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前世編

また明日って、言ったじゃないっっ……‼︎

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 怒声が聞こえていたはずの部屋の中からは突然、何も聞こえなくなった。不審に思って慌てて私達はその部屋のドアを開けた。

 その光景に、目を疑った。

部屋の中にいるのは、たった3人。
一人は部屋の隅でガタガタと震えている40代後半ほどの男性。
二人目は、部屋の中央辺りでナイフを手に不気味な笑みを浮かべた、同じく40代後半ほどの女性。
そして、もう一人。
同じく部屋の中央辺りにいてナイフを向けられている、10代後半ほどの女性ーー椿だ。

 椿以外の二人の大人は、どこか椿に似ている。恐らく椿の両親だろう。でも、どう言うことなのか。
だって椿は家族と凄く仲が良いはず。それも抜群に。
今日だってDVD見るって言ってたじゃない!

ーーそれがどうして、実の母親らしき人に殺されかけてるの⁉︎⁉︎

 空も、鈴堂も、状況が上手く飲み込めずに混乱していた。しかし、事態は一刻を争う。
 考えている暇なんて、ない。

 その時だった。

椿が笑った。ナイフを向けられていると言うのに。
ゾッとするほど美しく微笑んだのだ。
なぜか、部屋の隅にある観賞用植物の方を見ながら。

 そして、空と鈴堂が止めに入る寸前で椿は刺された。
私達は、間に合わなかった。

 「いやぁぁぁぁぁああああ!!!!椿っ!椿ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 
 「おい、嘘だろ⁉︎しっかりしろ!浮島、浮島っっ!」

 椿の身体はゆっくりと傾くと、床に倒れた。
空たちは慌てて椿に駆け寄り、ボロボロと涙を零しながら呼びかけた。

 「どうして逃げなかったの⁉︎なんで助けてって言わなかったの!!ねぇ、椿ってば!返事をしてよ!」

 「……くっそ!!!!!!なんで…!!俺は取り敢えず救急車呼ぶから!!」

私達がいくら叫んでも、いくら涙しても、椿は目を開けない。どうして?なんでこんなことになったの?

空は、小さな声で椿に言った。

 「また明日って、言ったじゃないっっ……‼︎」


 その時、閉じたままの椿の瞳から涙が零れ落ちた。
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