異世界最強の『農家』様 〜俺は農家であって魔王じゃねえ!〜

農民ヤズ―

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15章

拠点へご案内

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 しかし、ロロエルがこれほど勇者が嫌いとはな。まあ勇者に限らず教会の連中全員かもしれないけど。
 先ほど勇者には「役割を忘れた」と言っていたが、その『役割』というのはなんだろう? まさか勇者がこっちの世界に来る時に神様からなんか使命を与えられたとか?
 でも、それならこいつはその使命ってのを頑張りそうなもんだけどな。
 あれか? 『世界を救え』みたいな曖昧な言葉だったからとりあえず魔王を倒そうとしたとか、なんかそんな感じだろうか? ……普通にありそうで悩むな。

 まあなんにしても、その役割ってのはこの場所に関係することなんだろうな。でなければ、ロロエルがその役割について言及することはないはずだから。
 そして、そんな役割について言及するほどとなると、昔は勇者とエルフはそれなりに仲が良かったのか? ただ関わりがあっただけでは、こうは言わないだろう。

 それなのに今ではこの態度となると……いつのことかはわからないけど、昔に勇者とエルフの間で何かあったか?
 ……いや、何かあった、というよりも、途中で勇者の一人が役割を放棄した、あるいは裏切ったと考えるべきか? もしくは、教会があえて隠すことで情報を伝えるのを途切れさせた、かな?

「——さて、時間を取らせたね。それじゃあ改めて案内だ」

 昔の勇者達とロロエルの関係に考えを巡らせていると、ロロエルが先ほどまでの真剣さを消して砕けた態度へと戻り、再び案内をし始めた。

 その切り替えの早さは驚嘆に値するが、同時に恐ろしくもある。だって、人の精神ってのはそんな簡単じゃない。役者でもないのにああもすぐに切り替えられるってことは、精神のどこかしらに異常があるって事だから。

「綺麗じゃなくて申し訳ないけど、ここを使って欲しい」

 しばらく森の中を進んでいると、少しだけ開けた場所にでた。
 開けた、と言っても広場のようになっているわけじゃない。少しだけ植物が少なくなっている、という程度のもので、そこには建物が存在しているが足元は緑で埋まっている。

 全く手入れがされていない、というわけではないけど、ほとんど人が住んでいないんじゃないだろうかと思えるような有様だった。ここが、この森のエルフ達が住んでいる場所なのか? ……いや、住んで〝いた〟場所か。
 おそらくはもう住んでいないんだろうし、これだけ荒れていてもおかしくはないか。

「人数も……多分足りないと思うけど、そこはどうにかしてもらえるかな?」

 俺たちは総数三百ほどの集団だ。それだけの人数が留まるような家なんて、そうそう用意できるものじゃないだろう。たとえ元は人の住んでいた村だったとして、その家を全て使えるんだとしても、それなりの規模の村でないと収まりきらない。
 リリア達の里みたいにそれなりの規模があれば全員家の中に入ることができただろうが、ここはそれほど大きくないみたいだし、無理だろうな。

「にしても、エルフ達が住んでたにしては、家の数が少ないんだな」
「ああ。まあこっちは別宅というか前線拠点のようなものだからね。里そのものは別の場所にあるよ。危ないから案内はできないけどね」

 リリアのところと比べての発言だったのだが、どうやらここはこの森の里というわけではなかったようだ。それならば確かに規模が小さくてもおかしくないか。

「それから食事に関してだが、生憎と自分の分しかないんだ。出せと言われれば出せるけど、本当に大したものは出せないのは承知して欲しい」
「いや、食事くらいは自分で出せる。というか、そのつもりだったし、泊まる場所を提供してもらったんだ。この上、流石にタダで食い物をよこせなんてたかるつもりはないさ」

 ここはなんだか違和感があるが、それでもスキルを使えるのは確認しているし、自分たちでも最低限の食料は持ってきている。なので、食料に関しては心配する必要はない。……まあ、勇者達はどうなのか知らないけど。だってあいつら《収納》のスキルが使えるやつはいないし、荷物も武装以外持っていないしな。
 それでも勇者達の分は俺たちが準備することになってるんだけどな。あいつら、一応案内役だし。あいつらがいるからこそ、俺たちがここまでくることも認められたわけだし。
 だからこそ余計な荷物を持っていない、というのはあるだろう。

「そうか。よかった。それじゃあ私はまた少し離れるけど、日が暮れる頃には戻ってくるだろうから、話はその時にしようか」

 俺としてはすぐにでも話を聞ければよかったんだが、まあ向こうにも予定はあるか。
 それに、仲間達が泊まる準備も必要といえば必要だし、仕方ないか。

 ——◆◇◆◇——

 夕方……と言っても、森の中なので陽が傾き始めればほとんど夜と変わらないわけだが、まあ時間的には夕方だ。

「やあ。くつろいでくれているかい?」

 もうそろそろ夕食の準備が行われるだろうと思ったところに、どこかへと出掛けていたロロエルが戻ってきた。

「ロロエル。何かやってたみたいだけど、終わったのか?」
「うん。今日の分のノルマは終わったよ。あと、はいこれ。差し入れ、というか、貢ぎ物かな?」
「貢ぎ物なんて……」

