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アッシュたちからの報せ
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「――お嬢様、お帰りなさいませ」
夜の庭園での会話があった日から三日後、私はランドル卿の実家であるロングラン子爵家を辞して実家へと戻ってきた。あの夜以降特に何があるわけでもなく、普通に歓待されて終わったんだけど、それがなんとも不気味だった。
だって、あんなに私達を結婚させようと考えていたレイネ様があの日以降私達の結婚について口にすることがなかったんだから。けど、かといって諦めたのかといったらそんな様子もないように感じられる。
これはもしかしたら本当に王家が間に入るかもしれない、なんて思ったけど、そうなるとロングラン子爵家というのはどういう立場なんだろう? 確かに辺境伯というのはかなり力を持っており、王家から信頼がなければ務まらない立場だけど、ただの辺境伯家の親類、というだけでは王家が婚姻に口を出してくるはずがないんだけど……
……あー、もうやめやめ! どうせ考えたって分からないんだから、このことに関して考えるのはやめておこう。どうせなるようにしかならないんだし。
ただまあ、王家とロングラン子爵家の関係に関しては探りを入れてみようかとは思う。今はそれくらいでいいでしょ。
「ただいま、皆。何か変わったことはなかったかしら?」
「基本的には。ただ、お嬢様のご友人が二日ほど前に訪れました。お嬢様が戻ったらすぐに来てほしい、とのことです」
「友人って……アッシュかしら?」
この街で友人って言ったら確かに限られるけど、他にもいないことはない。これでも貴族だからね。それなりに付き合いってものがあるから、貴族の友達もいるわけよ。
でも、執事がこんな表情をしながら言ってくるってことは、それくらいしかない。それに、他の貴族からの報せだったら何かしら手紙とかあるはずだし、そんなすぐに来てほしいなんて用件はなかったはずだからね。
「名前までは。ですがお嬢様。前々から言ってきましたが、もう少し立場や人間関係というものをお考え下さい。あのような者達と関わるなとは申し上げません。申したところで意味はないでしょうから。しかしながら、堂々と付き合いがあると公言するようなことはお互いのためにもなりません。ですので――」
「あー、はいはい。分かったから。もう表から屋敷に来させないようにするってば。それよりも、私はアッシュたちのところに行ってくるから。あいつらだってここには来ない方がいいってことくらい分かってるのに、それでも来たってことはそれなりに重要なことを伝えに来たってことだろうし」
アッシュたちはスラムに住んでいる孤児というだけあって、使用人たちからの受けが悪い。というか、伯爵家の家臣として、かな。皆孤児だからって差別するわけじゃないんだけど、そんな存在と貴族である私が関わっていることでよからぬ出来事に発展しかけないと考えているのだ。だからそんなことが起こらないためにも、あらかじめ関わらないようにといつも言われている。この件に関しては両親も似たような考えだから、むしろ間違っているのは私の方である。
まあ、関わるのをやめるつもりはないけどね。それが分かってるからこそ、皆関わるのをやめろとは言ってこないんだし。
それに、あいつらがいると役に立つときもあるのよ。市井の情報なんて使用人たちよりもスラムのクソガキであるアッシュたちの方が良く知ってるし。余所者が入り込んできても、裏路地を纏めているからすぐに分かる。
ただ、何のはばかりもなく関わり続ければお互いに良いことにはならないので、妥協案として屋敷には来ない。私がむこうに行った時だけ関わる、ということになっていた。
それなのに屋敷まで来たってことは、それだけ重要な要件だってこと。
「そういうわけだから、荷物はよろしく。向こうであったことは報告書としてまとめておいたし、詳しくはついてきた使用人たちから聞いて」
「お、お嬢様! 奥様へのご挨拶はどうされるのですか!?」
「アッシュたちから話を聞いたらちゃんと戻ってくるから。多分夕食の時には戻れるはずだし、その時にお母様には話をするからそれで許してって言っておいて!」
お母様への報告も大事だけど、ぶっちゃけそれは後でも構わない。それよりも、アッシュたちに会いに行く方が大事だろうし、今回はちょっと許して!
そして私は、部屋に戻ることもせずに帰ってきたその足でアッシュたちのいるアジトへと向かうのだった。
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