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王国との戦争
337:寂しくなった家
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「ただいまー……って、ああ」
家に帰ってきたのでいつものように挨拶をしたのだが家の中からは誰の返事もなく、キリーとガムラはたった今見送って来たのだと思い出した。
「……今までを考えると、少し寂しい感じがしますね」
「そうだね。こうしてみると、この家も広いものなんだな」
イリンが少し寂しげな声で呟き、俺も今更になって別れの実感が湧いてきた。
「……キリーさんは、大丈夫でしょうか?」
俺とイリンに比べれば接した時間は短いが、それでもキリーと仲良くしていた環ちゃんもキリー達のことを心配しているようだ。
「あいつらならきっと大丈夫だよ。まあそうは言っても気になると思うけど、でも、だったら見に行けば良い。どうせそのうち行くって約束したんだ。見に行って、盛大にからかってやろうじゃないか」
「ふふ。はい、そうですね」
そう言って笑った後に、それぞれ自分のやるべき事をするために動き出した。
……まあ、そうは言っても家事に関しては基本的にイリンと、イリンに対抗するべく頑張っている環ちゃんがやってしまうので俺のやることと言ったらゴロゴロする以外はなにもない。
仕事にいかず、家事は全て自分を慕っている女性に任せにして自分は家で怠けているとか、完全にダメな奴じゃないだろうか?
だが仕方がないのだ。俺が何かしようとするとストップがかかる。俺としては一緒に家事をやったりしてもいいんだけどな。と言うかそうじゃないとやる事がなさすぎる。
どうしようか。今から冒険者ギルドに行って何か仕事を受けるか?
でも今は朝だが、もうすでに割のいい依頼はなくなっているだろう。あと残っているものと言ったら面倒で時間のかかる割に金払いの悪いやつくらいだと思う。
仕事をしないのもなんだし、副業でもするか? まあ、冒険者が本業ってわけでもないんだけどさ。
でも、前から考えていた金稼ぎの方法はある。それを鍛えるのもいいかもしれないな。
「キリ~。ご飯ちょうだ~い」
そんなことを考えていると、ケイノアがそんなことを言いながら二階から降りてきた。
「あら、あんたなんでそんなとこにいんのよ。その格好、もしかしてこれからどっか出かけるの?」
「もう出かけてきたんだよ」
「そうなの? こんな朝早くからご苦労なことね」
そう言ってケイノアは大きく欠伸をしてから、若干おぼつかない足取りでキッチンへと歩いていった。
「ま、そんなことどうでもいっか。そんなことより……キリー、ごはーん! ……あれ?」
だがケイノアはキッチンを覗くと、間抜けな声を出して首を傾げた。
「キリーはもういないぞ」
「へ? なんで? いないってどうしてよ」
さっきの言葉から察していたが、こいつはやっぱり話を聞いていなかったようだ。もしくは聞いていたけど忘れていたらしい。
「前に話しただろ。一週間経ったらここを出てガムラの故郷に行くって」
ついでに言うのなら昨日も教えた。こいつはずっと寝てたから、話したときは寝ぼけてたかもしれないけど。
「……あー、そういえばそんな気がしなくもないような感じがするかもしれないわね……」
「それくらい覚えておけよ」
「仕方ないじゃない。私たちにとって一週間も一ヶ月も大して変わらないんだから」
あー、なるほどな。長寿の種族とは時間感覚が違うんだった。
……ん? だが待てよ。以前、こいつの妹であるシアリスは、街に住んでいると時間の感覚は人と変わらない、みたいなことを言っていなかったか?
