『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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2巻

2-2

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「どうぞ」
「アンドー、ね……ハッ。なんだ、鉄級かあんた」
「ええ。ちなみにこっちはイリン。同じく鉄級です」
「なるほどね――帰んな。あんたたち」

 目の前の女性は、俺の渡したギルド証を投げ返しながらそう言ってきた。

「……それはどういうことでしょうか?」

 いきなり帰れと言われても困る。
 この街には数日しか滞在しないが、逆に言えば数日は滞在するからこの街について何も知らないっていうのはまずい。
 他の奴に聞けばいいのかもしれないけど、今この人に「帰れ」なんて言われた理由が分からないと、同じ理由で拒否される可能性が高いだろう。
 なんだったら、怪しい奴がいるとうわさになってしまうかもしれない。ここはでも断られた理由を聞いておきたい。

「あんたはともかく、そっちの子が鉄級? 笑わせんな。その子はもっと強いだろ。何の用で私に近づいたか知らないけどね、私に手を出そうってんなら――後悔するよ」

 ……ああ、そういうことか。実際の強さを偽って俺たちが何か企んでるように見えたんだな。
 そんなことをするつもりは全くないのだが、見たところこの人は一人だし、そういう警戒も必要なのかもな。
 それにしても、やっぱり相手の強さって分かるもんなんだな。俺みたいなハッタリじゃなくて。

「いえ、別にそんな物騒なことを考えてはいませんよ。それに、イリンが弱いなんて言った覚えはないのですが?」
「あん? だが鉄級だろ?」
「ええ。ですが、鉄級だからといって弱いわけではないでしょう? たとえば、元々強い人が冒険者ギルドに加入した場合でも鉄から始まる筈です。他にも冒険者になっただけでまともに依頼をこなしていなければ階級は低いままです。俺たちは前者ですが」

 確かに冒険者としての階級は強さの指標にはなるだろうけど、それが絶対ってわけじゃない。
 もしかしたら何十年も山籠やまごもりしていた達人が登録するかもしれないし、本当の天才がいるのかもしれない。なんなら異世界からやってきた勇者なんかも登録するだろうし。
 まあ、嘘をつく必要なんてないので正直に先日登録したばかりだと言ったが、女性はまだ疑っているみだった。

「……そぉかい。じゃあそっちの子の視線はなんだって言うんだい?」
「視線?」

 そう言われてイリンの方を向くが、そこには今までと変わらないイリンの姿があるだけだった。

「……何かあったか?」
「いえ。何もありません」

 イリンの答えを聞いて目の前の女性に向き直ると、女性はそれまでの剣呑けんのんな視線を、なんとも言えないような表情に変えていた。

「……ああ、そういうわけかい。安心しな、お嬢ちゃん。私はあんたの敵にはならないよ」
「その保証はありません」
「なら、名とほこりにかけて誓おう。それでどうだい?」
「……分かりました」

 二人の間で話がまとまったようだ。
 なんとなくの話しか分からないが、多分イリンがまたおかしな感じになって、それを察した目の前の冒険者がうまくしずめてくれたんだろう。
 はぁ……いくら命を助けたからって、そんなに入れ込むほどの魅力が俺にあるとは思えないんだけどな。
 内心ため息をつく俺の前で、冒険者の女性は息を吐く。

「――ふう、帰れなんて言って悪かったね」
「いえいえ。女性の冒険者としては当たり前の警戒だと思いますよ。見たところお一人みたいですし」

 この世界は、『力を持っている者が正しい』みたいな風潮ふうちょうがあるからな。それに準じて暴力にモノを言わせてバカなことをやるバカもいるから、自身の身の安全を守るためには当然の対応だ。

「ただ、そうやって謝っていただいたからには、ちゃんと教えていただけるのでしょう?」
「抜け目がないねぇ。ま、いいさ……で、何が聞きたいんだい?」
「その前に注文してもいいですか? 俺たちまだ何も食べてなくて」

