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王国との戦争
341:愛してください
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俺たちが旅に出ると決めてからもうすぐ一ヶ月だ。
一週間後にはこの家を離れて旅に出て行くわけだが、部屋を見渡すと、案外物が多いいことに気がついた。
俺には収納があるとはいえ、いちいち全部しまっているわけじゃない。
最初はベッド以外は全部収納の中に入れてたんだけど、いくら収納があるって言っても、何でもかんでもその中に入れてたら殺風景すぎてつまらなかった。ごちゃごちゃし過ぎているのは嫌だけど、ある程度はものがないと落ち着かないというので、買ったものはとりあえず部屋に置いてある。片付け自体はすぐに済むしな。
結構長い間ここにいたな……。旅に出るけど、必ずまた帰ってくるぞ。
──コンコンコン。
「あの、アキト様。いまお時間はよろしいでしょうか?」
そうして感慨にふけっていると、部屋の扉を叩く音と共にイリンの声が聞こえていた。
「イリン? ああちょっと待ってくれ」
どうしたんろうか? 今はそれなりに夜が過ぎ、深夜と言ってもいい時間だ。環ちゃんもそうだが、イリンがこんな時間に来るというのは珍しい。
「どうした、突然。お前がこんな時間に来るなんて珍しいな」
俺はそう言いながら扉を開けたのだが、外に立っていたイリンの様子はいつもとは少し違うように感じられた。
「その、来週にはここを出ていくわけですし、その前に少し、お話ができればなと、その、思いまして……」
俺のその感覚を肯定するかのように、イリンはもじもじと恥じらうような様子を見せ、所々言葉につまらせながらそう言った。
なるほど。普段はこんなことをしないから恥ずかしかったのか。俺としては話しくらい構わないし。むしろもっと頻度が多くてもよかった。今更だが、俺から話に行くべきだったかなとさえ思う。
まあもうすぐ旅に出るんだし、その間はずっと一緒だ。これからはもう少ししっかりと話す時間を取ろう。
「いいよ。入ってくれ」
それはともかくとして、俺はイリンを部屋の中に招き入れる。
「あんまり片付いてなくて悪いな。待ってろ、今お茶と菓子を出すから」
そして俺は宣言通りお茶と菓子を取り出そうとしたのだが、あまりにも静かなイリンが気になって背後へと振り返った。すると、なぜかイリンは部屋の入り口で若干俯きながら立ったまま動かない。
「イリン?」
「……アキト様。あなたは私のことをどう思っておられますか?」
そんな立ち尽くしたままのイリンの様子が気になって俺は声をかけたのだが、イリンは突然そんなことを聞いてきた。
「どう? どうって、そりゃ、まあ……好きだよ」
「私もです」
突然のことに俺が少し戸惑いながら好きだと言うと、イリンは顔を上げ、俺に笑いかけながら自分も同じだと肯定した。
だがその直後、イリンはその笑みを消して真剣な表情で正面から俺のことを見据えた。
「ではタマキのことはどうですか?」
「そ、それは……」
まさかそんなことを聞かれるとは思っておらず、俺は言葉に詰まってしまう。
「お願いがあります。アキト様、タマキのことを受け入れてください」
イリンから言われたその言葉に、俺は驚き目を見開く。
だが、そのまま素直に「はい」と言えるはずもなく、俺は動揺しながらもイリンに問いかける。
「だがそれは……お前は、それでいいのか? 俺のことを独り占めしたいと言っていたはずだろ?」
俺はそれでも構わないと思っていた。最初はイリンのことをヤバイ奴と思っていたが、今ではそんな彼女の事も悪くないと思っている。
「はい。その想いは今でも変わりません」
「なら──」
「ですが……」
イリンはそこで一旦言葉を止めると、きつく口を閉じて目を瞑り、そして数秒後に閉じていた目を開いて告げた。
「ですが、それでもあなたを好きになった者として、同じような想いを抱いているタマキをこれ以上放っておくことはできません」
そこにはかなりの覚悟が込められていただろう。それはさっきのイリンの態度を見ていればわかる。
