聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

ゼンの出会い 1

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 「お前にはアルカティーナ・フォン・クレディリア公爵令嬢の護衛役になってもらう。」
 
 「……!拒否権は、」

 「ない。これは王命だ。」

 謁見の間で一人、呼び出された少年…ゼンは深く頭を下げた。

 「承りました、陛下。」

 嫌で嫌で仕方なかった。
聖騎士でもないのになんで選ばれなくてはならないのか。
しかも、聖女候補の護衛役なんていつ終わるかわからない任務じゃないか。
それに、今回は特例でクレディリア邸に住み込みとなるそうだ。
 ……冗談じゃない。
 
 この鬱憤をはらそうと、ゼンは第一騎士団の団員たちに愚痴を言った。
 「はぁ、なんで俺が公爵令嬢のお守りをしないといけないんだ。」
 同意してもらえるものと思って言ったそれは、すぐさま反論された。

 「なっ!!おま、何て罰当たりな!」
 「あのクレディリア公爵令嬢様の護衛役だろ?何て羨ましい!」
 「デビュタントパーティーでお見受けしたが…本当に天使の様な方だったな。」
 「然も『聖なる歌姫』様だろ?」

 「「「「「「何て羨ましい!!」」」」」」

 ゼンはこの時ポカンとした事を一生忘れないだろう。
何故ブラックな職業として名高い護衛役を、こんなにも羨ましいと言われるのか。

 「でも、何でゼンが選ばれたんだ?」
 「さあ、王命らしいな。」
 「マジかよ!!」
 「でも普通に考えてゼンしかいないんじゃねぇの?相手は史上最年少で聖女候補になったお方。それに応じて護衛役も史上最年少で第一騎士団に入ったゼンってな。」

 「「「「「なるほど。」」」」」

 ゼンはそんな彼らに嘆息した。

 「何がなるほどだ。良い迷惑だ、護衛役なんて。」

 この時は、本気でそう思っていた。
護衛役なんて真っ平ごめん、と。

 ◇ ◆ ◇

 「ようこそおいで下さいました、。」

 初めて訪れたクレディリア邸で真っ先にゼンを出迎えたのはクレディリア公爵だった。

 「。それから、ご丁寧にありがとうございますクレディリア公爵。ですが、護衛役…つまりアルカティーナ様の従者となる自分にはないかと思いますが?」

 「いや…ですが、」

 ゼンはため息をついた。
近頃ため息ばかりついている気がする。

 「良いですか、公爵。自分はです。念を押しておきますが、アルカティーナ様には自分の本当の地位は隠し通すつもりです。くれぐれも、自分のことをなどと呼ばないようお願いします。あと、従者に敬語は不要ですよ。」

 「畏まりま…いや、分かった。娘を頼む、ゼン。」

 「勿論です。」

 「ああ。応接間でアルカティーナが君を待っている。案内するよ。……あ、言い忘れていたけど。僕の可愛い可愛いアルカティーナに手を出そうものなら殺すよ??」

 「いきなり毒舌ですね。」

 どうやら公爵が娘を溺愛しているという噂は本物らしい。
なら、その娘が天使だという噂も本当だろうか。
それとも、悪魔だという噂が本当なのだろうか。

 まあ、聖女候補である時点で性格は良いのだろうが。

 公爵の後に続いて廊下を歩いていると、侍女が俺に向かって頭を低く下げた。
 いくら護衛役とはいえ、普通はここまで頭を低くしないはずだ。
…………なるほど。流石はクレディリア公爵家の侍女。
 を知っているのか。
なら、後で侍女達にも態度を改めるよう言っておかないとな。あとは…公爵夫人と、ルイジェル殿か。

  そうこうしているうちに、応接間に着いてしまった。
 「ティーナ、護衛役の方が到着したよ」

 「…お通しして下さい。」

 クレディリア公爵の声に、中から返事が聞こえた。
ずっと聞いていたくなるような、心地のいい声だ。

 でも、それとこれとは別。
やはり護衛役など面倒だ。
何しろ「騎士様」らしく振舞うことを要されるのだから。
ああ、めんどくさい。

 そんなゼンの気持ちが一転するまで、あと10分。

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