 俺がそう言うと、目の前の女性は数回目をしばたたかせてから盛大に笑った。


「――するとこの街は平和なんですか?」

 彼女から一通り話を聞いた俺は、そう尋ねる。
 エルミナ・エルード。それが彼女の名前だった。

「ああ。魔族たちの国とも獣人たちの国とも接してないからね。戦う理由なんてないのさ。まあ騎士や兵どもは南の奴らといがみ合ってるけど、一般人には何もないし、あたしたちみたいな冒険者なんかは特にそうさ。亜人だろうが気にしない奴が多いから、亜人を受け入れている国と接してようが関係ないんだよ。ただ金になるから戦う。それだけさ」

 あきれたように肩をすくめるエルミナ。話してる感じからすると、この国のことをあまり好きじゃないみたいだな。
 よかった、最初に声をかけたのがこの人で。

「なるほど。じゃこの街では亜人がいてもそれほど騒ぎにはならないんですか?」

 そうならイリンのことが見つかっても大丈夫だから、多少は気楽でいられるんだけど……

「いや、そういうわけじゃないね。亜人に偏見がないって言っても、お国柄全員がそうじゃない。街中には衛兵がいるし、そいつらに見つかったら誰かの奴隷であっても面倒なことになるかもしれないね――だからイリンちゃんのフードは外さない方がいいよ」

 っ!? 気づいていた? なんでだ? イリンのフードはこの街に来てから一度も外していないのに。何か耳と尻尾以外に見分ける方法があるのか?

「……お気づきでしたか」
「あったりまえだろ。これでもあたしはいくつもの国を旅してんだ。その程度の変装ならすぐに分かる」

 エルミナは「ここにいるのだって旅の途中さ」とおどけてみせた。
 しかし困った。見ただけで分かるんなら何か対策をした方がいいのか?
 城から持ってきた『宝』の中に変装に使える道具とかあったかな? それとも部屋から出さなければいいか? 窮屈きゅうくつだろうけど、数日程度なら、まあ大丈夫だろ。

「まあ、あたしみたいにそれなりのがないと分かんないだろうけどね。けど、変装をするんだったらもっとしっかり形が分からないようにするか、フードじゃなくて帽子ぼうしにしときな」


「そうですか。それはよかった。それにご忠告ありがとうございます――ところでこんなことを聞いたら失礼かもしれませんが、エルミナさんはお強いのですか?」

 それなりの腕、ということはこの人は強いということだろう。たまたま話しかけただけだが、もし高位の冒険者なら仲良くなっておいて損はない。
 彼女がこの国を好きじゃないなら、もし俺の正体がバレてもなんとかなりそうだし、後々彼女の力が必要になってくるかもしれないしな。

「なんだ、本当に知らなかったのかい?」
「……その口ぶりですと有名な方みたいですね。ですがすみません。さっきも言ったように俺たちは冒険者になったばかりなので、そういったことにはあまり詳しくないんですよ」
「……へぇ。なるほど――悪かったね」
「? 何がですか?」

 いきなり謝られても困る。なんで謝られてんだ俺は?

「いやね、登録したばっかりってのは嘘で、本当はやっぱりあたしを狙ってるのかと思ってたんだけど……どうやら本当に違ったみたいだね」

 まだ疑ってたのか……いや、それも当然だな。一度、詐欺師さぎしかもしれないと疑った相手を、そう簡単に信じるわけがない。
 元いた日本じゃ命の危機も少ないからすぐに他人を信じちゃう人もいたが、この世界では、そんな奴はいないだろう。

「おや、俺たちまだ疑われてたんですか? いやー、傷つきましたね。この心の傷をいやすために、慰謝料いしゃりょうとしてもっとお話を聞かないとですねー」

 俺はそんなふうにおどけてみせる。

「くくっ。なんだい、その下手な芝居は。ま、構やしないけど、話すだけでいいのかい?」
「ええ。俺たち旅をしてるんですけど、この国にいると他の国の情報が手に入りづらくて……ですのでエルミナさんが旅をした際のお話を聞ければな、と」
「くっくっく。そんなことでいいのならいくらでも支払ってやるさ」

