に何があったのか、どんな話をしたのかっていう肝心な事は全く分からないままだ。
……なんで当事者であるはずの俺が状況を全く理解できていないんだ?
そう思ったが、追求したところで二人が何を話したか、なんてのは詳しく教えてはくれないんだろうな、きっと。
「ああ、そうなんだが……」
環ちゃんからかけられた問いに、俺ははっきりと答えることができなかった。
色々なことがあって、やっと帰ってくることができた。
だが、ある程度近づいたら分かったのだが、なんだか街が騒がしいというか、異変でもあったように見える。
「とりあえずもう少し近づいてみるか」
ここから街を見ることはできると言っても、街まで結構な距離がある。なんとなくおかしいとは思っても正確に何があったとは分からない。
というか何かあったとしたら、いったい何があったんだ? 戦争があったとはいえ、敵の軍は国境の守りを抜くことはできなかったはずだ。
少数なら出来たかもしれないけど、それでも気づかれないように行動できる程度の少ない人数では、遠目から見てわかるほどの被害を出せる騒ぎなんて起こすことはできないのではないだろうか?
だとしたら本当に何があったっていうんだ……
「……彰人さん?」
近づくかと言いながらいつまで経っても歩き出さなかった俺に、環ちゃんが顔を覗き込んできた。
「っ! あ、ああ、すまない。行こうか」
そうして疑問はあるものの、俺たちは街へと近づいて行った
「工事の音が聞こえます」
街に近づいて行くと、突然ピクピクと耳を動かし始めたイリンがそんな事を言った。
「工事ってのは何かを建てたりか?」
「それもですが、何か大きな物を動かす音や男性達の叫び声です。叫びと言っても悲鳴の類ではありませんが」
ここまで聞こえるほどの大きな工事? イリンの耳だから聞こえるんだとしても、ここまで聞こえるってのはかなりの大規模なものじゃないか?
「それと、門や外壁の一部が壊れているようにも見えます」
「っ! それは……襲撃に合った?」
「その可能性が高いかと。とはいえ戦闘音や血の匂いの類は感じられないので戦闘自体は終わっているものだと思いますが。……如何されますか?」
まあ戦争があったのは一ヶ月近く前だ。襲撃を受けたって言っても、流石にもう終わったんだろう。
今更俺が急いだところで何ができるってわけでもないだろうけど、あそこには家がある。一応ケイノアを守りを頼んでおいたが、それでも襲撃があったと聞くとどうしても心配になる。
「……少し急ごう。戦闘がないって言っても、早めに行って状況の確認がしたい。二人とも、まだ走れるか?」
「問題ありません」
「大丈夫です、彰人さん」
ここまでの旅で歩き通しだったから疲れているんじゃないかと思ったが、二人は俺の事を気遣ってくれたのか、大丈夫だと頷いてくれた。
まあ、イリンは即答したしその様子からすると本当に疲れていないんだろうが、環ちゃんは少しばかり疲れているように見える。
だが、彼女の気遣いを無駄にするのもなんなので、俺はそれに気づかないフリをして走り出した。
「本当に門がやられてるな……」
街のすぐそばまでやって来たのだが、俺たちがこの街を出た時には健在だった門も街を囲う外壁も、傷つき、一部は穴が空いたりしていた。
「それにしても、あなたよくあの距離から見えたわね」
「この程度当然です。……むしろ、あなたはできないのですか? 勇者なのに?」
純粋な環ちゃんの疑問の声に、イリンは少し不思議そうな顔をしてそう言って逆に問いかける。
でも、その言葉は一応勇者として召喚された身である俺にも刺さるんだが?
「……その言葉だと彰人さんにも言ってる事にならないかしら?」
環ちゃんが俺の心を読んだかのように一瞬だけ俺に顔を向けてからそう言ったのだが、イリンはその言葉に僅かばかりの嘲笑を交えて返した。
「何を言っているのですか。配下である私の力は主人であるアキト様の物です。ですので、アキト様はできなくてもなんの問題もありません」
……その台詞はなんだか俺がヒモみたいでやだなぁ……
「ですがあなたは違います。私の主人ではなく、アキト様の配下なのでしょう? であればこの程度できなくてどうしますか」
いや、俺はイリンはもちろんだが、環ちゃんを配下として見たことはないし、これからも配下として見る気はないぞ?
できることなら、イリンには自分のことを俺と対等な存在として見てほしいんだが、それはまだ先のようだ。まあ、今までの奴隷よりは良くなってるからまだマシなんだけどさ。
「それは……くぅっ」
「ふっ、まだまだですね」
「今はまだでも、絶対に諦めないんだから」
「そうですか。期待しないでおきますね」
環ちゃんの言葉に対して、イリンは俺には向けないような挑発的な笑みを浮かべながらそう言った。
ここにくるまでの旅の最中の様子や今の感じからすると、この二人は仲良くなったってわけではないけど、仲が悪いってわけでもないように見えるな。
けど二人の間に何があったのか、どんな話をしたのかっていう肝心な事は全く分からないままだ。
……なんで当事者であるはずの俺が状況を全く理解できていないんだ?
そう思ったが、追求したところで二人が何を話したか、なんてのは詳しく教えてはくれないんだろうな、きっと。
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