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9.猶予のない現実
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だだっ広い中庭を通り抜け、屯所の入り口と思われるとても大きな扉を開けると、そこはまた広く大きな空間だった。
「…うわ、広っ。」
無意識にそう呟いてしまう。内部の構造はもはや宮殿のようであり、奥行きが広く感じられる建物だ。
足下に目をやると敷き詰められた絨毯が赤い色彩を放っていた。
そのまま先を見通すと目に入るものは巨大階段。日本の学校の階段の幅、それの3倍、4倍くらいの広さの階段が上階と下の階を繋ぐ役割を果たしている。
上に視線を向ければ、様々な色合いで塗りつけられた窓ガラスが気品さをより漂わしていた。外からの日光との反射が相まって華やかさを引き立てている。
まるで高貴族の大屋敷。そう印象づけられる建物だ。日本の交番顔負けである。
物置から座椅子、机にまで上品さが醸し出される。
そんな屋内の景色に見惚れていると、こちらに声がかけられ、
「このくらい普通よ。こっちよ。着いてらっしゃい。」
周りの情景と同調した身なりを着飾っている衛兵レイネルの呼びかけ。
それに対して、俺は思わず呟いて、
「これが普通ってこっちの常識どうなってんだよ…」
「あら?勘違いしないでほしいわね。これはあくまで私にとっての普通って意味なだけよ。あなたみたいな無職には不慣れな場所でしょうけどね。」
「………」
レイネルの見下すような発言。それに対して俺は敵意を抱いた目線を突き刺すが、レイネルは「フン」と吐き捨て顔を背ける。
なんだ戦争か?お?やんなら、やってやんぞ?あ?
前を歩くレイネルの後頭にガンを飛ばしながら俺はついていく。ジャージのポケットに手を突っ込みながら膝を曲げてガツガツ歩く姿はまさしくチンピラのそれだ。
「………………ぐっ」
自分を客観的に見るとなんだが恥ずかしくなってきた。というより周りの目線が痛い。
屯所内部にいる何人かの衛兵の人達に先ほどからジロジロと目を向けられている。
ヤバイ、この歩き方、まじで恥ずかし燃え上がりそう。
うん、普通に歩こ。
ただでさえ、先程のレイネルとの言い合いで少しばかり周りの目をひいたのだ。自重しなければいけない。今はクールにいくのだ。
「ちょっとここでまってなさい。」
ある程度内部を歩き、巨大階段の横まで来るとレイネルから待機せよとの声。壁際を見ると、いくつかの扉が見受けられた。その中の一つにレイネルは進み、コンコンと扉を叩き中へと入室する。
一人残され、突っ立っている俺。特に何もすることもなく見慣れない周りの景色に視線を巡らせている。
だが、転機というものは急に訪れるものであり、
「……ッ⁈」
俺は直ちに自分の体内で緊急警報が発生したことを確認した。一瞬のうちに脳が体内の状況を理解する。異常事態発生だ。これは本気でまずいことになった。このままでは
「このままじゃ、取り返しのつかないことになる…」
まずいまずいまずい。これはまずい。どうしてこんなことになった。
俺はきつく眉にしわを寄せる。腹に力を込め、出来る限り今自分にできることをやる。
現在進行形で俺の体を苦しめるこの異常事態に少しでも抗うために。
おそらく今の俺の表情はとても引き締まっており凛々しくなっているだろう。
いや!今はそんなの関係ない!
「……はっ!」
そんな俺が一人苦悶している中、レイネルが入った扉とは違う箇所から一人の男性が部屋から退出してきた。
柔和な雰囲気を持ち合わせているような水色髪の好青年。おそらく、服装的に衛兵だろう。
「…ちょ、ちょっと!」
俺は随一のチャンスだと見るや否やすぐさまその青年に呼びかける。青年は一瞬、俺を見て困惑と動揺が混じった態度。しかし、それから「どうしました?」と丁寧口調で返してくれる。
なんだよ。この人。めっちゃ敬語使うやんけ!めっさ礼儀正しいやんけ!どっかの金髪のレイなんとかさんとは大違いだ!
じゃなくて!
