聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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頭のおかしい聖女様

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「これで状況が理解できたかしら?」

 結界を攻撃して破壊することがほぼ不可能だということを理解してくれたならいいけど、理解したらしたでこの後どんな行動に出るつもりなんだろう?

「………………バケモノめ」
「あら。女性にそんなことを言うだなんて酷いわ」

 ただ魔力が他人より多いってだけなのにねー? ……まあ、我ながら魔力の量に関しては自分でもおかしいくらいの量があると思ってるし、バケモノって言われても仕方ないかなとも思ってるけど。でも文句があるんだったら私に加護を与えた神様のことを恨みなさい。

「総員散開!」
「撤退の判断が早いのは結構。でも――残念」

 今の話している間にどうするか決めたようで、覚悟をした表情で騎士の男が指示を出した。私としてはまだうじうじ考えて、ちょっと手を出してから無理だと判断して逃げるかな、なんて思ってたのにもう撤退の判断を下すなんてなかなか思い切ったことをするなとは思う。

 でも、私がそれを赦すはずがない。

「が――」
「なんだこれは!」
「か、壁……?」
「正確には結界ね。もう誰一人逃がさないから、もう少しお話をしましょう」

 騎士の男の合図とともにバラバラの方向に逃げ出した騎士達。だけどそのうちの一人とて逃げることは叶わず、ここにいるメンバー全員を閉じ込めるように張った結界に阻まれて留まることとなった。

 折角の敵の手がかりであり、尚且つ私が戦えることを知ったあなた達を逃がすわけないじゃない。私を攫って何かをしようとしていたってことは、私の事を普通のかわいらしく大人しい令嬢だと思ってるってことだし、私達に敵対した阿呆にはまだそう思っていてもらわないといけないもの。

「クソッ! 全員やつを攻撃しろ!」

 逃げることができないと判断したようで、騎士の男はすぐさま仲間……いえ、部下ね。部下に指示を出して私に攻撃を仕掛けてきた。

 けど……ごめんなさいね。

「ああ、一つ忠告しておくわ」

 もう用済みなのよ。

「このやぎょっ――おお?」

 私に襲い掛かって来ていた騎士達全員が突然首だけを百八十度回転させ、ごきん、と嫌な音を立てて一斉に地面に倒れ伏した。

「あら、首が折れてしまったみたいね。人の話を最後まで聞かないからそうなるのよ」

 まあ、最後まで聞いたところで結果は変わらなかったかもしれないけど。
 正直なところ、この騎士達の主が誰なのか分かった時点でもう騎士達を生かしておく意味はなかった。
 それでも生かしておいたのは、素直に投降するんだったら捕虜として扱ってもいいと思っていたからだけど、それもない。
 なら変に騒がれるのも嫌だし、想定外があって逃げられるのも嫌。ついでに、壊せないとはいえ攻撃されてうっとうしいのは事実だったし、だからさっさと処理することにしたってだけの話。簡単でしょ?

 ああ、追加の効果として、騎士達だけじゃなくて賊たちも黙って静かになったわね。よかった。これから話をするのに攻撃されっぱなしの状態じゃまともに話しもできなかっただろうから。

「……なにしやがった」

 私がいて、首の折れたいくつもの死体があって、両者の間には賊たちが動きを止めて声どころか息一つ漏らすことなく私を見ている。
 そんな不気味なくらい静まり返った空気を破って、賊のボスが私の事を睨みながら問いかけてきた。

 その目の奥には怯えの色が見えるけど、それでも臆すことなく問いかけてきた胆力は素晴らしいと言えるでしょうね。

「さあ、何をしたのかしらね」

 元々話すつもりだったし、素直に話してもいいんだけど、少しだけ揶揄いたくなったので惚けてみることにした。

「チッ。話すつもりはあんだろ。さっさと話しやがれ」
「ふふ……そうね。いいわ。教えてあげないと話にならないものね」

 チッと舌打ちをした賊のボスを見て、少しだけ笑った私はこれ以上延ばしても悪いかと話すことにした。

「実は私、聖女なんて呼ばれているけれど、聖女って他者を傷つける魔法がないじゃない? でもそれじゃあいざという時に危ないと思って、敵を殺すことができる方法を探してたのよ。その結果が今この状況というわけ。ああ、むやみに動かない方が良いわよ? もしかしたら、貴方達もさっきの人みたいに〝自分で首を折る〟ことになってしまうかもしれないもの」

