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出会い編
ディールとステファラルド
しおりを挟む私ことステファラルド・クザーレスは今日も今日とてディール殿下の執務室にいます。
「ディール殿下、本当に良かったのですか?彼を新しい聖女候補様の下へ派遣してしまうなんて」
ルーデリア王国の要、ルーデリア城。
私は有難いことに、そこで働かせて頂いている身です。噛み砕いて言えば、私はこの国の第一王子殿下に側近として仕えているのです。リリアム学園に通う私の能力を、同じく学園の生徒でいらっしゃるディール殿下が見初めてくださり、今現在こうして側近としてお側にいるという訳です。
「彼というのはもしかしてローザス殿のことか?」
椅子に腰掛けながらそう問いかけるは我らがディール殿下です。殿下は、まだお若くいらっしゃるのにとても有能な方で、今日も既に仕事を終えていらっしゃいます。こんな方に仕えられるなんて、私も光栄というものですね。
「はい、そうです。殿下は前回の緊急会議の際、彼を新しい聖女候補様…ロゼリーナ・アゼル様の護衛役にしようと提案なさいましたよね?」
「その通りだな」
「彼はアルカティーナ様の護衛役になる予定だったでしょう?それが陛下の鶴の一声で取りやめになり、ローザス様もガッカリされていました」
ローザス・メトリス様はお若いとはいえ正真正銘の聖騎士でいらっしゃいます。メトリス家は代々、聖騎士を輩出してきた歴史ある家なのです。ローザス様も家の伝統に従って聖騎士に。彼自身もアルカティーナ様という聖女候補の登場に胸を躍らせたそうですが、あのお方が彼女の護衛役に任命されたことでそれも無惨に散りました。
「はは、さすがに良く調べているな。ああ、立ち話も何だから好きに座ってくれ」
お褒めに預かり光栄です、では遠慮なく、と言いつつ私は殿下に促されるまま、椅子に腰掛けます。流石は城の椅子。何度座っても座り心地が他とは比べ物になりませんね。
「それでステファー?結局何が言いたいんだ?」
他に何か言いたいことがあるんだろう?
穏やかな笑みを浮かべながら諭すようにそう仰る殿下は流石に鋭くていらっしゃる。
「ローザス様はこの国唯一の由緒正しい聖騎士でおられます。そんな希少な方を何故ロゼリーナ・アゼル様に?」
思い切って伝えてみると、殿下は苦笑なさいました。
「ははは、ステファーは随分とロゼリーナ嬢を軽視しているようだな。…いや、アルカティーナ嬢を彼女よりも遥かに上に評価しているから、か」
「………」
図星で、声が出ないとはこのことです。
私はアルカティーナ様を素晴らしい方だとお見受けしています。直接お話ししたのは一度きりですが、それだけで人の善し悪しというものは何となくわかるものなのです。彼女からは、隠しきれないほどの綺麗な人柄が感じられました。
ーー成る程、これが聖女候補様か
そう納得させられたものです。
私は幸運なことに他国の聖女候補様にお会いしたことがありますが、アルカティーナ様ほどのものは感じませんでした。勿論、常人とは比べ物にならないほど人が良いとは思いましたが、それでもアルカティーナ様の足元にも及ばないのです。
だから、私はアルカティーナ様を過剰なまでに評価しています。
あんなに美しい方が彼女以外に現れるとは思えないから。
「そうか。まあ、そうだろうな。アルカティーナ嬢は……唯一無二の存在だと、私もそう思う」
何処か嬉しそうにそう仰る殿下は不思議な表情でした。何だか泣きそうで、誇らしげで、懐かしそうな。
そんな表情でした。
「だが、それとこれとは別だ。彼は希少な存在だからこそ、今度こそ護衛役になるべきだろう?それに、ロゼリーナ嬢もアルカティーナ嬢と同じ、聖女候補だ。軽んじる理由もない」
「それは分かっています。ですが…ロゼリーナ様の護衛役に任命された時の、ローザス様の表情がーー」
「ああ、あれは流石に心が痛んだな。何と言っても彼はーー」
そこまで言って、私も殿下も口をつぐみました。
あの時のローザス様のお顔が、鮮明に頭に浮かび上がってきたからです。
そこで殿下も苦い顔をなさいましたから、殿下も同様に彼のあの表情を思い出したのでしょう。
あの、苦しそうな表情を。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
何故ローザス・メトリス君は何故そんな表情だったのか?
それは次のお話で!
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