聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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出会い編

リサーシャの奇行

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 その頃誘拐犯の手先達はというと、リサーシャ達のいる部屋の前で見張りをしていた。
 彼女らがここから脱出するのを妨げるためだ。
 しかし、中からは物音らしい物音の一つも聞こえない。もうそろそろ起きていてもおかしくないはずなのだが……。
 と、その時、それまで静かだったその部屋から謎の声が聞こえてきた。
 
 「やだーーーー!何これ放置プレイ!?!?リサーシャ、超感激ぃ~~~~~~~~!(棒)」


 薄暗い空間に響き渡る場違いな叫び声に、何事かと驚いた誘拐犯の手先の男は重厚な金属の扉を乱暴に開けた。誰かが侵入したのかと思ったのだ。

 しかし、中にいたのはアメルダとリサーシャの2人だけ。何も特に変わった様子も見られない。
 一体今の叫び声は何だったのか…と部屋を一瞥してから、首を傾げつつもまた見張りの定位置に戻ろうと扉を閉めかけた。
 しかし、閉まる直前にまたもや叫び声が鳴り響いた。

 「きゃーー!やっぱり放置プレイなのね!それとも監禁プレイかしら!どっちも好きだわ!(棒)」

 「うるせーーー!静かにしろぉ!」

 男は思わずリサーシャの頭を叩く。
すると彼女は痛そうに顔を歪め……ることはなく、むしろ嬉しそうに笑った。

 「やだーーーー!DVよ!DV!!素敵ぃ~~(棒)」

 「何がDVだー!お前と家族になった覚えはないわっ!!!」

 それはそれはうるさい叫び声に、そしてツッコミどころ満載のそれに、思わず見張りの男はどなった。
 しかし、実はこれこそがリサーシャの目的であった。
まず第一に、リサーシャの作戦は部屋の外にいるであろう誘拐犯の仲間と何とかして会話に持ち込むことが大前提として必要である。
だから、これはリサーシャの思う壺だったのだ。
……ただ、会話に持ち込むまでの過程が滅茶苦茶なだけで。

 「えーー?家族になった覚えはないって……今なるのよ、今!ナウ!!大丈夫よ、私あなたが浮気したって借金したって破産したってDVしたって見捨てないわ!だって、それこそが私のタイプの男だから!!てか、むしろしてください!私が得するから!そう、私が!!!(棒)」

 あまりにも理解しがたいその内容に、他の仲間達もが何事かと思って部屋の中に様子を見にやってきた。

 「おい、さっきから何やってんだ?」

 「いや…それが」

 詳細を伝えようとするが、それもまたリサーシャによって阻まれる。

 「何って、私たちの結婚式の予定日を決めてたのよ!ね、ダーリン?(棒)」

 「は!?」

 「お…お前、キリリア嬢とそんな関係だったのか…!?知らなかったよ、お前ロリコンなんだな」

 「お前まで場をややこしくするようなことを言うな!」

 「そうなの~ダーリンったらロリコンでぇ~~!(棒)」

 「もうお前は黙ってろ!!!ぶっとばすぞ!?」 

 「え!?今度はドSプレイかしら!嫌いじゃないわよそう言うの(棒)」

 「…おま、そう言う趣味もあったのか」

 「……勘違いが勘違いを呼んでそれがまた更に勘違いを呼んで、もう取り返しがつかん!!」

 険悪な雰囲気だった部屋が一瞬にしてカオスな空間へと姿を変えてしまった。
 リサーシャはしめしめと内心ではほくそ笑んでいた。
すべて計算通りだわ!
 作戦通りにいけば、このあとは程よく(?)場が混乱したところを狙ってアメルダが男達に質問を吹っかけるはずだ。
 チラリとアメルダを見れば、彼女も今が一番の好機だと判断したのか作戦通りの行動をとった。

 「あの…貴方達は、私達を捕らえて何をするつもりなの?」

 恐る恐るといった感じで問うたアメルダに、男達はいとも簡単に白状した。

 「別にどうもしねぇよ。俺たちはただ、雇われたから言われた通りに動いてるだけだ」

 「そうそう、俺たちは別にあんたらに何の恨みもねぇんだわ。あるのは雇い主だけ」

 「まあその雇い主があんたらに危害を加えらといったらそれに従うがな」

 …へぇ、じゃあこの人達は私たちに執念はないのね。
ならこの先やりやすくなるかも。
でも、その雇い主が鍵ね。

 「ちなみにその雇い主って……」

 これには流石に答えてくれないかな?と思いつつも聞いたところ、やはり彼らは答えてくれなかった。
いくら混乱してても流石にそれはバラさないか…
 しかし、よく見ると彼らの様子がおかしい。
一点を見つめながら、まるで何かに怯えているかのように真っ青になっている。
一体何にそんなに怯えているのか。
不思議に思ったリサーシャは男達の目線を追い、その先にいる人物を見て…納得したように呟いた。

 「あぁ、そういうことか~」

 その呟きに、それまで震えているだけだった男達も気を取り直したらしく、その人物に深々と頭を下げた。
 
 「おっお疲れ様です、ラグドーナ様。いつお帰りに…?」

 「あぁ。今戻ったところだ」

 「左様でございますか…例の夜会はどうだったのですか?」

 「夜会?…あぁ、夜会なぁ」

 ラグドーナは、ニヤリと口を歪め、目を細めた。

 「あの小娘は、私との縁談を断ったよ」

 「小娘…?それって誰のことですか」

 思わずといった様子でアメルダはラグドーナに問うた。それに対してラグドーナは、その薄気味悪い表情を一切変えないまま答える。

 「小娘は小娘だよ。君たちはよぉ~く知ってるんじゃないかな。君たちは彼女の友達だろう?」

 「…!まさか」

 「そうさ。アルカティーナ・フォン・クレディリアのことだよ」

 それから、ラグドーナは聞いてもいない話を話し始めた。

 「私は今日、アルカティーナ嬢に婚約を申し込むつもりで夜会に出席した。君たちも参加していた夜会にね。私はどうしても彼女と婚約を交わしたいんだ。だから……君たちを攫った」