……そうなると、やっぱり単にこいつが忘れてただけだろう。
「まあそんなわけでキリーはいない」
「なら私のご飯はどうするのよ」
「知るかそんなもん。自分で作れ」
一応こいつはイリンから家事を一通り仕込まれているので、キリーほどとまではいかないが、簡単なものくらいならできるはずだ。
「いやよめんどくさい」
だがケイノアはこっちに近づいてくると、そのままどかりとソファに倒れ込み部屋の中を見渡した。
「う~ん……あっ! いたわね」
ケイノアはそう言って起き上がると窓の側へと近寄り、外に居た環ちゃんへと声をかけた。
「ねえタマキ! ちょっといいかしら?」
「あらケイノア、おはよう。どうかしたの?」
庭の手入れをしていた環ちゃんは、その手を止めてケイノアのいる窓へと近づいてきた。
「おはよー。でさ、相談、って言うかお願いなんだけど……」
「お願い? 何かしら?」
「私の朝食を作ってくれないかしら?」
「……朝食?」
「そう。キリーがいなくなって私のご飯がないのよ。だから、ね?」
「……なるほど」
環ちゃんはいつものケイノアの様子を思い出したのかそう呟くと、ちらりと俺の方へ視線を向けてきた。
俺は首を振って無視していいと伝えると、それはうまく伝わったようで環ちゃんはこくりと頷いた。
「何も用がないみたいだから掃除に戻るわね。あっ、彰人さん。また後で!」
「えっ、ちょっ! まってよ。ねえ!」
窓から離れていく環ちゃんの後ろ姿に向かって、ケイノアが「あ~」と言う情けない声と共に手を伸ばしている。
「どうかされましたか?」
いつのまにやってきたのか、気付くと背後にはイリンが立っていた。
「イリン? ああいや、なんでもないよ」
俺はそう伝えたのだが、イリンがいなくなる前に環ちゃんのことは諦めたケイノアが振り返ってしまった。
「あっ、イリン。ちょうど良いところにきたわね。私のご飯を……」
「そうでしたか。ではアキト様。私は二階の掃除に戻ります。ご用があればいつでも呼んでください」
ケイノアが最後まで言い切る前に、イリンはそう言って階段を上がって再び二階へと消えていった。
「ああー! ……はあ、仕方がないわね。もうこの際あんたでもいいわ。アキト。あんた──」
「ああ、一つ言い忘れていました」
イリンも環ちゃんもダメとなると他に頼る相手がいないと判断したのか、ケイノアは再びソファに腰を下ろしてから俺に声をかけた。
だが、ケイノアがその言葉を言い切る前に、二階に上がっていったはずのイリンが顔だけをひょっこりと出した。普段は見ないようなそんな仕草が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「イリン?」
「ケイノア。もしアキト様にあなたの食事の準備を頼むようでしたら、私たちにとってはとても愉快なことをしますよ」
「えっ、なによそれ。愉快なことってなによ。あんたたちにとってはって、それ私にとってはどうなのよ!」
「それでは、私は掃除に戻りますね」
そう言ってイリンは今度こそ掃除へと戻っていったのだが、その場に残されたケイノアは納得する事ができずに叫んでいる。
「ちょっと待ってよ! ねえ! 愉快なことってなんなのよ!?」
「まあ、死ぬことはないだろ。どうせいつものお前に反省を促すための何かだと思うぞ」
そもそも、コイツが自分で食事を用意すればいいだけの話なんだけどな。
「それでも嫌なものは嫌よ……はあ、仕方ないわね。めんどうだけど自分でやるしかないか……」
せっかく自分でやる気になったことだし、揶揄うのをやめて教えてやるか。
「因みにだが、キッチンにはキリーが作った朝食が残ってるはずだ。それを温め直して食べるといいぞ」
「そんな物がるんなら初めから言いなさいよ!」
ケイノアはそう叫ぶとキッチンへと走っていった。
「ハハハッ。……」
