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五章
全部吹っ飛ばしてあげる
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「そら、話していれば阿呆のお出ましだ」
「はあ? 誰が阿呆だってのよ! なんでこんな状況なのにそんな酷いこと言うわけ!?」
今し方の冗句を聞いていたようで、スティアは現れると同時に怒りを向けてきたが、こんな状況でもいつも通りの姿に安堵を感じる。
「スピカを助けた後に夕食を奢ってやるから落ち着け」
「え、ほんと? ……って、誤魔化されないんだから!」
「だが、スピカを助けるのは事実だし、助けた後に祝いはすることになるだろう?」
「うー、まあそれはそうだけど……」
「ともかく、このようなところで無駄に話していないで、スピカを助けるぞ」
「あ、うん。それもそうね!」
スティアはそう言って頷くと、持っていた大槌を肩に担いで一歩前に出た。
誤魔化されてくれたようで何よりだ。
「さあって! それじゃあスピカ、覚悟してなさい。あの時なんで勝手に消えたのか、あんたの口から説明してもらうんだから。勝手にいなくなって心配したじゃない」
大槌を肩に担いだまま、先ほどの俺のように一歩ずつ前へと進んでいきながら話しかけるスティア。
そんなスティアに向かって、スピカは巨大な金属質な肉の塊でできた剣を振り下ろした。
「今度は逃さないわ。あなたがいなくなる必要なんてどっこにもないんだって事を知りなさい。どんな敵が来ても、どんな災いが起こっても、全部私達がまるっと吹っ飛ばして解決してあげるんだから!」
だが、そんな一撃などスティアには意味のないものでしかない。振り下ろされた剣は、片手で握っていた大槌に剣の腹を殴られ、大きく弾かれた。
しかし、相手もさるもの。暴走していようとも、本来の姿とは大きく変わっていようとも、流石は聖剣と言ったところか。スティアの一撃を受けても折れることもなく、ただ弾かれただけというのはそれだけ頑丈だということだ。
そして、折れないと言うことは、敵の攻撃手段を奪うことができないと言うことで、スピカの保有しているすべての武器を使われるといくらスティアといえども面倒なことになるだろう。
だがそんなことは気にせず、スティアはそのままさらに一歩踏み出していく。
「だから、それができるんだって事を証明するために、今だけはちょっとあなたにも痛い思いをしてもらうわよ」
話しながら迫るスティアに、スピカは剣に槍に斧と、さまざまな武器で攻撃を仕掛けていく。
そんな自身に迫る武器を弾きながら、止まることなく前へ進み続けるスティアだが、流石に一人で全てを捌き切ることは難しいのかついに足を止めることとなってしまった。
そして、そこにスティアの右側から最初にスティアが弾いた剣が、再びスティアを狙い、振るわれた。
「まあ、勝手にいなくなった罰だと思って受け入れておけ。悪さをした子供は、大人からの説教は素直に受け取っておくものだ」
そう口にしながらスティアと剣の間に割り込み、左手に逆手に持ったフォークで刃を噛ませて受け止め、剣の腹を下から殴り上げる。
今の一撃、感触的には傷が入ったような気がするが、それでも折れてはないようだ。
しかも、フォークで受け止めたまま殴りあげたことで、剣はフォークを噛ませたまま弾かれてしまった。
だが、ある意味ちょうどいいとも言える。
剣に噛んだまま奪われることになってしまったフォークに込められた魔法を起動し、爆ぜた。
突然の爆発によってスピカは甲高い悲鳴をあげ、直後、ドスンと鈍い大きな音を立てて金属質な肉の塊が落下した。
その塊を見ると、折れ目の中央には立派な、だが半分に折れた剣が存在していた。どうやら、今ので聖剣の一つを折ることに成功したようだな。
壊せないわけではない。ならば、あとは全てを砕き、折っていけばいいだけだ。
「それじゃあ、今度こそ本当の本当に、あなたを苦しめてる全部を吹っ飛ばして助けてあげるんだから!」
俺が補助に入ったのを見てスティアはニッと笑みを浮かべると、振り回していた大槌を両手で握り直して走り出した。