 そう言いながらエルミナは手を差し出してきた。

「改めて、あたしはエルミナ・エルード。ミスリル級冒険者だ。『飛燕ひえん』なんて二つ名で呼ばれてるよ」

 ミスリル級といえば、冒険者としては一握りしかいない、かなりの実力者の部類だ。金級くらいだと思ってたんだけど……これはいい話が聞けそうだな。

「俺はアンドー・アキト。冒険者になったばかりですが、よろしくお願いします」

 ……ああ、こうして誰かと話すのって、やっぱり楽しいな。
 誰かを疑うことなんかより、よっぽど楽しいよ。


「それではおやすみなさいませ、ご主人様」
「ああ、おやすみ」

 俺はそう言って、渋々といった様子で部屋を出て行くイリンを見送る。
 俺たちはエルミナと別れた後、冒険者ギルドから宿に戻ってきて、現在は明日の砦訪問のために準備を終えたところだ。
 彼女からはいろんな話が聞けた。各国の情勢だったり、その地方特有の文化だったり。
 特に貴重だったのが、これから俺たちが向かう予定のイリンの故郷がある獣人たちの国、クリュティースの情報だ。
 知識の中には国の大まかな配置などの簡単なものはあったけど、その地特有の知っておいた方がいいこと、知らないといけないことが一切なかった。だからそういった知識を補填ほてんできたのは十分な収穫だった。
 それに、エルミナと知り合いになれたことも大きい。
 知り合いといっても旅の途中のその他大勢として忘れられるかもしれないが、それでも構わない。一度接点さえできれば、何かあった時に頼ることができるかもしれない。
 こういうのは、多くの人と接点を作って可能性を増やしておくことが問題解決のかぎになるのだ。
 実際日本にいた時も、一度だけ会ったことのある人に営業に行って、そのおかげでなんとかなったことがあるし、それは異世界でも大して変わらないだろう。
 まあ、ひとまずここまでは順調だな。
 あとは明日、砦に行ってどうなるかだが……大丈夫だとは思うけど最悪の場合を考えて準備は怠らないようにしよう。

「ふう。そろそろ寝るか。寝不足で力が出ないってのも馬鹿らしいし」

 俺は店で買った侵入者を阻むための結界を張ってから眠りについた。高かったけど、金にはまだまだ余裕があるし問題ないだろう。


 翌朝。
 ここは王城ではなくただの宿屋である筈なのだが、城にいた時と同じように扉の前で誰かが待機する気配がした。
 誰か、なんて見なくても予想はつくけど。

「おはようございます」

 扉を開けると、そこには予想通りイリンが待っていた。

「最低限必要なことさえやってあれば、いちいち待ってないでいいぞ? それにそこで待ってると、獣人だとバレるかもしれないしな」
「これは奴隷として必要なことですので。尻尾や耳は昨日エルミナさんに言われて、今まで以上に丁寧に隠していますからご心配には及びません」

 やんわりと断ったつもりなんだけど、通じてないのか?
 いや、この堂々とした様子は、分かってるけど引く気はないって感じか。
 ……仕方がない。これ以上言っても時間の無駄むだか。

「……朝食に行こうか」
「はい!」

 朝食を食べるために歩き出すと、イリンが元気よく返事をして付いてくる。
 振り返ってその様子を見ることはないが、背後から聞こえた彼女の声にホッとしている自分がいた。
 なぜホッとしたのか、何にホッとしたのかは自分でも分からなかったが、俺はそれを気にすることなく歩き続けた。

「食べながらになるが今日の予定を話そう」

 この宿でも、大して美味しくはない朝食が出た。
 パンと肉とスープ。まだ二回しか食べてないけど、これが一般的な宿の定番だと分かる。
 俺にとってはみちぎって食べるような、固く感じるパン。普通はスープなどに浸してパンを柔らかくしてから食べるものだが、イリンはなんでもないようにそのまま食べている……イリンは獣人だから、これくらいは当然なんだろうな。まあ、俺もやろうと思えばできるし?
 ……はぁ。つまらないことで見栄みえを張るのはやめよう。
 馬鹿らしいし、そもそも「やろうと思えば」なんて言ってる時点で負けてる。張り合いたいなら、あれを自然体でやらないと。
 俺はそんな無駄な考えから頭を切り替えて、イリンに声をかける。

「イリンには、砦に行く時はそのメイド服を着替えてもらう。で、悪いが俺が用意した服を着てもらう」
「……はい。かしこまりました」

 うん? これまでなら俺の言葉に速攻で返事してきてたのに、今なんだか間があったな。
 何か今の服を着替えたくない理由とかあるのか? 俺に仕える従者としての格好だからとか?
 ……分からないな。聞くしかないか。