ここを出て旅にいくとなったら、こんな生活も、もう終わりになるんだよな……
俺はソファに寄りかかりながらぼんやりとそんなことを考えていた。
因みに、イリンがケイノアに言っていた『愉快なこと』について後で話を聞いたところ、こんな返事が帰ってきた。
「お前の言っていた『愉快なこと』ってなんだったんだ?」
「ケイノアに出す食事だけ全てに眠気覚ましの薬を入れようかと」
「それは……俺たちにとっては反省を促すために愉快ではあるが、あいつにとっては地獄だろうな」
家に帰ってきたのでいつものように挨拶をしたのだが家の中からは誰の返事もなく、キリーとガムラはたった今見送って来たのだと思い出した。
「……今までを考えると、少し寂しい感じがしますね」
「そうだね。こうしてみると、この家も広いものなんだな」
イリンが少し寂しげな声で呟き、俺も今更になって別れの実感が湧いてきた。
「……キリーさんは、大丈夫でしょうか?」
俺とイリンに比べれば接した時間は短いが、それでもキリーと仲良くしていた環ちゃんもキリー達のことを心配しているようだ。
「あいつらならきっと大丈夫だよ。まあそうは言っても気になると思うけど、でも、だったら見に行けば良い。どうせそのうち行くって約束したんだ。見に行って、盛大にからかってやろうじゃないか」
「ふふ。はい、そうですね」
そう言って笑った後に、それぞれ自分のやるべき事をするために動き出した。
……まあ、そうは言っても家事に関しては基本的にイリンと、イリンに対抗するべく頑張っている環ちゃんがやってしまうので俺のやることと言ったらゴロゴロする以外はなにもない。
仕事にいかず、家事は全て自分を慕っている女性に任せにして自分は家で怠けているとか、完全にダメな奴じゃないだろうか?
だが仕方がないのだ。俺が何かしようとするとストップがかかる。俺としては一緒に家事をやったりしてもいいんだけどな。と言うかそうじゃないとやる事がなさすぎる。
どうしようか。今から冒険者ギルドに行って何か仕事を受けるか?
でも今は朝だが、もうすでに割のいい依頼はなくなっているだろう。あと残っているものと言ったら面倒で時間のかかる割に金払いの悪いやつくらいだと思う。
仕事をしないのもなんだし、副業でもするか? まあ、冒険者が本業ってわけでもないんだけどさ。
でも、前から考えていた金稼ぎの方法はある。それを鍛えるのもいいかもしれないな。
「キリ~。ご飯ちょうだ~い」
そんなことを考えていると、ケイノアがそんなことを言いながら二階から降りてきた。
「あら、あんたなんでそんなとこにいんのよ。その格好、もしかしてこれからどっか出かけるの?」
「もう出かけてきたんだよ」
「そうなの? こんな朝早くからご苦労なことね」
そう言ってケイノアは大きく欠伸をしてから、若干おぼつかない足取りでキッチンへと歩いていった。
「ま、そんなことどうでもいっか。そんなことより……キリー、ごはーん! ……あれ?」
だがケイノアはキッチンを覗くと、間抜けな声を出して首を傾げた。
「キリーはもういないぞ」
「へ? なんで? いないってどうしてよ」
さっきの言葉から察していたが、こいつはやっぱり話を聞いていなかったようだ。もしくは聞いていたけど忘れていたらしい。
「前に話しただろ。一週間経ったらここを出てガムラの故郷に行くって」
ついでに言うのなら昨日も教えた。こいつはずっと寝てたから、話したときは寝ぼけてたかもしれないけど。
「……あー、そういえばそんな気がしなくもないような感じがするかもしれないわね……」
「それくらい覚えておけよ」
「仕方ないじゃない。私たちにとって一週間も一ヶ月も大して変わらないんだから」
あー、なるほどな。長寿の種族とは時間感覚が違うんだった。
……ん? だが待てよ。以前、こいつの妹であるシアリスは、街に住んでいると時間の感覚は人と変わらない、みたいなことを言っていなかったか?
