聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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ちょっと教会に行こう

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 ――◆◇◆◇――

「――ああそうだ。この後ちょっと出てくるわ」

 翌日、変わった街の様子を確認するために街を散策しようと思った私は、朝食の席でミーナにそう告げた。

「馬車の準備をいたしますので、少々お待ちください」

 突然の言葉だっただろうに、ミーナは驚いた様子を見せることなく準備をしようとし始めたけど、今回は必要ないのよねー。

「いいわよ。ちょっと教会に行くだけだし、せっかくだから街の変化を見てくるわ」
「教会ですか? ……何か言われないでしょうか?」
「さあ? あそこの司祭はそんな欲の突っ張った俗物じゃないから大したことは言われないんじゃない?」

 教会なんてのは基本的に神様という道具で商売をしているだけの集団だけど、仲にはちゃんと人を導くことを良しとしている真っ当な者達もいる。そういうまともな人たちは得てして上層部ではなく下の方の階級で活動しているけど、この街に赴任している司祭も真っ当な……まあ、欲に塗れた人物ではない。

 これまで、私が神の加護を与えられてから色々と手を貸してくれたし、王子との婚約に関しても相談にも乗ってもらった事がある。

 にもかかわらずこんな結果になってしまった。この街に帰って来たのだからその辺りのことは一度話を通しておくべきだろうと考えたわけだ。それに、街に出たら教会以外にもいきたいところもあるし。

「ですが……いえ。畏まりました」

 一応私も貴族の令嬢なわけだし、普通なら馬車を使って運んでもらうところだけど、もう王子の婚約者ではないんだし、この街では聖女として活動する必要もないんだから自由に歩かせてほしい。
 そんな私の願いを感じ取ったのだろう。ミーナはまだ何かを言おうとしていたが、すぐに言葉を止めて承諾の意を示した。

「それにしても、お嬢様。以前は避けていたのに、自ら教会に足を運ぼうとするだなんて信仰心が芽生えたのですか?」

 ……ああ。そういえばこっちにいた時は教会に寄り付かなかったっけ。王都で暮らすようになってからは毎週どころか毎日のように教会に通うことになっていたからもう今更抵抗感とかないけど、以前はあまり自分から教会に足を運ぶことはなかった。だから王都での生活を知らないミーナが疑問に思うのも当然か。

「ええそうなの。私のことを盛大に呪ってくれた神様に文句を捧げに行こうかと思ってね」
「……それはまた、大層な信仰心ですね」
「私以上に神様のことを想っている敬虔な信徒なんていないんじゃないかしら?」

 信仰心ではないけど、神様を信じている心であれば誰にも負けないという自負がある。だって、他ならない神様のせいで私の人生は狂ったんだから。

 まあ、そんなことを教会や他の信者たちに行ったら怒られるでは済まないから、外では誰にも言わないけどね。

「……問題だけは起こさないでくださいね?」
「失礼ね。お父様にも言われたけど、そんな分別の無いように見える?」

 流石に教会と敵対したらまずいことだなんてのは私だってわかっているってのよ。二人ともいったい私がどんな人間だと思ってるわけ?

「……時と場合による、と言いましょうか。もし本当に目の前に神様が現われたら、殴りかかりませんか?」

 訝し気な様子で問いかけてきたミーナだけど、そんな質問考えるまでもないじゃない。答えなんて最初っから決まってる。

「そんなわけないじゃない。その時は殴るんじゃなく、隙を見て必殺の一撃を叩き込むわ」

 人の人生を狂わせてくれたんだから、私にはその資格があるでしょ。それに、きっと私程度の攻撃で死ぬようだったら、それは神様じゃなくて神様の名前をかたる偽物だろうから、きっと大丈夫。むしろ私は偽物を倒した敬虔な信徒で、立派な聖女扱いされるんじゃない?

「……神様にはずっと空の上に引っ込んでいてくれるように願っておきます」
「いやね、冗談よ。そんなことしたらこの家に迷惑がかかるじゃない。やるとしても縁切りしてからやるから安心して」
「どう考えても安心できないのですが?」

 なんて冗談めいた会話をしてから私は立ち上がり、街に向かう準備をするために部屋へと戻っていった。

 ――◆◇◆◇――

「――それじゃあ出てくるけど、何か注意事項とか知っておいた方がいい事とかある?」
「そうですね……最近は開発の影響もあって他所から人が流れ込んできていますので、その分治安が悪くなっています。ですので十分にお気を付けください」
「ああ……そういえばそんな話も聞いたわね。分かったわ」

 ここでも治安の話かぁ……やっぱりちゃんと調べた方がいい感じよねー。まあ、今回の散歩でなんとなくの雰囲気くらいは分かるだろうし、それを基にして考えてみようかな。

「後は、依然と風景の違うところもありますので、迷子にならないように、ということくらいでしょうか」
「ならないってば、迷子になんて」

 いくら街の様子が変わっているって言っても、道の構造自体が変わっているわけじゃないんだから、この街の道を知り尽くしている私が迷うわけないじゃない。なんだったらミーナ達や警邏の兵士達も知らない道まで把握してるし。大丈夫大丈夫。

「へえ~。結構変わってるものね。――あ。でも昔からの屋台とかはあるみたいね」

 そうして私は街へと繰り出してきたわけだけど、まず大通りの様子が以前とは違っていた。道そのものは変わっていないし、建物もそれほど変わったところはないけど、活気が以前と比べると段違いだ。

 ただ、そんな中であっても以前もたまに寄っていた屋台なんかは残っているようで、それが少し嬉しかった。

 けど、やっぱり中にはいなくなった店もあるし、増えている知らない店もある。
 その事実が私とこの街の隔たりを感じさせ、どこか落ち着かない気持ちになった。

「教会は……ここだけはいつ来ても変わらないなぁ」

 地に足がつかない感じと言えばいいんだろうか。そんなどこか夢の中にいるようなふわふわした意識で街の様子を観察しながら歩き、遂に目的地である教会までたどり着いた。

 街の様子は色々と変わっていたけど、神様の家に手を加えることは憚られたんだろう。それから、神様の家の周りで店を開いて変に騒ぎを起こされた場合を考えたのだと思うけど、この教会の周りは街の様子からすると不思議なほど以前と変わっていなかった。

 私の人生を狂わせた教会も神様も気に入らないけど、色々と変わってしまった街よりも、以前と変わらない光景を見せてくれるこの場所の方が落ち着くというのは何という皮肉だろうか。

「これで信心深くなるだろうって計算しての呪いだったら、いやらしい神様ね」

 もし本当にそんなことを考えていたんだとしたら、それこそ本当にぶん殴ってると思う。まあ、まず会うことはないだろうから殴る事なんてできないんだけどね。

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