 これを思いついたときはかなり驚いたものだ。なんたって私の体で実際に試したんだから。
 いや、試したというか偶然そうなっただけだけど。あの時は痛かったけど、それ以上に興奮を覚えたのを今でも覚えている。
 ああ、言っておくけど痛いのが興奮するんじゃなくて、その戦い方? を見出したことについてよ? だって、これで攻撃系の魔法を使わなくても敵を倒すことができるんだもの。

「自分で首を? ……どういうことだ」
「あなたが言った通り、聖女は他者を傷つけることは出来ない。けれどその代わり、他者を強化する補助魔法の類は通常よりも高い性能を発揮することができるのよ。ご存じかしら?」
「だから、それでなんだってんだ!」

 さっさと答えろって言われていたのに回りくどく説明しているからか、賊のボスが苛立ったように声を荒らげた。
 まあこんな状況じゃさっさと答えを知りたいと思うかもしれないけど、でもこれは説明しておかないと話が進まないの。

「そんなに興奮しないで頂戴。ここまでは必要な前置きなのよ。――まあそんなわけで私はかなり強力な補助魔法を使うことができるのだけれど……それを体の一部だけにかけたらどうなると思う?」
「体の一部だけだと?」
「ええ。それも、普通の人がやるような腕だけ、足だけなんかではなく、腕の筋肉だけ、足の骨だけ、神経や脳の働きだけという、本当に限られた場所だけを強化するの。それも、普通の強化のように二倍三倍程度ではなく、百倍に変えたら? さあ、どうなると思う?」

 どうなる、なんてのは周りを見れば一目瞭然……って、ああ。そういえば周りを見渡すことができないんだったっけ。できないこともないけど、やったら死ぬかもしれないし、自分達から動きたいとは思わないでしょうね。

 ただ、賊たちは今の説明だけじゃ何があったのか理解できていないみたいで、恐怖を顔に浮かべながらもどこかキョトンと呆けたような顔をしている。

「……おい。おまえ、正気か……?」

 そんな中で賊のボスは流石まとめ役をしているだけあるのか、驚きに目を見開き、眉を顰めて苦々しい表情で私の事を見つめてきた。
 そういいたくなる気持ちも分からないではないけど、失礼ね。

「あらいやだわ。正気に決まってるじゃない。でも、その様子なら答え合わせと行きましょうか?」

 教えてくださる? と言うかのように笑みを浮かべて賊のボスのことを見れば、ボスは一層眉を顰めてからゆっくりと答え始めた。

「……ごく一部の筋肉を強化した結果、体をいつも通りに動かしただけで百倍の威力で動くことになる。だが、筋肉以外は強化していないから他の部位はその動きに耐えられずに自壊することになる。さっきの奴は、首の筋肉が強化された結果、首の動きに骨がついて行けず折れたんだろ」

 やっぱり賢いわねー。まあ、あれだけ話してあげたんだから分かるか。

 今ボスが話したように、私がやったことはそれだけ。まあそれだけっていうにはちょっと物騒な感じのあれだけど、行動としてはたったそれだけのこと。私じゃなくても誰でもできる初歩的な術しか使っていない。
 ただ、その強度が初歩からは外れた事なんだけどね。普通の人が最大でも五倍くらいにしか強化しないのに対して、私は百倍くらいにしておいた。自分の体が突然百倍の速さ、強さで動くことになったらどうなるか。当然体の動きに意識がついて行かず、本人にとっても予想外の動きをすることになる。そして、自傷する。今回みたいに首を動かす筋肉だけを強化したら、首の骨が折れるのも当然というもの。

「ええ、その通りよ。沢山ヒントを出したとはいえ、良く分かったわね。ちなみに、全員違う部位を強化してあげたから、もしかしたら動いても指が折れる程度で済むかもしれないわよ?」
「んなこと言われたところで動くわきゃねえだろうが。それに、正直わかりたくなかったぜ。こんなイカレた奴の考えなんてよぉ」
「あら失礼ね。人を攫って金儲けをしていた外道よりは真っ当な人間であると自負しているわ」

 確かに魔法の使い方としては邪道かもしれないけど、人の道を違えた外道よりははるかにマシでしょ。

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