「あっ……まったく、一人で走り出して……」
そう呟きながらも、先に進んだスティアの後を追いかけて俺も走り出す。
すると、当然と言うべきかスピカからの攻勢が激しくなり、剣が、斧が、鎖が鎌が鎧が迫ってくる。
その全てを先を進むスティアが迎撃し、弾きそびれたものを俺が逸らしていく。
迫り来る攻撃を弾き続けていると、ついにスピカの元へと辿り着き、武器の嵐を抜けてその巨体に向かって大槌を振りかぶり——叩きつけた。
直後、先ほど聞いた甲高い声とは違って、鈍くハウリングしているような低音の叫びが響いた。
「んちょっ! うおわあっ!?」
その叫び声がスピカのものではないと感じたからか、それとも自身の攻撃を受けても一部の肉が飛び散っただけで倒すことができなかったからか、スティアは身を捩るように暴れたスピカの体の上でバランスをとり、その場から飛び退いて俺の隣へと着地した。
「阿呆め。突っ走る前に打ち合わせの一つでもすべきだろうが」
「そんなのしてられる状況じゃないでしょ! それに、あんただったら私の動きに合わせてくれるでしょ?」
確かに悠長に話している時間はないし、俺ならばと信頼してくれるのは満更でもないとは思う。だが、だからと言って打ち合わせなく突っ込んでいくのはやめてもらいたいところだ。
もっとも、それを言ったところでこいつは聞きはしないのだから、結局俺が合わせるしかないのだろうが。
それに……
「はあ……だからと言って勝手に突っ走って良いと言うわけでもないだろうに。だがまあ、仕方ないか。好きに動け。お前のことだ。下手に連携を狙うよりも、好き勝手に動いたほうが有効だろう」
そう。それに、こいつは誰かと協力することができないわけではないが、協力するよりも自分だけで戦った方が活躍するタチの人間だ。だったら、その強みを活かすために、俺が補助に回った方がいい。
「うんうん。わかってんじゃない! さっすが私の婚約者ね!」
「誰が婚約者だ。阿呆が」
その話は決まったわけではないし、そもそも俺は認めていない。それに、お前とてその設定を忘れていただろうが、なぜ今だけ思い出しているのだ、まったく。
「スピカーーーー! 私よ、私! 返事くらいしなさーーーーい!」
スティアが両手を口に当てて呼びかけると、それに応えるかのように先ほどの低い声とは違い、再び甲高い叫び声が聞こえてきた。
「よかったな。返事をしてくれたようだぞ」
「そうだけど、そう言うんじゃなくってもうちょっと可愛い感じの声よ! あんな叫びじゃなくって、スピカ自身の声! 前は結局一回も声を聴かせてくんなかったし」
「最後に一度だけ聞けただろ。別れ際だったがな」
「あれはノーカンよ。ノーカン! 私はあんな言葉聞いてませーん。だから、バイバイなんて認めない。絶対に諦めないんだからね! だから、今度こそあなた自身の声であなたの意思を聴かせてちょうだい!」
あんな言葉聞いていない、と言っているが、その言い方だとしっかりと聞いているように思えるのだがな。
だが、どうでもいいか。今大事なのは、スピカが自分から離れようとしたことを認めない、という部分で、その意見は俺も同意だ。あのような子供が、守るべき民が、俺たちを守るために自らを差し出したなどと、とてもではないが受け入れるわけにはいかない。そのようなくだらない悲劇、必ず消してみせる。
「お前が何を懸念しているのかは理解しているつもりだ。聖剣を使用して世の中をどうにかしようとしているイカれた集団。そいつらに俺たちまで狙われると思ったのだろう? だからこそお前は一度逃げ出したにもかかわらず奴らの元へと戻った。だが、気にするな。そいつらはもう終わりだ。先ほど首魁を捕らえたからな。頭を押さえたところでその下はまだ動くだろうが、天武百景の場で騒動を起こしたのだ。近いうちに国際的な指名手配がなされるだろう」
その首魁は先ほど捕らえた。仮に他の組織の者たちが何かをやらかすために動こうとしたところで、複数の国を相手に騒ぎを起こしたのだ。とてもではないが逃げ切れるとは思えない。
「それに、もし俺たちを襲ってきたのだとしても、俺たちはお前が思うほど弱くはないぞ。お前は自分が最強だとでも思っているのか? ならばそれが勘違いであるのだと、俺たちの方が強いのだと、お前に勝つことで証明するとしよう」