 そうしてロロエルが何か果物を差し出してきたのだが、ただでさえこれだけの人数を文句も言わずに泊めてくれることで悪いと思っているのに、この上さらに食べ物まで、となるとちょっとな……。

「わーい! あんたいい人ね!」
「やったー!」

 なんて俺は思ったのだが、どうやらリリアとフローラは俺みたいな事は思わなかったようで、普通に貰ったものを喜んでいる。というか、もうすでに齧っている。

 貰い物をすぐに齧るって、毒の心配とかしないのかよ。
 いやまあ、フローラの場合は精霊だし、依代の体は植物で構成されているんだから生き物に対する毒とか通用しない。だから、その警戒心のなさも理解はできる。
 リリアについても、そもそもロロエルは毒を盛ったりはしないだろうから心配することでもないのかもしれない。けど、それでもカラカスに住んでいた者としての経験はどこにいった。お前はカラカスで何を学んで……何も学んでいないんだろうなぁ。
 いや、全く何も学んでいない、という事はないか。なんだか変な知識を学んでることがあるもんな。……はあ。もっとまともに警戒心を持つくらいの成長はしてくれ。

「……なんか、ありがとな」
「いやいや。聖樹様と御子樣に喜んでもらえるのなら、望外の喜びだよ」

 ロロエルはそう言いながら笑ったが、その笑みはこれまでに見た作り物ではなく、ちゃんと笑っているように思える笑みだった。

「それじゃあ、改めて昼の話の続きだけど……」
「ああ、うん。そうだね。でも、どこから話そうか……」

 だが、そんな笑みも一瞬のことで、俺が改めて話しかけると再び作り物めいた笑みへと戻ってしまった。

「そうだな……なら、最初にお前について教えてくれないか?」
「私について? それはいいけど、そんなことよりも聞きたいことがあるんじゃないのかな?」
「まあな。でも、こう言ったらなんだけど……信用できない」

 俺たちがここにきた理由は聖樹の状態を確認するためで、できる限り急いだ方がいいような状態だ。
 そんな中で悠長に話をしている時間なんてないのだが、そんな状況であってもこのことは確認しなければならないことだ。それに、この程度の話は時間がかかったうちには入らない。むしろ、疑ったまま行動するより結果的には早く事が終わるかもしれない。

 だが、そんな俺の言葉を咎める存在がいた。

「ちょちょーい! あんたそれは失礼じゃない?」

 リリアだ。

「ロロエルってばいい人なのよ? だってほら、こんなにお土産くれたし——」
「お前は黙ってろ」

 お供物としてもらったものをすでに手をつけているリリアは、宿も食べ物も提供してくれたことで見事に懐柔されているようで、ロロエルのことを疑っている俺を咎めてきたのだが、今は大事な話をしているんで大人しくしていてくれ。
 そんな意志を込めて、リリアの口に追加で果物を突っ込んで黙らせる。

 別に話に参加するなってわけじゃないけど、せめてその手に持ってある食べかけの果物を置き、口の周りを拭いてから話に参加してくれ。

「真面目に話をすることができないわけじゃない。にもかかわらず、常に笑い続けている。それも、楽しくて笑ってるんじゃなくて、仮面を貼り付けたようにな。偽っている自分を堂々と見せてくるようなやつを信用できると思うか?」
「んん~。まあ、それもそうかな。うん。仕方ないことか」

 失礼ともとれる俺の言葉に何を思ったのか、ロロエルは納得するような頷きを何度も繰り返している。
 それを寛容だ、ととる人もいるだろうが、俺には不気味にしか思えない。
 ……これはカラカスで人を疑いながら生きてきた弊害加奈、と思ったが、騙されて死ぬよりはマシだろうと思い直すことにした。

「ただまあ、これもこれで仕方ないというか、私が私でいるために必要なことなんだよね」
「お前でいるために必要?」
「そう。これは、少しでも壊れず長く生きていられるように、って工夫だね。暇つぶし、あるいは刺激を求めて、と言ったところかな。もちろん、自分がそう考えているだけで、もうとっくに壊れているのかもしれないけどね」

 だいぶ失礼な俺の言葉であってもロロエルはなんら気にしたところがない様子で笑っている。
 確かに、〝こんな状況〟で笑っていられるのは、どこか心が壊れでもしていないと難しいだろう。

「長く生きられるように? その落ち着かないで切り替えられる性格がか?」

 むしろ生きづらそうな性格に思える気がする。何せ、その在り方が一定じゃないのだから。
 それが意図せずに起きてしまうのなら仕方がない。だが、こいつの場合はわざと。怒ったり笑ったり、そうしたいからそうしてるんじゃなく、そうするべき場面だからそう動いているような、そんな感じを受けるのだ。

 俺たちがここにいないときはどうしているのかわからないが、もしそんなのを常に続けているのだとしたら、それは相当に神経を使うことなんじゃないかと思う。
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