聖女様、魔法の使い方間違ってません?

農民ヤズ―

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聖女様からの呪い

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「は……それじゃあ、その真っ当な人間様は俺達をどうするつもりなんだ?」

 私の言葉に反論できなかったのか、それともしなかったのか。それは分からないけど賊のボスは自嘲する様に小さく笑うと問いかけてきた。

 うーん。どうするか、かぁ……正直言ってここに来たのは流れだったし、気分が乗ったからだけど、この賊たちは完全に敵というわけでもないし、利用できるのなら利用したいと思っているのが実のところ。
 ただ、実際にどうするのかというのはこの賊たちの答えにかかっている。

「ああ、そうね。その話をしに来たんだったわ。ただその前に聞いておきたいのだけれど、さっき死んだ人たちの中にあなたの部下はいたかしら?」

 もしいたのならこれからする話に差しさわりがあるかもしれないし、その辺りのことも考慮しないといけないもの。だからこれはとっても大事な事。

「……いねえよ。よくわかったもんだな」
「結構簡単な事だったわよ? さっきの騎士が『総員散開』と言ったでしょう? それ以外にも何度か指示を出していたけど、その指示に従った人を選んだだけ。あなた達って、大きなくくりで見れば『私の敵』という存在だけれど、実体は二つの頭が一緒に行動しているだけでしょう? だからあなたの部下はあなたの指示しか聞かないし、彼らはさっきの騎士の指示しか聞かない。元々話し合ってお互い納得の上だったら指示を聞くでしょうけれど、さっきのタイミングでは意見のすり合わせなんてできるはずもなかったもの」

 見たところこの集団は元々居た賊たちに余所者が手を加え、そこに騎士を混ぜることで大きな組織としたような感じだった。あるいは組織を作るために騎士達がどこかから人を連れてきたのかもしれないけど、まあその辺はどうでもいい。重要なのはこいつらは一つの集団でありながら二つの組織が合わさってできていたという事。

 一つの組織に二人のトップがいるんだから指揮が混乱するに決まっている。

「統率が取れてるってのがあだになったってか」
「そうでもないわよ? だって、統率が取れてないで逃げ出したらその人たちみんな死んでしまっていたでしょうからね」

 だから、この賊たちにとっては完全に一つの組織として統率が取れている状況にならなかったことは幸運な事だったと言えるでしょうね。
 まあ、もしそうなってたら私にとっても困ったことになったし、お互いに幸運だったってことで。

「そんなわけで、貴女の部下が死んでいなくてよかったわ。死んでいたらこれからのお話に差し障ったかもしれないし」

 そう言うと一旦言葉を切り、軽く咳払いをしてから少しだけ意識を切り替える。

「それで本題だけれど――私の下に就きなさい。跪いて頭を垂れれば、私の手足として使ってあげる」

 ん……言ってから思ったけど、ちょっと高圧的だったかな? お嬢様として喋ってるとどうしても、っていうのはあるけど、格の違いや立場を理解させようと思ったんだけど、言葉選びがまずかったような気はする。

「――ふ、ふざけんんんん!?」

 そんな私の懸念は正しかったようで、私の言葉に反感を抱いた賊の一人が叫びながら足を踏み出したけど、その瞬間叫び声をあげながら大げさに前に転んでしまった。
 まあ、壁に激突しなかっただけマシでしょ。

「あら、あなたは足だったみたいね。死んでないなんて運がいいじゃない。さっきは殺さなかったけれど、だからといってこれから逆らう人まで殺さないわけじゃないから気を付けた方がいいわよ。……ああ、でも安心してちょうだい。私はこれでも聖女なの。怪我をしたところで、いくらでも治してあげるわ。だから、ね? もう一回立ち上がってみない? 今度はきっとちゃんと歩けるわ」

 なんて、殺すつもりはないけどね。だって殺したら賊たちに恨まれるかもしれないし。そうなったら手下に……じゃなくて仲間にできないでしょ?
 でもこうでも言っておかないと逆らってくる奴がいて面倒だし、しかたない。だから実際には向かってくる奴がいたとしても、その時はその時でちゃんと死なない程度に骨を折ってもらうことになるかな。まあ、最終的に治してあげるから無傷で話を終えることができるんだから問題はないわね。

「は、はは……ははは……」

 けど、私の言葉を聞いて何をどう感じたのか、私に怒鳴りつけてきて転んだ男は乾いた声を漏らして引きつった笑みを浮かべている。うん、この男も喜んでくれているみたいね。まあ無償で怪我を治してもらえるんだからそりゃあうれしいでしょうよ。ねえ?

「……おい。あんたには逆らわねえ。だからもうこの呪いを解いちゃくれねえか?」
「あら失礼ね。呪いじゃなくて強化魔法よ。私は呪いの類は使えないもの」

 昔は呪いも使えたけど、あれも攻撃扱いにされたみたいで使えなくなっちゃったのよねー。今も呪いが使えたんだったらあのクソッタレな頭お花畑王子の頭を焼野原にしてやってもよかったのに。

「強すぎる力なんざ呪いと変わらねえだろうが」
「……なるほど。確かにその通りかもしれないわね。私も加護なんて呪いは欲しくなかったし」

 確かに言いえて妙だ。私のやったことと方向性は違うけど、メリットだけではないという点はおんなじなんだから。
 神様の加護なんて力は本来素晴らしいものとして扱われるけど、その力の代償として攻撃系の魔法が使うことができなくなる。私にとってはそんなものは呪いに他ならない。賊たちにとっても、強すぎる強化なんて呪いと一緒だろう。

「それで、どうなんだ?」
「いいでしょう。それじゃあ宣誓してもらえる? 〝私はルーナリアに逆らいません〟って」

 これで心優しい頭お花畑の人がいたら理不尽だとか、契約の内容を変えろとか言うのかもしれないけど、私は絶対にそんなことはしない。だってそうすることがどれだけ危険なのかよく知っているから。

 まるで奴隷契約みたいだけど、まあ立場としてはは奴隷と同じようなものだし、命があるだけマシと思ってもらいましょう。

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