「イリン。その服に何か思い入れというか、着替えたくない理由でもあるのか?」
「……はい。この服は、ご主人様にお仕えする者としてふさわしい格好ですから」

 ああ。やっぱり。
 そう言ってもらえるのはありがたくはあるんだが、砦を抜けるまでは作戦に必要だから着替えてもらわないといけな――

「それに、この服を着ているとご主人様を感じていられますので」
「うん?」

 俺を感じていられるってどういう意味だ?
 俺が送った服とかなら分かるけど、今イリンが着ているメイド服は彼女が自作したものだ。
 それがどうして俺と関係があるんだ?

「この服の内側には、ご主人様からいただいた物を縫い込んであるんです。この服を着ているだけで、私は幸せな気持ちになれます」

 …………うん?
 なんだか今とってもおかしなことを言われた気がする。
 俺があげたものを服の内側に縫い込んである? 俺はイリンに何かを贈った記憶なんて全くないぞ?

「イリ……」

 口を開いてイリンに問いかけようとしたが、なんだか聞くのが恐ろしくなってきて言葉が止まってしまった。

「どうかなさいましたか?」

 ええい、迷う必要なんてないだろ! 知るのは怖いけど知らないのはもっと怖い。聞け、自分の安心のためにも!
 それにイリンは一事が万事こんな感じじゃないか。どうせこの後も一緒にいるんだ。ここでおくしていたら今後が大変だぞ!
 イリンのことを信じることができず、一時は殺そうとすら思っていた筈なのに、俺は無意識のうちに、国境を越えた後もイリンと一緒にいる気になっていた。

「いや。俺はイリンに何を渡したかと思ってな」
「はい! 助けてもらった際にいただきました」
「……助けた時? なにか……ああ、金になりそうなものと奴隷の契約書(偽)を渡したか? でもそれ以外には特に渡してないよな?」
「はい! その時にいただいたお金で布と裁縫道具を買いこの服を作りましたが、残りは使わずに、契約書と共に大切に保管してあります」

 自分の腹部に手を当ててうっとりしているイリン。
 ……え? なんでそんなところを押さえてるの? そこに縫い付けてるのか? なんでそこ? もっと違う場所があるだろ、多分。
 それに服にお金を縫い付けるとか、どんな成金趣味だよ。
 いやまあ、金属を服につけるってのは防具としてみるのであれば当たり前なのか?
 それにいざという時のためにそういう風に隠しておくのも正しいから、イリンの行動はおかしくない? ……あれ? どうなんだろう?
 異世界の常識がよく分からなくなってきた。

「この服に縫い込んであるのは、ご主人様が私にくださった大切なものです。ですので、できる限りこの服でいたいのですが……ご主人様の命とあらば、如何様いかようにもいたします」

 ……どうしよう。まさかあの時渡したものをこんなに大切にしてるなんて。
 アレ、イリンの元主の奴隷商らしき男の死体から回収しただけなんだけど……
 ……うん。まあ、大切にしてくれるのはいいことだ。それよりも話を進めよう。

「そうか。じゃあ悪いんだけど頼むよ。それと、ちょっとした演技に付き合ってほしい」
「かしこまりました」

 こちらの話を聞かずに即答するイリン。

「まあ待て。まずは説明を聞いてくれ。場合によっては痛いことになるだろうから、断ってくれても構わないぞ」
「いいえ。それがどのようなことであったとしても、私が断ることはありません」

 こうもはっきりと言われると、これから頼む内容に心苦しさを覚えるな。

「まあ、こんなところで話すことでもないから部屋に戻ろうか」

 朝食も既に終わってるし、他人の耳があるところでおおっぴらに話すことでもない。
 部屋に戻って詳しい打ち合わせと準備をすることにした。




 第2章 作戦と激闘


「それじゃあイリン。何かあったら打ち合わせ通りに頼むぞ」
「はい。お任せください!」

 俺たちは現在、関所に併設された砦に向かっている。イリンにはさっき話していた通り、普通の服に着替えてもらった。
 本来であれば、国を出るには申請をしてから数日から一週間ぐらい必要になるのだが、俺たちにそんなに待っている時間はない。
 というわけで、通用するか分からないけど、ちょっと裏技を使わせてもらう。
 失敗したらその時はその時だ。悩んでてもどうにもならない。
 砦の入り口に近づくと、警備兵らしき男が声をかけてくる。

