聖剣如きがフォークに勝てると思ったか 〜秘伝の継承に失敗したからと家を追い出されたけど最強なので問題なし〜

農民ヤズ―

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一章

獣人王女:獣人の魔創具

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「敵襲!」
「総員気を引き締めろ!」

 リゲーリア国内へと入って進むこと数日。
 国境にてリゲーリアの兵士も加わり、それなりに大所帯となった私達ですが、そんな私達に異変が起きました。
 どうやら何者かが襲ってきたようです。

「敵襲? この使節団にですか……?」

 今の私達は、元々いた二百の兵に加え、同数のリゲーリア兵がいます。傍目から見てもそれなりの戦力が揃っている状況であり、普通の賊であれば今の私達を襲うようなことは絶対にありえません。
 ということは、敵はただの賊ではなく、意図的に私達を襲う相手ということ。

 ……おおよその見当はつきますね。大方、反同盟派の者達でしょう。それがリゲーリアの者かネメアラの者かは分かりかねますが、すでにリゲーリアにいることを考えるとリゲーリアの勢力でしょうか?
 もっとも、リゲーリア内で問題を起こすことで、好戦派の後押しをしようとあえてこの場所で狙ってきた可能性もありますが。

 いずれにしても、今は〝誰が〟というのはどうでもいいことですね。まずは今直面している問題に対処しなければ。

「ほわ~。なんか結構いっぱいいるっぽい?」
「……百……いえ、二百? 三百はいないでしょうね」

 わかっていたことではありますが、やはり普通の賊ではありませんね。これだけの数を用意すつことなど、普通はできませんから。
 そして、おそらくは敵の勢力はリゲーリアの者でしょう。ネメアラの者の場合、流石にこれだけの数の戦力を他国で集めるのは厳しいものがあるでしょうから。

「ここは私が一発ズドーンと叩き潰して——」
「待ちなさい、スティア。あなたが出るまでもないわ。もちろん、私もね。襲撃を受けたとはいえ、私達は使節団。一国を代表してきているのですよ。たかが襲撃程度では揺るぎません。それに、私達が先に出ては、リゲーリアのメンツを潰すことになります」

 確かにスティアの武器は対軍として考えればそれなりに有効でしょう。
 ですが、それを認めることはできません。出るとしても、それなりに追い込まれてから出なければ色々と問題があります。……面倒だ、と思わないわけでもありませんが。

「えー。でもでもぉ、私達を襲ってくるってことは相応の自信があるからってことでしょ? だったら怪我するかもしれないじゃない」
「その危険性は私達にも適用されるのですよ? 怪我で済むかもしれない。でも、怪我で済まなかったらどうするのですか。私達は王族であり、この使節団の代表です。万が一にでも死んでしまえば、我が国と王国の関係にヒビが入りかねません」

 敵の狙いはほぼ間違いなく私達でしょう。私達が死ねば……死なないにしても怪我を負えば、それを理由として戦争へと持っていかれる可能性があります。そこまでいかないにしても、関係の悪化は十分に考えられることです。
 なので、私達は容易に外に出ることはできません。

「う~。かもしんないけどさー」
「とにかく、今は様子を見ておくべきです。外の騒ぎは陽動で、私たちが出てきたところを本命が、ということも考えられるのですから」
「……あーい」

 スティアは外の様子を見ながら不満げな様子で返事をしていますが、どうなることでしょうか。できることならば、私たちの出番がないことを願いますが……。



 それからしばらく様子を見続けていたのですが、どうにも旗色が悪くなってきましたね。

「ねえねえねえちゃん。なんかヤバげじゃない? みんな結構押されてるっぽい気がしなくもない気がするんだけど?」
「そう、ですね……。おそらくですが、反同盟派の者達でしょう。私達はおよそ二百人程度を率いてきましたが、それらが押されるとなると……」

 敵の数はこちらよりも少ないものでした。普通に考えれば、よほど個々人の力量が違わない限りはこちらが勝っていたでしょう。ですが、そうはなりませんでした。
 敵はこの場所に罠を仕掛けていたのです。それも、急いで作った急造品ではなく、入念な準備をして作られた罠。
 まさか襲撃を受けたのに罠を仕掛けていたとは思いもせず、兵達はリゲーリアもネメアラも問わずに半分以上が罠にかかりました。その生死は不明ですが……死んでいると考えるべきでしょうね。生きていればありがたいですが、希望的観測で物事を考えるべきではありませんから。

 しかし、罠を仕掛けていたということは私達がいつここを通るのかが漏れていたようです。でなければこの場所に罠を仕掛けておくことなどできませんから。
 ということは、裏切り者がいるのは確定ですね。計画を立て、情報を提供したのがネメアラの者で、襲撃の実行をしたのがリゲーリアの者、といったところでしょうか?

