聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
86 / 165
出会い編

しゃべったーー!

しおりを挟む
 パッと景色が変わる。
その瞬間にはもう既に、アルカティーナたちは地下へと降り立っていた。
辺りをぐるりと見渡すと、やはり薄暗い。
上とは違い多少灯りは灯っているものの、地下独特の湿気とぼんやりとしたその薄暗さはなんとも不気味だ。
 ただ、自分たちが飛ばされたのが廊下の一角であるということだけは見て取れた。

 「このかどをみぎにまがって~、つきあたりのへやに、ふたりともいるよ!」

 「ありがとうございます、聖霊さん!」

 「えっへん!どういたしましてー」

 「こんどはあそんでね!」

 「またね!」

 「ばいばい!」

 口々に別れの挨拶をしてから魔法陣へと消えていった聖霊たちを見送ってからアルカティーナは騎士たちと向き合った。

 「今は人もいないみたいですし、今のうちに先を急ぎましょう」

 『すごい!2回もテレポートを体験してしまった!』と心中で神輿を担ぎワッショイしていた騎士たちも、その言葉に気を引き締めた。

 「そうですね。…よし、誰もいないな。行こう」

 右をちらりと確認した騎士の言葉に従い、一同はぞろぞろと角を曲がっていった。
と、その時。

 『警告、警告。侵入者を確認!任務を実行します』

そんな内容のアナウンスが流れた。
騎士たちは動揺に陥る。

 「こんな所に仕掛けだと!?」

 「そんなバカな!」

 こんな廃墟にそんな防犯設備があるとは夢にも思わなかったのだろう。
全てが予想外の出来事だった。
 そして、そんな彼らを更に煽り立てるように、ドドドドドド………と何か重量のものが近づいてくるような、そんな地響きが辺りを襲った。
そしてそれがおさまったと思えば、代わりに目の前に巨大なロボットが現れた。
人の五倍くらいはあるだろうか。圧迫感が半端ない。
 異世界とはいえ、この世界には一応ロボットという概念はある。しかしその技術は地球の足元にも及ばない。
最先端の技術をもってしても『きのこ収穫ロボット』が限界だ。
因みに『きのこ収穫ロボット』はどこぞの国の重役が、意図せず執務室にきのこを生やしてしまうことから作られたものだ。
その人物は『きのこ収穫ロボット』を手に入れ、大変重宝しているらしい。
 さて、話を戻そう。
そんな彼らの前に今現れたロボットについてだ。
そのロボットは、いろんな意味で規格外だった。

 まず第一に、そのロボットは走ってやって来た。
この世界に自力で走るロボットなど公には存在しない。
それだけで、彼らを驚かせるには十分だった。
だが、要因はそれだけではなかった。
ロボットを目にした騎士たちは、立ちはだかるロボットを見上げ、あんぐりと口を開けたかと思えば、一斉に叫んだ。

 「「「「きもちわるっっ!!!」」」」

 ギョロリと大ぶりの目は焦点が合っておらず、それを縁取るのはキラキラとしたラメ入りの派手なアイライン。
 頰には何を思ったのかナルト(食べ物)のような印が刻まれており、髪の毛は虹色のもっさりアフロ。
 まつげはどこのギャルだと突っ込みたくなるほどバッシバシで、その色までもが見事なレインボー。
 口裂け女のように大きな口はニヤリと怪しげな弧を描いており、真緑。

 そう。あまりにも、気持ち悪い。

 その上、そのロボットは焦点の合わない目の片方を騎士たちに留めたかと思うと……なんと、懇切丁寧に自己紹介をし始めた。

 「初メマシテ。私ハ、マドモアゼル。ヨロシク。キョエ~~~ケケケケケケッケッケ!!!」

 「「「「いぃぃーーーやぁあああああ!!しゃべったーー!」」」」

 騎士たちは悲鳴をあげた。
しかしロボットはそれには構わず、気味の悪い奇声を発しながら矢張り気味の悪いダンスをし始めた。

 「キョエ~ケッケケッケッケ~~」

 気持ち悪さ、100倍である。
そもそも何故ダンスをするのか、騎士たちにはわからなかった。
いや、その場の誰もがそれを理解できなかった。

『任務を実行します』というアナウンスがあったが、まさかこれが任務か!?!?
そんなバカな!!!

一同は、動揺していた。

 しかし、ずっと狼狽えているわけにもいかない。
1人の勇敢な騎士が飛び出した。

 「これでも喰らえっ!!」

 そう叫び、未だ気色の悪いクネクネダンスの真っ最中であるマドモアゼルに剣を突き立てようとしたが…

 「くっ…か、固い!?」

 「キョエ~エ~~!」

 剣は突き刺さるどころか、マドモアゼルに傷一つ付けることもできなかった。
どうやら余程頑丈な素材でできているらしい。

 このままでは、埒があかない。

騎士達は焦り始めた。

 「まずいぞ!剣が通らないなんて…!」

 「くそっ!どうすれば…」

 そんな中、ふとゼンはある可能性を見出した。

 「お嬢!」

自分達の武器が役に立たないのなら…

 こんな規格外ロボの相手をできるのはアルカティーナくらいだろう。

ゼンは、アルカティーナに全てをかけることにしたのだ。

 「お嬢!何か打開策はないか?」

 ガクガクとゼンに揺さぶられ、それまで何故かボンヤリと沈黙を貫いていたアルカティーナは弾かれたように顔をあげた。

 「…わかりません。でも、やるだけの事はやってみます。この場はわたくしがなんとかしてみせましょう!」

 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



…………あ、あれっ??
アルカティーナの見せ場は…?
あれれ?おかしいぞ。
まだ見せ場の途中だよこれ。
というか、これからが見せ場だよ。
どうしよう、許しておくんなまし。

 さ、さぁぁーて!
次回予告をしちゃうぞー!…ぞー。

 次回は

なんと!!!

ティーナの見せ場だよ!!

 
……はい、ごめんなさい。
次こそは本当に本当にそうです。


 因みに、今回のお話で何故アルカティーナがずっと黙っていたのかについては後で理由がわかる仕様となっております。

 
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...