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出会い編
それ、もはや乙女ゲームじゃないんじゃ…
しおりを挟む翌日から、リサーシャとアルカティーナはティータイムと言う名の作戦会議を開始した。その名も『バッドエンドを回避しようの会』である。
「そもそもティーナはゲームのことをどのくらい知ってるの?前にプレイしたことはないって言ってたけど、本当に全く知らないの?」
リサーシャの問いかけに、アルカティーナふるふると首を振った。
「いいえ。ちょっと諸事情がありまして、登場人物の特徴とキャラはひと通り知ってます」
流石にナビにマニュアル本もらいました~なんて言えませんから、誤魔化しはしましたが嘘はついていません。アルカティーナの表情から何かを察したのか、リサーシャは「そっか」とただ一言呟いた。
「なら、シナリオとかは知らないってことね?」
「はい。一切知りませんね」
この世界のルールだというマニュアル本に記載されていないことに関しては、アルカティーナは全く知識がない。バッドエンド回避のためにもここは是非、リサーシャの力を借りたかった。
「うん、わかった。キャラを知ってるってだけでも大分楽だと思う。因みに登場キャラの見た目はわかる?」
「見た目は…特徴は覚えてますけど、一目見て登場キャラかどうかは判断出来ません」
「よし。だったらまずは、私がそれを享受しようじゃないか!!見た瞬間誰が誰かを把握出来てないと回避できるフラグも回避できないからね」
言いつつ、リサーシャはテーブルの端に用意してあった紙とペンを持つと何やら描き始めました。筆の運び方からするに、恐らく絵を描いていると思われます。
そして数分後、彼女は描き上がった数枚の紙を自慢げにアルカティーナに渡した。
「はい!これがキャラの名前と見た目ね!分かりやすくキャラごとに分けておいたから!」
「定期的にまた覚えてね」と念を押してくるリサーシャに、アルカティーナは戸惑いの目を向ける。
ど、どうしよう。
絵が下手すぎて分からないなんて言えませんよ…!
小学生が描いた絵と見紛う程のクオリティーの紙たちをアルカティーナはひたすら眺めた。すると何を勘違いしたのか、リサーシャは照れながらアルカティーナの肩を軽く叩いた。
「もうやだティーナったら~!そんなにまじまじ見ないでよー。ま、まぁ?私の画力は半端ないから気持ちはわかるけどね!」
アルカティーナはリサーシャに哀れみの気持ちを込めて、微笑みながら静かに言った。
「リサーシャは…画伯ですね」
「でっしょ~~~??前世でもよく言われた!」
嘘は、ついてませんよ?
気を取り直して二人はテーブルを挟みながら作戦会議を再開する。
「次はシナリオに関して教えるね。まず、ゲームの舞台になるのはリリアム学園。学園は初等部、中等部、高等部の合わせて三つに分かれているの」
リリアム学園は、わたくしたちが春に入学する予定のセレブ校です。貴族のご令嬢やご令息の方々に加えて将来有望な優秀な平民の方々も通うエリート校でもあります。
「はい、それについては大体知ってます。合わせて六学年あるんでしたよね?」
「ええ、そうよ。因みに、攻略シナリオが始まるのは中等部から。だから本格的なゲームが始まるまで、実はまだ二年ちょっと猶予があるの」
「え!?そうなんですか!?」
それは初耳ですよ。
てっきり初等部からガンガンシナリオに入るものだとばかり思っていました。
「そうなの。知ってると思うけど中等部からはクラス分けが細かくなるわ。『貴族科』『騎士科』『特進科』『研究科』の四つね。ヒロインがどの科に行くかによって、攻略できるルートが変わるの」
「成る程…じゃあ初等部の間は一体何をするのですか?もしかしてフリーダムです?」
「違う違う。初等部の間は、お試し期間なの。色んな攻略キャラと接して、どのキャラのルートに入るかを決めさせる期間ね。キャラが決まったら今度はそのルートに入るための準備をするの」
「準備って何ですか?」
すると突然リサーシャは遠い目をした。
具体的に言うと、リサーシャの目は死んでいた。
「あれは……もう乙女ゲームなんてもんじゃなかったわ」
「はい??」
「例えばだけど、ディール様ルートに入りたいとするでしょ?そしたらね、中等部からは『貴族科』に入る必要があるの。知っての通り、中等部のクラス分けは科目別の試験結果によって決まるわ。だから、ヒロインは『貴族科』に分類されるためのステータスを蓄えないといけないの」
「ステータスを…蓄える??」
キョトンとしたアルカティーナに、リサーシャは未だ虚ろな瞳を向けて笑った。その笑みは力が入っていなくて妙に怖い。
「『貴族科』に入るためには、礼儀作法の試験の成績を常に八割以上で保っている必要があるの。『聖霊のアネクドート』ではその試験を実際にプレイヤーにやらせるのよ。ダンスのテストでは急に画面に『クイック』とか『スロー』とかいうボタンが出てきて、タイミングを間違えると相手の足を踏んじゃうの。踏んだら即不合格よ」
「は??」
「因みに『騎士科』に入りたいならゲーム画面が急にバトルゲームに大変身するの。三十人以上の生徒に実技で勝ったらめでたく『騎士科』に合格よ。乙女ゲームやりたくて買ったのにバトルゲームをさせられる、あの遣る瀬無さ……!!忘れられない!」
「それ、もはや乙女ゲームじゃないんじゃ…」
アルカティーナの弱々しい声に、リサーシャはカッと目を見開いた。
「私も何百回とそう思ったわ!でも…でもね……あのゲーム、ずるいのよ…っ!!」
「ずるいというのは?」
「『聖霊のアネクドート』はね。初等部のゲームはクソだけど、中等部からのシナリオが神なのよ!あとキャラも、ボイスもBGMも背景も、文句の付け所がないくらい神ゲーなの!ずるいのよ本当に!」
リサーシャ曰く、どのくらい神ゲーだったかと言うと、初等部の時のクソさを還元できてかつお釣りがガッポリくるくらい神ゲーだったそうな。
「特にあのディール様ルートの大恋愛エンド!!最高だったわ!泣いたわ!畜生、イケメンなんだよあの人……………!!好きだ!」
その後は永遠とリサーシャの推しだったというディール殿下の素晴らしさについて教えられ、その日の会議は終わったのでした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
リサーシャの推しキャラはディール様。
ヒロイン様の推しは隠しキャラ様。
現時点ではリサーシャにもアメルダにもヒロイン様にも、誰かとくっついてもらおうと考えてはいますが……と言うか、相手は既に決まっていますが…。
さて、どうなるんでしょうね!
私にもわかりません!ふははは!
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