……これは、もう逃げていられないな。
俺は実際のところ、内心では彼女の事を受け入れ始めていた。いや、すでに受け入れていた。
だが、それでも日本にいた時の常識を捨てられずに、イリンがいるからと、環ちゃんのことを受け入れずにいた。イリンはそのことをとっくに見抜いていたのだろう。だからこそ、タマキはどう思っているか、なんて聞いてきたんだろう。
日本の常識を捨て切ることはできないが、だがここは異世界であり、当事者であるイリンが環ちゃんのことを受け入れろと言っている。
環ちゃんに関していろんな人に相談を受けてもらい、イリンからも今回のようにはっきりとではないが許可は出ていた。ただ俺の覚悟ができていなかっただけで。
だから本来であれば彼女に関しては俺から言い出すべきであった。
それなのにその事をイリンに言わせて、その上いつまでもイリンのことを理由にして彼女の事を受け入れずにいたら、かっこ悪すぎる。
イリンに言われたからという理由もかっこ悪いではあるが、それはもうどうしようもない。せめてこれ以上ダメなところを見せないようにしよう。
「…………分かった。ならお前の故郷についた後にでも──」
「いえ、旅立つ前でお願いします」
「は? ……え?」
「はい。来週には旅に出ますが、私の故郷に着くまでというとそれなりに時間が開いてしまいます。それはあまり良いことではないでしょう」
確かに、俺のヘタレ具合からして、この手の話は時間が開けば開くほど話し辛くなるのは明白だ。
でも、旅立つ前か……いや、やらないとだな。好きな人が覚悟をして言ってくれたのに、ここで逃げるわけにはいかないだろ。
「ですが……」
「イリン?」
小さく呟いたイリンに声をかけるが、その言葉に返事はない。
どうしたんだと思い様子を確認すると、イリンは据わった目をし、まるでこれから戦闘でも起こるのではないかというほどの気迫を感じさせた。
そんなイリンが俺へとゆっくり歩み寄ってくるが、俺はその様子に気圧されてたじろぎ数歩後ろへと下がってしまう。
「……うわっ!」
そして体感ではそれほど下がったつもりはなかったのだが、いつのまにかベッドのところまで追い詰められていたらしく、俺は気づかずにベッドへと倒れ込んでしまった。
「こんなことははしたないと分かっております。こんなことをすればあなたに嫌われてしまうかもしれない。そう思っています」
だがそれでもイリンの歩みは止まらない。倒れたまま、イリンの気迫に気圧されて情けなくも起き上がれずにいる俺に向かって、ゆっくりと近寄ってくる。
「けれど止めようがないのです」
ついにイリンは俺の目の前までやって来てその足を止めた。
「あなたのそばに私以外の女性がいるのは構いません。タマキのことは気に食わないこともありますが、嫌いではありません。これから一緒にやっていけと言われてもやっていけるでしょう。でも……」
そしてイリンは両手を伸ばして俺の顔を挟み込み……
「あなたの一番は私です」
俺にキスをした。
「いくらタマキが私の知らないあなたの事を知っていようと。いくらあなたの事を想っていようと。私以外があなたの一番にいることは、絶対にいやです」
イリンは俺から口を離し、だが顔は触れてしまうほどに近いままに話を続ける。
「愛してもらいたいからあなたを愛するのではない。ただあなたのことが好きだからあなたに尽くすのだと、私は以前タマキに言いました。その考えは今でも変わっていませんし、たとえあなたが私のことを嫌ったとしても、私はあなたのそばに居続けますし、尽くし続けます」
突然のことで真っ白になった頭では、ただ目の前にイリンのことを見続けていることしかできない。
そんなまともに働かない頭の裏ではイリンがなにを言っているのか、イリンの言葉がなにを意味してこの後なにが起こるのか。それを理解している。
けど、それでも俺はイリンの行動に対してなにも動けない。今の俺の状態は、さながら肉食獣に睨まれた草食動物だろうか。
イリンは隠しきれない情念を瞳に宿し、目の前の獲物を狩るべく動く。
「これは私のわがまま。拒んでくださっても構いません。ですが叶うならば……」