俺は、この国を守ることを願い続けて来たのだ。この程度、勝てなくてどうすると言うのか。
「はあ? 誰が阿呆だってのよ! なんでこんな状況なのにそんな酷いこと言うわけ!?」
今し方の冗句を聞いていたようで、スティアは現れると同時に怒りを向けてきたが、こんな状況でもいつも通りの姿に安堵を感じる。
「スピカを助けた後に夕食を奢ってやるから落ち着け」
「え、ほんと? ……って、誤魔化されないんだから!」
「だが、スピカを助けるのは事実だし、助けた後に祝いはすることになるだろう?」
「うー、まあそれはそうだけど……」
「ともかく、このようなところで無駄に話していないで、スピカを助けるぞ」
「あ、うん。それもそうね!」
スティアはそう言って頷くと、持っていた大槌を肩に担いで一歩前に出た。
誤魔化されてくれたようで何よりだ。
「さあって! それじゃあスピカ、覚悟してなさい。あの時なんで勝手に消えたのか、あんたの口から説明してもらうんだから。勝手にいなくなって心配したじゃない」
大槌を肩に担いだまま、先ほどの俺のように一歩ずつ前へと進んでいきながら話しかけるスティア。
そんなスティアに向かって、スピカは巨大な金属質な肉の塊でできた剣を振り下ろした。
「今度は逃さないわ。あなたがいなくなる必要なんてどっこにもないんだって事を知りなさい。どんな敵が来ても、どんな災いが起こっても、全部私達がまるっと吹っ飛ばして解決してあげるんだから!」
だが、そんな一撃などスティアには意味のないものでしかない。振り下ろされた剣は、片手で握っていた大槌に剣の腹を殴られ、大きく弾かれた。
しかし、相手もさるもの。暴走していようとも、本来の姿とは大きく変わっていようとも、流石は聖剣と言ったところか。スティアの一撃を受けても折れることもなく、ただ弾かれただけというのはそれだけ頑丈だということだ。
そして、折れないと言うことは、敵の攻撃手段を奪うことができないと言うことで、スピカの保有しているすべての武器を使われるといくらスティアといえども面倒なことになるだろう。
だがそんなことは気にせず、スティアはそのままさらに一歩踏み出していく。
「だから、それができるんだって事を証明するために、今だけはちょっとあなたにも痛い思いをしてもらうわよ」
話しながら迫るスティアに、スピカは剣に槍に斧と、さまざまな武器で攻撃を仕掛けていく。
そんな自身に迫る武器を弾きながら、止まることなく前へ進み続けるスティアだが、流石に一人で全てを捌き切ることは難しいのかついに足を止めることとなってしまった。
そして、そこにスティアの右側から最初にスティアが弾いた剣が、再びスティアを狙い、振るわれた。
「まあ、勝手にいなくなった罰だと思って受け入れておけ。悪さをした子供は、大人からの説教は素直に受け取っておくものだ」
そう口にしながらスティアと剣の間に割り込み、左手に逆手に持ったフォークで刃を噛ませて受け止め、剣の腹を下から殴り上げる。
今の一撃、感触的には傷が入ったような気がするが、それでも折れてはないようだ。
しかも、フォークで受け止めたまま殴りあげたことで、剣はフォークを噛ませたまま弾かれてしまった。
だが、ある意味ちょうどいいとも言える。
剣に噛んだまま奪われることになってしまったフォークに込められた魔法を起動し、爆ぜた。
突然の爆発によってスピカは甲高い悲鳴をあげ、直後、ドスンと鈍い大きな音を立てて金属質な肉の塊が落下した。
その塊を見ると、折れ目の中央には立派な、だが半分に折れた剣が存在していた。どうやら、今ので聖剣の一つを折ることに成功したようだな。
壊せないわけではない。ならば、あとは全てを砕き、折っていけばいいだけだ。
「それじゃあ、今度こそ本当の本当に、あなたを苦しめてる全部を吹っ飛ばして助けてあげるんだから!」
俺が補助に入ったのを見てスティアはニッと笑みを浮かべると、振り回していた大槌を両手で握り直して走り出した。
「あっ……まったく、一人で走り出して……」
そう呟きながらも、先に進んだスティアの後を追いかけて俺も走り出す。
すると、当然と言うべきかスピカからの攻勢が激しくなり、剣が、斧が、鎖が鎌が鎧が迫ってくる。