「おい、そこの奴。許可証は持っているのか? まだなら出国の申請をあっちでしてこい」

 そう言って近くにある建物を指差すが、俺は首を横に振る。

「ここの最高責任者に会いたい。案内してくれ」
「は?」

 あえて偉そうに言うと、兵士たちは口を開けて、ぽかんとした表情になった。

「聞こえなかったのか? ここの責任者に会わせろと言ったんだ」
「ふざけてんのかお前。ここがどこだか分かってんのか?」
「分かっているさ。亜人どもとその仲間である裏切り者どもから王国を守っている砦だろう? だからこそ俺はここに来たんだ」

 別に亜人のことをさげすむつもりはないし、亜人を受け入れてる国を裏切り者なんて思ってないけど、作戦のためにそう言う。
 単なる一般人のように見える俺に堂々とした態度でそう言われて、兵士は訝しげな顔になる。
 そして説明を求めるように他の兵士たちに顔を向けるが、その答えを持っているものは誰もいなかった。
 そんな彼らを、俺はかす。

「早くしてくれ。こっちにも都合があるんだから」
「都合なんて知ったことか! なんでお前みたいな奴の言うことを聞かなきゃいかんのだ」
「なに? ……連絡がうまくできてないのか?」
「は? 連絡だと?」

 その兵士は再び他の者に顔を向けるが、全員が知らないと首を横に振る。
 もちろんこれもハッタリ。連絡などあるわけがない。
 もしかしたら、『勇者スズキ』を捕らえるため、黒髪黒目の男を捜すよう連絡が入っているかもしれない。
 だが、今の俺の髪は金茶色である。
 ちなみに、眼は黒色のままになっている。カラコンっぽいものはあったが、作りが粗そうで怖かったので使わなかった。
 ともかく、俺はここでたたみかける。

「……なるほど。まさか、ここまでの状況だとは……」

 あたかも何かを知っているかのように呟いてみる。

「まあいい。最高責任者が無理ならお前の上司でいい。呼んでくれ」

 人というのは、よく考えればダメだと分かることでも、堂々とした態度で押し切られてしまうと、言われた通りに行動してしまうものだ。
 一応疑いはするものの、本当のことを言っている可能性も考えて、上司なりに相談するだろう。
 今回はその上司が目的なので、いずれにせよ俺の狙い通りになるというわけだ。
 そして目の前の兵士も、俺の思惑通りに動いてくれそうだった。

「……その前に、お前の名前と所属を聞かせろ」
「所属は国王陛下直轄ちょっかつ部隊だが、俺の名前は言えない」
「言えないだと? それで『分かった』とでもいうと思っているのか?」
「ああ、思う。俺がわざわざ所属まで伝えたんだ。流石に、それで名前を言えない理由を察せないような馬鹿じゃないだろう?」

 俺の言葉にざわめく兵士たち。国王の直轄なんて実際に会ったことがなくて、どうすればいいのか分からないんだろう。
 このままでは時間がかかりそうだったので、できるだけ早く案内してもらいたい俺は駄目押しする。わざとらしくため息を吐いてから、収納から一本の剣を取り出した。

「証拠としてこれを。これを見せれば俺のことを信じてもらえる筈だ」

 それは宝物庫から持ち出した、この国の国章が入った剣だ。
 俺たちの訓練に付き合っていた騎士団長だけでなく、召喚者である魔術師のじいさんも持っていたもので、爺さんの知識によると、所属や身分を示すためのものらしい。
 装飾の豪華さが違うものが数種類あったので、その中でも二番目に豪華なものを出した。
 これがあれば多分ここの責任者、少なくともこいつらの上司には会わせてもらえるだろう。

「何? 証拠? ……っ、これは! し、失礼しましたっ! ただ今上司を呼んで参ります!」

 俺と話していた兵士は、剣を見るなり走り去っていったのだった。


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