イリンは俺の顔から手を離し、代わりに自分の服へと手をかけた。
「どうか私のことを…………愛してください」
そう言ったイリンの姿はとても綺麗だった。
一週間後にはこの家を離れて旅に出て行くわけだが、部屋を見渡すと、案外物が多いいことに気がついた。
俺には収納があるとはいえ、いちいち全部しまっているわけじゃない。
最初はベッド以外は全部収納の中に入れてたんだけど、いくら収納があるって言っても、何でもかんでもその中に入れてたら殺風景すぎてつまらなかった。ごちゃごちゃし過ぎているのは嫌だけど、ある程度はものがないと落ち着かないというので、買ったものはとりあえず部屋に置いてある。片付け自体はすぐに済むしな。
結構長い間ここにいたな……。旅に出るけど、必ずまた帰ってくるぞ。
──コンコンコン。
「あの、アキト様。いまお時間はよろしいでしょうか?」
そうして感慨にふけっていると、部屋の扉を叩く音と共にイリンの声が聞こえていた。
「イリン? ああちょっと待ってくれ」
どうしたんろうか? 今はそれなりに夜が過ぎ、深夜と言ってもいい時間だ。環ちゃんもそうだが、イリンがこんな時間に来るというのは珍しい。
「どうした、突然。お前がこんな時間に来るなんて珍しいな」
俺はそう言いながら扉を開けたのだが、外に立っていたイリンの様子はいつもとは少し違うように感じられた。
「その、来週にはここを出ていくわけですし、その前に少し、お話ができればなと、その、思いまして……」
俺のその感覚を肯定するかのように、イリンはもじもじと恥じらうような様子を見せ、所々言葉につまらせながらそう言った。
なるほど。普段はこんなことをしないから恥ずかしかったのか。俺としては話しくらい構わないし。むしろもっと頻度が多くてもよかった。今更だが、俺から話に行くべきだったかなとさえ思う。
まあもうすぐ旅に出るんだし、その間はずっと一緒だ。これからはもう少ししっかりと話す時間を取ろう。
「いいよ。入ってくれ」
それはともかくとして、俺はイリンを部屋の中に招き入れる。
「あんまり片付いてなくて悪いな。待ってろ、今お茶と菓子を出すから」
そして俺は宣言通りお茶と菓子を取り出そうとしたのだが、あまりにも静かなイリンが気になって背後へと振り返った。すると、なぜかイリンは部屋の入り口で若干俯きながら立ったまま動かない。
「イリン?」
「……アキト様。あなたは私のことをどう思っておられますか?」
そんな立ち尽くしたままのイリンの様子が気になって俺は声をかけたのだが、イリンは突然そんなことを聞いてきた。
「どう? どうって、そりゃ、まあ……好きだよ」
「私もです」
突然のことに俺が少し戸惑いながら好きだと言うと、イリンは顔を上げ、俺に笑いかけながら自分も同じだと肯定した。
だがその直後、イリンはその笑みを消して真剣な表情で正面から俺のことを見据えた。
「ではタマキのことはどうですか?」
「そ、それは……」
まさかそんなことを聞かれるとは思っておらず、俺は言葉に詰まってしまう。
「お願いがあります。アキト様、タマキのことを受け入れてください」
イリンから言われたその言葉に、俺は驚き目を見開く。
だが、そのまま素直に「はい」と言えるはずもなく、俺は動揺しながらもイリンに問いかける。
「だがそれは……お前は、それでいいのか? 俺のことを独り占めしたいと言っていたはずだろ?」
俺はそれでも構わないと思っていた。最初はイリンのことをヤバイ奴と思っていたが、今ではそんな彼女の事も悪くないと思っている。
「はい。その想いは今でも変わりません」
「なら──」
「ですが……」
イリンはそこで一旦言葉を止めると、きつく口を閉じて目を瞑り、そして数秒後に閉じていた目を開いて告げた。
「ですが、それでもあなたを好きになった者として、同じような想いを抱いているタマキをこれ以上放っておくことはできません」
そこにはかなりの覚悟が込められていただろう。それはさっきのイリンの態度を見ていればわかる。
……これは、もう逃げていられないな。
俺は実際のところ、内心では彼女の事を受け入れ始めていた。いや、すでに受け入れていた。