 「は?何それ、どういうこと?」

首をかしげるアメルダと私に、ラグドーナは続けて話した。

 「君たちは彼女のエサだよ。聞けば彼女は君たちをとても大切にしているそうじゃないか。なら、もし彼女が私との縁談を断った時のために君たちをあらかじめ攫っておけば……?そして、君たちを解放する条件を私との婚約だと言ったら……?」

 ラグドーナは、その表情に悪意という悪意を色濃く乗せると、間を置いてからこう言い放った。

 「彼女は私と婚約するしかないだろう?」

 だから私は君たちを誘拐したんだ、とラグドーナは続けざまに言った。そして、こうも言った。

 「だが…気が変わった」

 「何ですって?」

 「どういうこと…?」

 ラグドーナは嘲笑うかのように私達を見やると、何とも身勝手なことを言ってのけたのだった。

 「私は君たちをどうこうするつもりはなかった。…でも、あの小娘。断るだけでは飽き足らず、私のことを馬鹿にしたんだ!!小娘の分際で、だ!…許せるものじゃない!だから…彼女には一度絶望に陥ってもらいたいんだよ」

 本意の掴めないその発言に戯れたように、私はラグドーナに詰め寄る。

 「何が言いたいわけ?」

 「手短に言えば…君たちには少し痛い目にあってもらうと言っているんだよ」

 成る程、段々彼の意図が読めてきた。
私達を傷つけることによって、アルカティーナを絶望の淵へと追いやり…そしてそこへ私達の解放の条件にアルカティーナとの婚約を持ち出す。
 そうすれば見事、ラグドーナの願いは叶うわけだ。
アルカティーナという婚約者も、アルカティーナの絶望も。みんなみんな手に入る。

 でも、馬鹿ね。
そんな方法で取り付けた婚約が続くとでも思ってるの?
それに私達を誘拐した時点で、彼は立派な犯罪者。
貴族とは言え犯罪を犯せばそれなりの対価が返ってくる。下手したら一族国外追放よ?
 こんな穴だらけの作戦を立てるなんて、余程周りが見えてないのね。
…それ程にアルカティーナと婚約したかったってことかな?
ま、そこに愛がないのは明白だけどね。

 「どうだ?分かってくれたかなぁ」

 ラグドーナがジリジリと近づいてきた。
その顔気持ち悪いのよ!こっち来んな!!

 「君たちには悪いけど、痛い目に合ってもらう」

 「「……」」
 
 私を傷つけるのは別に構わない。だって命までは取られないんでしょう?
生きていれば何でもできるんだから、別にいい。
これはきっとアメルダも同じ。
 …でも、私たちが傷つけられることで、アルカティーナに弱みができる。
それに付け込まれたら、優しい彼女は自分の身を喜んで差し出そうとするだろう。
自分の婚約より私たちの方が大事だって言って、きっと彼女はラグドーナと婚約する。
 
 それだけは、嫌だ。

アルカティーナがこんなクズ男と婚約?ふざけないで!
アルカティーナみたいな子にはもっと良い人がいっぱいいるのよ!!
こんなクズ男にくれてやるものですか!
ましてやそれが自分たちを守るためだったなんてことになったら……私、耐えらんないよ?

 「恨むなら、あの小娘を恨むんだな」

私は、ティーナの重石になりたくないの。

 だから

 「おい、やれ」

「「は、はいっ!」」

 ラグドーナが男達に指図した直後。
私は、また例の作戦を実行に移した。

 「ねぇ、聞いてくれる?」

 ラグドーナ達を見ながらそう言うと、鞭やらロープやらをもって近づいて来ていた男達はピタリと足を止めてくれた。

 いい感じね。

 私は大きく息を吸い込んで吐くと、作戦の続きを始めた。

 「…私実は、変態なの」

 真顔でそう言うと、ラグドーナ達はポカーーーンと間抜け面のまま固まった。
よかった、上手く言えたみたい!
さっきまでずっとドMの演技してたけど、てか此れからもするけど、私演技下手なのよね…。
セリフというセリフがものすごい棒読みになっちゃうの。
 でも、これは上手く気持ちを込めて言えた!
何故って?
これはまぎれもない事実だからさ!
…自分で言ってて悲しくなってきたから、やめよ。
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 リサーシャの愉快な作戦はまだまだ(あと1話くらいです)続きます!ごめんなさい!
てか色々台無しだっ!リサーシャ出しちゃダメだ!
あとサブタイもあかん…!
話が全部コントになるよ!

 と言うわけで、リサーシャさんには謝ってもらいましょう。


 『御免なさい。私のせいで…でも、反省はしてません!だってこれが私なんだもの!!(キリッ…)』


 …だそうです。
うん、水瀬はいいと思いますよ?その自由奔放な生き方。

 さてさて、最近肌寒くなってきましたよね…。
こうなると今度は肉まん類が食べたくなるのです…ジュルリ
でもアイスも時々食べたくなります。
真冬に食べるアイスって美味しくないですか?
あと、ハーゲンダッ◯が期間限定で美味しそうなやつ出してくるんですよね…。水瀬はいつも買ってしまいます。

 余談はここまでとして、読んでいただきありがとうございます!
いやもう本当にありがとうございます…
是非とも此れからも良しなに…
 
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