「もう私出るからね!」
「待ちなさい! あなたが出たところで、できることなど何もないでしょう?」

 スティアが扉に手をかけて出ようとしましたが、その腕を掴んで止めます。

「そんなことないもん。私だって戦えるんだからね!」
「ええ、戦うことはできるでしょう。ですが、この状態でまともに戦うことができますか? こんな敵と味方が入り混じった戦場で?」

 魔創具が普通の獣人とは違うとはいえ、スティアが戦えることはよく知っています。ですが、今の状況では相応しい武器とはいえないのです。この子は、味方を巻き込まずに敵だけを、ということはできないのですから。

「あ……う~……ま、まあ、できないこともないかもしれないと嬉しい感じがするかなぁ?」
「できませんよ。あなたはそれほど器用ではありませんし、そもそも戦い方があっていないのですから」

 とぼけた言葉で誤魔化してはいますが、どう足掻いてもスティアにはできません。いえ、正確には巻き込まないように戦うこと自体はできるでしょう。ですが、その場合はあまり戦力にはならないので大人しくしている方が良いのです。
 その分対軍、対大型には有効なので、使い方次第ではあるのですが、少なくとも今ではありません。

「じゃあどうするっての!? そのうちみんなやられちゃうでしょ!」
「私が出ます。危険はありますが、そうでもしないとこの騒ぎは終わらないでしょう」

 できることならば出たくはありませんでしたが、この場合は仕方ないでしょう。
 私は王女ではありますが、〝獣人の〟王女です。ネメアラの王族は戦えることが必須となるので、私も戦うことができます。それも、自慢のつもりはありませんが、私が率いてきた兵達をまとめたよりも強いでしょう。それだけの力があるからこそ、戦う可能性があるこの国への使節団代表を赦されたのです。

「えっ。お姉ちゃんが出るんだったら私も!」
「それは今話したばかりでしょうに。あなたはここで待機です」
「それに……真打は最後に現れるものだとは思わないかしら?」
「っ! そうね! さすがお姉ちゃん。わかってるじゃない!」

 スティアが気にいるような言葉を選んでみたのですが、どうやら気に入ってくれたようですね。よかったです。面倒なことにならなくて。

「もし私もやられてどうしようもなく追い込まれたら、その時は敵にあなたの一撃を叩き込んであげなさい」

 その時はこないでしょう。これまでの様子を見た限りでは、敵の戦力は私だけで十分に間に合う程度でしかありません。罠があるのだと初めからわかっていれば、それほど苦戦することなく倒すことができるでしょう。

「わかったわ! じゃあその時が来るのを待ってるから!」
「いえ、その時が来るということは私達がやられたということなので、待ち望まないでください」

 スティアの言葉に苦笑を返しつつ、扉に手をかけて外に出て行きました。

「戦場で体を動かすのは久しぶりですが……それでは、参りましょうか」

 そう口にして意識を切り替え、腹部の紋様に力を込めて魔創具を起動させる。
 直後、魔創具の紋様が輝き、全身に力が巡っていくのを感じながら、その力を両腕に向かうように意識した。
 すると、それまで素肌が見えていた私の全身は、ところどころに獣のような体毛に覆われます。
 ですが変化はそれだけではなく、手の先——黄金の光を放つ爪が鋭く伸びました。
 これこそが私たち獣人の魔創具。武器を生み出すのではなく、己の体を武器と成す秘術。
 人間の使う魔創具と似ていますが、その原理はほぼ別物と言ってもいいでしょう。

 この術をさらに突き詰めていくと、全身の大きさが変わったり、骨格そのものが獣へと変じます。なので、獣人に服は不要なのです。どうせ、戦う時になれば破れてしまい、邪魔にしかならないのですから。

「あれはっ!」
「黄金に輝く爪! 王家の魔創具だ!」
「はっ! もう余裕だぜあんな奴ら!」
「何を笑っているか! 殿下を戦場に出してしまった未熟を恥じろ!」

 黄金の爪は王家の証であり、その信頼はネメアラの者の間では絶対です。
 過去の戦いでも、王家の者がでた戦はほぼ全て勝っています。中には例外もありますが、それでも勝利の象徴であるということに変わりはありません。
 だからこそ、今まで苦戦していた兵達がこれほどまでに反応を見せているのです。
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