……そうなると、やっぱり単にこいつが忘れてただけだろう。
「まあそんなわけでキリーはいない」
「なら私のご飯はどうするのよ」
「知るかそんなもん。自分で作れ」
一応こいつはイリンから家事を一通り仕込まれているので、キリーほどとまではいかないが、簡単なものくらいならできるはずだ。
「いやよめんどくさい」
だがケイノアはこっちに近づいてくると、そのままどかりとソファに倒れ込み部屋の中を見渡した。
「う~ん……あっ! いたわね」
ケイノアはそう言って起き上がると窓の側へと近寄り、外に居た環ちゃんへと声をかけた。
「ねえタマキ! ちょっといいかしら?」
「あらケイノア、おはよう。どうかしたの?」
庭の手入れをしていた環ちゃんは、その手を止めてケイノアのいる窓へと近づいてきた。
「おはよー。でさ、相談、って言うかお願いなんだけど……」
「お願い? 何かしら?」
「私の朝食を作ってくれないかしら?」
「……朝食?」
「そう。キリーがいなくなって私のご飯がないのよ。だから、ね?」
「……なるほど」
環ちゃんはいつものケイノアの様子を思い出したのかそう呟くと、ちらりと俺の方へ視線を向けてきた。
俺は首を振って無視していいと伝えると、それはうまく伝わったようで環ちゃんはこくりと頷いた。
「何も用がないみたいだから掃除に戻るわね。あっ、彰人さん。また後で!」
「えっ、ちょっ! まってよ。ねえ!」
窓から離れていく環ちゃんの後ろ姿に向かって、ケイノアが「あ~」と言う情けない声と共に手を伸ばしている。
「どうかされましたか?」
いつのまにやってきたのか、気付くと背後にはイリンが立っていた。
「イリン? ああいや、なんでもないよ」
俺はそう伝えたのだが、イリンがいなくなる前に環ちゃんのことは諦めたケイノアが振り返ってしまった。
「あっ、イリン。ちょうど良いところにきたわね。私のご飯を……」
「そうでしたか。ではアキト様。私は二階の掃除に戻ります。ご用があればいつでも呼んでください」
ケイノアが最後まで言い切る前に、イリンはそう言って階段を上がって再び二階へと消えていった。
「ああー! ……はあ、仕方がないわね。もうこの際あんたでもいいわ。アキト。あんた──」
「ああ、一つ言い忘れていました」
イリンも環ちゃんもダメとなると他に頼る相手がいないと判断したのか、ケイノアは再びソファに腰を下ろしてから俺に声をかけた。
だが、ケイノアがその言葉を言い切る前に、二階に上がっていったはずのイリンが顔だけをひょっこりと出した。普段は見ないようなそんな仕草が、ちょっと可愛いと思ってしまった。
「イリン?」
「ケイノア。もしアキト様にあなたの食事の準備を頼むようでしたら、私たちにとってはとても愉快なことをしますよ」
「えっ、なによそれ。愉快なことってなによ。あんたたちにとってはって、それ私にとってはどうなのよ!」
「それでは、私は掃除に戻りますね」
そう言ってイリンは今度こそ掃除へと戻っていったのだが、その場に残されたケイノアは納得する事ができずに叫んでいる。
「ちょっと待ってよ! ねえ! 愉快なことってなんなのよ!?」
「まあ、死ぬことはないだろ。どうせいつものお前に反省を促すための何かだと思うぞ」
そもそも、コイツが自分で食事を用意すればいいだけの話なんだけどな。
「それでも嫌なものは嫌よ……はあ、仕方ないわね。めんどうだけど自分でやるしかないか……」
せっかく自分でやる気になったことだし、揶揄うのをやめて教えてやるか。
「因みにだが、キッチンにはキリーが作った朝食が残ってるはずだ。それを温め直して食べるといいぞ」
「そんな物がるんなら初めから言いなさいよ!」
ケイノアはそう叫ぶとキッチンへと走っていった。
「ハハハッ。……」
ここを出て旅にいくとなったら、こんな生活も、もう終わりになるんだよな……
俺はソファに寄りかかりながらぼんやりとそんなことを考えていた。
因みに、イリンがケイノアに言っていた『愉快なこと』について後で話を聞いたところ、こんな返事が帰ってきた。
「お前の言っていた『愉快なこと』ってなんだったんだ?」
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