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15章
神様と超越者
しおりを挟む「それに、だ。そちらの御子様は『聖樹の御子』だ。ならば、その本拠地としている場所の近くには聖樹がある。違うかい?」
「いや、まあ、あるけど」
「うちの子とフローラ、二本もあるのよ! どうよ?」
「それは素晴らしい。それならば、何も心配することはないだろうね」
自慢するように告げられたリリアの言葉に、ロロエルは本当に素晴らしい、喜ばしいと思っているかのように表情を柔らかくして笑った。
「確かに、普通なら何百年も生きていれば心を閉ざすものもいるだろうし、そうでなくてもバカではいられない。——でも、それが聖樹のそばで生きている者達となれば話は違う。言っただろう? 少しの例外、と。エルフ達の心が疲弊するのは、バカなままじゃいられないからだ。聖樹という存在が近くにあるからこそ、何も心配することなく、ただ笑って毎日を生きていられる。だって危険なんて聖樹が守ってくれるし、すぐそばにある聖樹を信じて生きていれば辛いことなんて何もないんだから」
それはつまり、絶対的な庇護者がいるから警戒をする必要はない、ということか?
「聖樹っていうのは、エルフ達にとっての心の拠り所であり、その力は安らぎを与えてくれる」
ロロエルは一旦そこで口を止めると、俺とリリアのことを見つめてから再び口を開いた。
「だから私たちは君たちのことを言うんだ。『聖樹の御子』ってね。巫女でも神子でもない。『御子』だ。それは比喩でもなんでもなく、純粋に聖樹の力を受け継いだ子供だからだよ。ただ聖樹の力を与えられただけ存在ではない。聖樹から生まれただけという理由でもない。たとえ血が繋がっていなくても、種族が違っていても、聖樹の力を受け継いだ事が重要なんだ。聖樹の力——ひいては神樹の力を振るう事ができるのなら、それは聖樹の子供だ。それは私だけの考えじゃない。私達全員と、星そのものの考えだよ」
今までは「そんなもんか」としか思っていなかった『聖樹の御子』と言う称号だが、それがここにきてかなり重い意味を持つのだと知った。
まさか、それほどのものだとは思っていなかった。精々がエルフたちから愛されている聖樹に認められているすごい人、くらいの認識だった。それが、まさか星の考えどうこうだなんて話になるとは……。
「でも、聖樹の子供って言っても、俺たちは聖樹を残せるわけじゃない。生物の基本として、その種を繁殖できないなら子供としては出来損ないだろ」
ただ、素直に認められないのが実のところだ。だってそうだろ。聖樹の力を受け継いだとしても、その力を後世に残すことができないのなら意味はないし、聖樹の子供とは呼べないんじゃないだろうか?
「いいや。残せるよ。言っただろ? 『力を受け継ぐ事が大事だ』って。聖樹の力、神樹の力さえ受け継ぐ事ができたのなら、その姿形はどうでもいいんだ。その力が何かに宿り、その何かの子供へ継承される。その事実こそが重要になる。そうして力を受け継ぎ、広める事で、神樹の力をこの世界に残し続け、広めていくことができるんだから。わかりやすく言うなら、次代の聖樹と表現することもできるね」
「次代の聖樹……」
「王の子供は王族ではあっても『王』その者ではない。聖樹の子供もそうだ。聖樹に子供がいても、それが次の『聖樹』になれるとは限らない。……ああ。今の王の喩えで言えば、『王太子』と『王子』の差って言えばわかるかな? 次の王として認められたものだけが、聖樹の『御子』として認められるんだ。……もっとも、人間で言うところの『王太子』とは少し違うけどね。だって、想定外のことがなければ人よりも聖樹の方が長生きなんだから」
俺が聖樹の『王太子』ね……。聖樹の王太子で、王国の王子で、犯罪者たちの魔王ってことになるんだが……ちょっと設定が増えすぎじゃないだろうか?
