聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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幼少期編

よし、勝負しよう!!!!

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 ーー二年前、クレディリア邸ーー

 クレディリア公爵、マリオスとその息子、ルイジェルは邸内の庭園内にて対峙していた。
 
「ルイジェル!お前は出来た息子だと思っていたけど…見損なったよ!!!」

 (そう、出来た息子だと思っていたけど、今回だけは許せない!あんな…あんな事を言うなんて!!絶対に許さないよ、ルイジェル!!)

 「はい??それは僕のセリフです父上!見損ないました!ずっと尊敬してたのに!」

 (残念です父上。本当に尊敬しているのに…きっと僕たちはに関しては分かり合えないのでしょうね。…でも、これだけは譲れません!!!)

 両者はギリリと睨み合う。
そして、どちらからともなく叫んだ。

 「「よし、勝負しよう!!!!」」

 勝負にはリスクが伴うものである。その時二人がかけたリスクは中々に重たいものであった。
 それは、勝者が敗者にをするというものだ。
 例えば、敗者の嫌いな食べ物をふんだんに使った料理を毎日料理長に頼んで出してもらうだとか、敗者を嫌いな人と狭い部屋に二人きりにして長時間閉じ込めるだとか、精神的ダメージを負うリスクだ。

 さて、そんな大勝負に挑んだ二人だったが、結局どちらが勝ったかと言うとマリオスだった。
 そして、敗者はルイジェル。
まあ、百歩譲ってここまでは良かった。
…しかし、を忘れてはいけない。
敗者は勝者から嫌がらせのプレゼントをされる。
つまり……

 六歳の実の息子にワザと嫌がらせのプレゼントをする、大人気ない非道な父親の完成である。

 これには流石のマリオスも頭を抱えた。
 「ねえ、マリオス?やっぱり僕、嫌がらせするのはちょっと……。」
 しかし、マリオスが思っているよりも、ルイジェルは出来た少年だった。
 「いいえ、父上。僕が負けたのは事実。今更ルールを変えようなどと、そんな卑怯な事を僕はしたくありません!手加減など無用です。」
 本当に出来た息子である。
 
 でもやはり可愛い息子に手加減をしないなんて、そんなことはできない!できるだけ分かりにくく手加減をしよう。

 …そう思うのが出来た息子の、出来た父親だろうに。

 しかしマリオスは、
 「そっか、ルイジェルがそこまで言うなら…!」

 手加減を、本当にしなかった。

 その結果……。
数日後、クレディリア邸にルイジェル宛の郵便物が大量に届いた。
ルイジェルはまだ社交デビューしていないため、外に知り合いなどいない。不審に思いつつ彼は郵便物の箱を順番に開けていった。
 出てきたのは、大量の本。本は好きだ。やった!
最初はそう思った。が、よくよく見るとタイトルがおかしい。
 『妹サイコー!』『初めてまして!おにぃーちゃん♡』『妹なんて、好きにならないはずだった』

 「なんじゃこりゃーーーー!」

 それが、勝者から敗者への嫌がらせだった。
形だけはルイジェルの好物ーー本だが、内容は最悪。妹のことは確かに大好きだが、系のアブナイ趣味はない。
 にも関わらず、所有しているだけで後ろめたくなってくる精神的ダメージ。
 そしてこれらの存在がもし母、ましてや妹などに見つかったら……!!

 そのプレゼントは、ルイジェルにとって最悪の嫌がらせだった。



 さて、それから約二年が経過したわけですが…。

「「すみませんでしたぁぁぁぁぁああ!!」」

 全てを話し終わった後、再び二人は土下座しました。
仕方のない人たちねぇ、とお母様は嘆息します。まあ当然の反応ですよね。
 「因みに、事の発端である仲違いは何が原因で起きたのかしら?」
 するとお兄様はとても言いにくそうに…
 「…ティーナに一番似合うのは、白いドレスか、ピンクのドレスかっていう言い争いから、デス。」
 
 その言葉に、わたくしは瞠目いたしました。

 ◇  ◆  ◇

 私がチラッと後ろのアルカティーナの表情を盗み見ると、彼女は珍しく眉を顰め、なんとも言えないような表情をしていた。

 …まぁ、そりゃそうよねぇ。二人が勝負した理由が自分だとは思ってなかってんでしょう。
しかも、中々にしょうもない理由だしねぇ。

 はあ、またため息が出てしまったわ。本当にこの人達は懲りないわね。
まあ、そこが好きなのだけど。
 
「あら?…そう言えば、アブナイ系統の本に関しては存在理由が分かったけれど、あのキノコの本達の存在理由が分からないわ?」

 どう言う事なのか聞くと、我が夫マリオスはそれはそれは嬉しそうに、さっきまで体育座りをしていた場所を指差した。
 …そこには何故か、キノコがニョキニョキといくつか生えていた。

 「…ねえ、マリオス?あれはなぁに??」
 「うん。僕はね、いじけるとキノコを栽培できるっていう謎の特技があってね??」
 「……は????」
 「いやぁ、何故か僕がいじけると周りの湿度が急に上がるんだよねー。」

 夫が何か言っているが聞こえない。何その特技!
私あの人と付き合い長いけれど、初めて知ったわよ⁉︎
と言うかそれもう超能力者じゃない!

 その日取れたキノコは、クレディリア家一同で美味しく頂きました。

 ◇  ◆  ◇

 アルカティーナは、その言葉に瞠目した。

 「ティーナに一番似合うのは、白いドレスか、ピンクのドレスかっていう言い争いから、デス。」

 その後すぐに図書館変貌騒動は一件落着となり、アルカティーナはトボトボと自室に戻った。
後ろ手でバタンと扉を閉じると同時に。

 アルカティーナの薄桃の瞳から、堰を切ったように大粒の涙がポロポロと零れ落ちた。

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