その全てを先を進むスティアが迎撃し、弾きそびれたものを俺が逸らしていく。
迫り来る攻撃を弾き続けていると、ついにスピカの元へと辿り着き、武器の嵐を抜けてその巨体に向かって大槌を振りかぶり——叩きつけた。
直後、先ほど聞いた甲高い声とは違って、鈍くハウリングしているような低音の叫びが響いた。
「んちょっ! うおわあっ!?」
その叫び声がスピカのものではないと感じたからか、それとも自身の攻撃を受けても一部の肉が飛び散っただけで倒すことができなかったからか、スティアは身を捩るように暴れたスピカの体の上でバランスをとり、その場から飛び退いて俺の隣へと着地した。
「阿呆め。突っ走る前に打ち合わせの一つでもすべきだろうが」
「そんなのしてられる状況じゃないでしょ! それに、あんただったら私の動きに合わせてくれるでしょ?」
確かに悠長に話している時間はないし、俺ならばと信頼してくれるのは満更でもないとは思う。だが、だからと言って打ち合わせなく突っ込んでいくのはやめてもらいたいところだ。
もっとも、それを言ったところでこいつは聞きはしないのだから、結局俺が合わせるしかないのだろうが。
それに……
「はあ……だからと言って勝手に突っ走って良いと言うわけでもないだろうに。だがまあ、仕方ないか。好きに動け。お前のことだ。下手に連携を狙うよりも、好き勝手に動いたほうが有効だろう」
そう。それに、こいつは誰かと協力することができないわけではないが、協力するよりも自分だけで戦った方が活躍するタチの人間だ。だったら、その強みを活かすために、俺が補助に回った方がいい。
「うんうん。わかってんじゃない! さっすが私の婚約者ね!」
「誰が婚約者だ。阿呆が」
その話は決まったわけではないし、そもそも俺は認めていない。それに、お前とてその設定を忘れていただろうが、なぜ今だけ思い出しているのだ、まったく。
「スピカーーーー! 私よ、私! 返事くらいしなさーーーーい!」
スティアが両手を口に当てて呼びかけると、それに応えるかのように先ほどの低い声とは違い、再び甲高い叫び声が聞こえてきた。
「よかったな。返事をしてくれたようだぞ」
「そうだけど、そう言うんじゃなくってもうちょっと可愛い感じの声よ! あんな叫びじゃなくって、スピカ自身の声! 前は結局一回も声を聴かせてくんなかったし」
「最後に一度だけ聞けただろ。別れ際だったがな」
「あれはノーカンよ。ノーカン! 私はあんな言葉聞いてませーん。だから、バイバイなんて認めない。絶対に諦めないんだからね! だから、今度こそあなた自身の声であなたの意思を聴かせてちょうだい!」
あんな言葉聞いていない、と言っているが、その言い方だとしっかりと聞いているように思えるのだがな。
だが、どうでもいいか。今大事なのは、スピカが自分から離れようとしたことを認めない、という部分で、その意見は俺も同意だ。あのような子供が、守るべき民が、俺たちを守るために自らを差し出したなどと、とてもではないが受け入れるわけにはいかない。そのようなくだらない悲劇、必ず消してみせる。
「お前が何を懸念しているのかは理解しているつもりだ。聖剣を使用して世の中をどうにかしようとしているイカれた集団。そいつらに俺たちまで狙われると思ったのだろう? だからこそお前は一度逃げ出したにもかかわらず奴らの元へと戻った。だが、気にするな。そいつらはもう終わりだ。先ほど首魁を捕らえたからな。頭を押さえたところでその下はまだ動くだろうが、天武百景の場で騒動を起こしたのだ。近いうちに国際的な指名手配がなされるだろう」
その首魁は先ほど捕らえた。仮に他の組織の者たちが何かをやらかすために動こうとしたところで、複数の国を相手に騒ぎを起こしたのだ。とてもではないが逃げ切れるとは思えない。
「それに、もし俺たちを襲ってきたのだとしても、俺たちはお前が思うほど弱くはないぞ。お前は自分が最強だとでも思っているのか? ならばそれが勘違いであるのだと、俺たちの方が強いのだと、お前に勝つことで証明するとしよう」
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