まあ、それはそれとして、なんとなくは理解できた。気がする。
けど、それでもまだわからないことがある。
「力の継承かと言ったが、だがリリアの母親は『聖樹の御子』だったけど、リリアが生まれてしばらくしたら聖樹からの力を失ったと言っていたぞ。それはどうなんだ? 広める目的なら、それはおかしくないか?」
「それはあくまでも聖樹から送られていた力が止まった、というだけで、すでにその身に宿した力の質は元には戻らないはずだよ。いくら聖樹と言っても、分ける事ができる力に限りはある。すでに子を産んだ者と、まだ子を産んでいない者。どちらが力を広めるための継承者として相応しいのかと言ったら、後者だと思わないかい? それに、すでに子を産んでその力を後世に残すことができたのなら、それは『聖樹の御子としての役割を果たした』と言える」
まあ、力が無限にあるわけじゃないから、送る対象を選ぶってのは理解できるな。これが聖樹からではなく神樹からだったら人数制限なんてなしに『御子』を作ることができたのかもしれないが、実際には神樹はそんなことはできないから。死んでいるわけではないけど、呪いがあるうちはまともに動くことなんてできやしないだろう。
「——さて、少し話が逸れた気がするけど、まあ私についてはこんなところだね。何か質問はあるかな? 信用は、してくれたかい?」
聖樹や御子について考えていたのだが、そこでロロエルが話しかけてきた。
声に反応して顔を上げると、そこには相変わらず笑みを浮かべているロロエルがいた。
その様子に、事情を知ってもやっぱり不気味さがあるな、と思わずにはいられなかったが、それでもひとまずは信じることにした。
「……ああ。ひとまずはな。完全に信用するかは、もう少し様子見をしてからになる」
「そうかい? ありがとう。信用してくれて」
「まだ完全に信用してないって言ってんだろ」
「そんなことを直接言ってくれる時点で、答えなんて決まってるものだろう?」
ロロエルの言葉にろくな返事をすることができず、俺はスッと視線を外した。
「さあさあ、それじゃあ本題のお話の方だけど……う~ん」
俺の反応を見て見ぬ振りをしたロロエルは、俺がロロエルのことを信用できないから、と止めていた話をすることにしたようだが、何から話そうかとでも迷っているのか悩んだ様子を見せている。
「やっぱり、最初から話すべきかな。そのほうが、〝色々〟とわかってもらえるだろうから」
ロロエルはなんだか含みのある事を言ってから目を瞑り、ゆっくりと一度深呼吸をすると、目を開いて話し始めた。
「これは、私達の里に伝わっている伝承だ。その伝承を受け継いだ『モリビト』として、聖樹の御子様、及び聖樹様へとお伝えさせていただきます」
俺たちがついていたテーブルの余っていた椅子に腰をかけたロロエルが、改まった態度で話し始めた。
「——世界には二種類の神が存在していた。一つはこの星にもともと存在していた全ての母、あるいは父である神樹。そして、もう一つがこの星の外からやってきた超越者。教会の者達がいうところの『スキルの神』だ」
今この場には俺の護衛兼従者であるソフィア達三人の他に、リリアとフローラ、それから勇者一行とその他数名のカラカス護衛がいるのだが、その全員が……リリアとフローラを除いた全員がそれぞれ驚きを見せていた。
それも当然だろう。だって、スキルの神ってのは、創世の頃からいた、ということになっているんだから。それが外からやってきただって?
「超越者達は自身の力をこの星に住まう者達へと分け与えた。そうして神を名乗ったんだ。名乗ったのかそう呼ばれるようになったのかはわからないけど、まあそれ自体はよかった。魔物を相手に人は滅びかけていたけど、力を得たことで繁殖に成功したんだから。でも、それも最初のうちだけだった」
声の調子は変わっていないが、話をするロロエルの手にわずかながら力が籠められたのが見えてしまった。
「力を与えられてからどれほどの時間かは分からないけど、超越者——神の一人が『堕ちた』。それによって、その神から力を与えられていた者、その神を信奉していた者が狂い始めた」
「なんでそんなことに……」
それは物語としてはよくある展開だが、実際に自分たちのいる世界でそんなことが起こったとなると他人事ではいられない。
そのため、話を聞いた俺は思わず声に出してしまった。
「人を愛していたから、って言われてるね。人を愛し、人に近づいた。そして、近づき過ぎた。人の全てを愛したがために、その善性だけではなく悪性すらも全て受け止めることになったんだ、って」
愛していたから近づこうとした、か。まあ分からないでもない話だな。朱に交われば赤くなる、あるいは郷に行っては郷に従え、か? なんかどっちも微妙に違う気がするけど、要はそういうことだろう。人の悪い面を受け入れたはいいが、人間とは違ってその悪性を生まれ持っていたわけではないために、悪に感化されすぎたんだろう。
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よろしくお願いします!
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