『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

文字の大きさ
306 / 499
イリンと神獣

347:……考えてなかった

しおりを挟む
 現在俺たちは里まで後一歩、明日にはつくだろうというところまでやって来ていた。

「……明日にはお前の故郷につくな」
「……そうですね」

 俺が声をかけたのに、というとちょっとアレな感じがするが、イリンは自身に向けられた俺の声に普段よりも力なく返事を返した。

 明らかに様子のおかしいイリン。だが、今の俺にはその事に気付けても、それを気遣う余裕がなかった。
 俺は俺で、他人のことを言えないくらいに声が沈んでいるのが自分でもわかるほどに気持ちが落ち込んでいたから。

 道を進む馬車の御者席には俺とイリンが並んで座っている。
 だがそこに会話はないく、俺はボーッと流れていく景色を見ているだけだし、イリンは耳も尻尾も力なく倒れている。
 いつもであればもっと楽しみながら進んでいるのだが、今はとてもではないが楽しんでいるとは言えない状況だった。

「? どうして二人ともそんなに暗いの? イリンは故郷に帰れるんだからもう少し喜んでもいいんじゃないかしら?」

 そんな明らかにおかしい様子の俺たちを見ていた環が、不思議そうに首を傾げながら問いかけてきた。

 ……ちょうどいい。このまま考えて勝手に落ち込んでいたところで意味はないんだ。
 どうせ逃げることもできないんだし、だったら少しでも前向きになれるように彼女達と話していた方がいい。

「それは……ええ。本来ならばそうなのでしょうけれど……」
「……もしかして、親御さんと仲が悪いとか?」
「いえ、そういうわけでは……ただ、私は里を出てくるときに少し強引に出てきたのです。その時に姉の足を折ってきたので少し思うところが……」

 は? なんだって?

 前向きに、と考えて会話に入ろうとしたところで、イリンがそんなとんでも発言をしてきた。
 なんでイリンが家族の足を折るんだ?

「は? 姉の足を折った? え? なんで?」

 俺の頭はそんな疑問に埋め尽くされたが、それはどうやら環も一緒のようだ。

 だが本当になんで……
 いや待て。確かイリンは今姉って言ったな。姉ってことはつまり、俺に突っかかってきたあの……確かイーラって人だよな?

「……姉って、イーラだよな?」
「はい。その、アキト様には以前にもお話ししましたが、私は神獣を倒して目が覚めた後すぐにあなたのことを追いかけたのです。ですが、その際にイーラが里の出口で私を里の外に出すまいと邪魔をしてきたので、少し喧嘩をしました」
「姉妹喧嘩で足を折ったってこと?」
「はい」

 平然としているイリンを見て、イリン達にとってはそれが普通のことなんだと理解した環は少し呆れたようにため息を吐いている。
 でも確かにあそこの人たちだと、手足の一本や二本折れた程度じゃ、単なる喧嘩で済むか。治癒系の魔術なんかはなかったけど妙に怪我の治りが早かったし。

 それにイリンを溺愛していたあの人なら、イリンがまた里の外に出る事を反対したかもしれないとすんなり思える。というか実際に反対したのだろう。だからイリンの邪魔をしたわけだし、その結果足を折られることになったのだ。

「……随分と過激なのね、あなたの家族は」
「……今にして思えば、少しやりすぎたかもしれないとは思っています」

 そういったイリンはその表情を曇らせていた。

 まぁ、俺に再開した時のイリンは体が大きくなっていたが、逆に言えばまだ体が大きくなっただけの子供だった。それに……これは俺のせいでもあるんだが、あの時のイリンは色々と不安定だった。だからこそ家族相手だというのにやりすぎてしまったのだろうと思う。

「でも、あの姉ならお前のことを許してくれるだろ?」
「おそらくは。ただ……」
「ただ?」
「私に対して何かしらの行動をし、アキト様にご迷惑をおかけしてしまう類のものである可能性が……」
「あー……そうだなぁ。その可能性はあるか」

 確かにイリンの言ったように、イーラが俺とイリンを引き離そうとなんらかの行動に出る可能性は低くない。むしろかなり高いと思える。

 イリンと結婚したら一応家族ってことになるんだから仲良くしておきたいんだけど、どうにかならないだろうか?

 ……あれ、まって? これって今まで全く考えてなかったけど、結婚の報告になるのか? いやまだ結婚したわけじゃないけど、それでも告白はしたし、俺自身イリンと結婚する気でいる。
 そうなるとその結婚の報告もいつかはしなくちゃいけないわけだし、次に里に行くのがいつになるのかわからないしで、イリンの故郷ではないどこかで結婚して暮らすことだって考えられるんだから必然的に今回行った時に話すことになる。

 …………え? 全然そんな覚悟なんてしてなかったんだけど?

「あの、彰人さんはイリンのお姉さん……イーラさん? と仲が悪いんですか?」

 突然判明した事実に俺が頭を悩ませていると、環がそう言って訪ねてきた。

「ぅえ? ん、あ、ああ……んー、俺としては特に何があるってわけでもないんだけど、そのイリンの姉っていうのはイリンのことを溺愛しててな。イリンの事となると暴走するんだ」
「不肖の姉でお恥ずかしい限りです」

 そう言っているイリンも俺のためではあるが暴走することがあるんだからよく似た姉妹だと言える。
 まあ村の奴ら全員そんな感じだけど。

 ……そう言えば、イリンだけじゃなくて環のことも伝えないとなんだよなぁ……
 あ、やばい。さっきまで考えてたこともそうだけど、新しく加わった要素のせいでお腹痛くなってきた。

 イリンの故郷には行かないといけないんだけど…………行きたくないなぁ。
しおりを挟む
感想 317

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。