だが、それでも日本にいた時の常識を捨てられずに、イリンがいるからと、環ちゃんのことを受け入れずにいた。イリンはそのことをとっくに見抜いていたのだろう。だからこそ、タマキはどう思っているか、なんて聞いてきたんだろう。
日本の常識を捨て切ることはできないが、だがここは異世界であり、当事者であるイリンが環ちゃんのことを受け入れろと言っている。
環ちゃんに関していろんな人に相談を受けてもらい、イリンからも今回のようにはっきりとではないが許可は出ていた。ただ俺の覚悟ができていなかっただけで。
だから本来であれば彼女に関しては俺から言い出すべきであった。
それなのにその事をイリンに言わせて、その上いつまでもイリンのことを理由にして彼女の事を受け入れずにいたら、かっこ悪すぎる。
イリンに言われたからという理由もかっこ悪いではあるが、それはもうどうしようもない。せめてこれ以上ダメなところを見せないようにしよう。
「…………分かった。ならお前の故郷についた後にでも──」
「いえ、旅立つ前でお願いします」
「は? ……え?」
「はい。来週には旅に出ますが、私の故郷に着くまでというとそれなりに時間が開いてしまいます。それはあまり良いことではないでしょう」
確かに、俺のヘタレ具合からして、この手の話は時間が開けば開くほど話し辛くなるのは明白だ。
でも、旅立つ前か……いや、やらないとだな。好きな人が覚悟をして言ってくれたのに、ここで逃げるわけにはいかないだろ。
「ですが……」
「イリン?」
小さく呟いたイリンに声をかけるが、その言葉に返事はない。
どうしたんだと思い様子を確認すると、イリンは据わった目をし、まるでこれから戦闘でも起こるのではないかというほどの気迫を感じさせた。
そんなイリンが俺へとゆっくり歩み寄ってくるが、俺はその様子に気圧されてたじろぎ数歩後ろへと下がってしまう。
「……うわっ!」
そして体感ではそれほど下がったつもりはなかったのだが、いつのまにかベッドのところまで追い詰められていたらしく、俺は気づかずにベッドへと倒れ込んでしまった。
「こんなことははしたないと分かっております。こんなことをすればあなたに嫌われてしまうかもしれない。そう思っています」
だがそれでもイリンの歩みは止まらない。倒れたまま、イリンの気迫に気圧されて情けなくも起き上がれずにいる俺に向かって、ゆっくりと近寄ってくる。
「けれど止めようがないのです」
ついにイリンは俺の目の前までやって来てその足を止めた。
「あなたのそばに私以外の女性がいるのは構いません。タマキのことは気に食わないこともありますが、嫌いではありません。これから一緒にやっていけと言われてもやっていけるでしょう。でも……」
そしてイリンは両手を伸ばして俺の顔を挟み込み……
「あなたの一番は私です」
俺にキスをした。
「いくらタマキが私の知らないあなたの事を知っていようと。いくらあなたの事を想っていようと。私以外があなたの一番にいることは、絶対にいやです」
イリンは俺から口を離し、だが顔は触れてしまうほどに近いままに話を続ける。
「愛してもらいたいからあなたを愛するのではない。ただあなたのことが好きだからあなたに尽くすのだと、私は以前タマキに言いました。その考えは今でも変わっていませんし、たとえあなたが私のことを嫌ったとしても、私はあなたのそばに居続けますし、尽くし続けます」
突然のことで真っ白になった頭では、ただ目の前にイリンのことを見続けていることしかできない。
そんなまともに働かない頭の裏ではイリンがなにを言っているのか、イリンの言葉がなにを意味してこの後なにが起こるのか。それを理解している。
けど、それでも俺はイリンの行動に対してなにも動けない。今の俺の状態は、さながら肉食獣に睨まれた草食動物だろうか。
イリンは隠しきれない情念を瞳に宿し、目の前の獲物を狩るべく動く。
「これは私のわがまま。拒んでくださっても構いません。ですが叶うならば……」
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