俺は首を横にぶんぶん振り、優しげな青年に話しかける。
「用を足したいんだけど、その…する場所ってどこかな?」
「えっ。あぁ。それならあちらの方に向かわれるといいかと。そこにトイレはありますので。」
「あっち?」
青年が指差す方向。そこに俺も顔を向け、同じく指を差して確認する。
「…ええ。」
「ありがとう。この恩は一生忘れない。」
感謝の言葉を伝え終わると同時に颯爽と走っていく。行き先は今の状態をすっきりさせることのできるあの場所だ。
「…そんな大袈裟な」
青年がポツリと言った言葉は俺の耳には届かなかった。
ーーーーーーーーーー
「…なん、だと。」
俺はそこでただ立ち留まっていた。
青年の指差す方向へ一直線に向かい、すぐさまこの体内を蝕む緊迫感を排出しようと試みる。試みようとしたのであるが、
「どっち…?」
俺はトイレと思われる扉の前で頭を抱える。
なぜなら、男子トイレと女子トイレ。その区別ができないのだ。
扉に描かれている文字。おそらくあれが男子女子を判別させる言葉なのだろうけれど。
何あの文字?どこの古代文字?古代ギリシア語ですか?(違う)
そう。文字が全く読めないのである。言葉は通じるが読み書きができない。これも異世界転生定番の設定か。
くそがぁ。ふざけんな、こっちは切羽詰まった状況だってのに!
世界の理が俺を邪魔してくる。読み書きもできる設定にしとけよ。コン畜生!
胸中で誰に向けられているのかもわからない文句を垂れるが、体内の異常事態は刻々と進行している。早くしなければ、このトイレの前で大惨事を起こしかねない。
5割の可能性で男子トイレに入れるが残りの5割を引いた場合のリスクが高過ぎる。
しかし、確実に尿意の危険度が増しているのも事実。
どうする?どうすればいい?
「…うわ、広っ。」
無意識にそう呟いてしまう。内部の構造はもはや宮殿のようであり、奥行きが広く感じられる建物だ。
足下に目をやると敷き詰められた絨毯が赤い色彩を放っていた。
そのまま先を見通すと目に入るものは巨大階段。日本の学校の階段の幅、それの3倍、4倍くらいの広さの階段が上階と下の階を繋ぐ役割を果たしている。
上に視線を向ければ、様々な色合いで塗りつけられた窓ガラスが気品さをより漂わしていた。外からの日光との反射が相まって華やかさを引き立てている。
まるで高貴族の大屋敷。そう印象づけられる建物だ。日本の交番顔負けである。
物置から座椅子、机にまで上品さが醸し出される。
そんな屋内の景色に見惚れていると、こちらに声がかけられ、
「このくらい普通よ。こっちよ。着いてらっしゃい。」
周りの情景と同調した身なりを着飾っている衛兵レイネルの呼びかけ。
それに対して、俺は思わず呟いて、
「これが普通ってこっちの常識どうなってんだよ…」
「あら?勘違いしないでほしいわね。これはあくまで私にとっての普通って意味なだけよ。あなたみたいな無職には不慣れな場所でしょうけどね。」
「………」
レイネルの見下すような発言。それに対して俺は敵意を抱いた目線を突き刺すが、レイネルは「フン」と吐き捨て顔を背ける。
なんだ戦争か?お?やんなら、やってやんぞ?あ?
前を歩くレイネルの後頭にガンを飛ばしながら俺はついていく。ジャージのポケットに手を突っ込みながら膝を曲げてガツガツ歩く姿はまさしくチンピラのそれだ。
「………………ぐっ」
自分を客観的に見るとなんだが恥ずかしくなってきた。というより周りの目線が痛い。
屯所内部にいる何人かの衛兵の人達に先ほどからジロジロと目を向けられている。
ヤバイ、この歩き方、まじで恥ずかし燃え上がりそう。
うん、普通に歩こ。
ただでさえ、先程のレイネルとの言い合いで少しばかり周りの目をひいたのだ。自重しなければいけない。今はクールにいくのだ。
「ちょっとここでまってなさい。」
ある程度内部を歩き、巨大階段の横まで来るとレイネルから待機せよとの声。壁際を見ると、いくつかの扉が見受けられた。その中の一つにレイネルは進み、コンコンと扉を叩き中へと入室する。
一人残され、突っ立っている俺。特に何もすることもなく見慣れない周りの景色に視線を巡らせている。
だが、転機というものは急に訪れるものであり、
「……ッ⁈」
俺は直ちに自分の体内で緊急警報が発生したことを確認した。一瞬のうちに脳が体内の状況を理解する。異常事態発生だ。これは本気でまずいことになった。このままでは
「このままじゃ、取り返しのつかないことになる…」
まずいまずいまずい。これはまずい。どうしてこんなことになった。
俺はきつく眉にしわを寄せる。腹に力を込め、出来る限り今自分にできることをやる。
現在進行形で俺の体を苦しめるこの異常事態に少しでも抗うために。
おそらく今の俺の表情はとても引き締まっており凛々しくなっているだろう。
いや!今はそんなの関係ない!
「……はっ!」
そんな俺が一人苦悶している中、レイネルが入った扉とは違う箇所から一人の男性が部屋から退出してきた。
柔和な雰囲気を持ち合わせているような水色髪の好青年。おそらく、服装的に衛兵だろう。
「…ちょ、ちょっと!」
俺は随一のチャンスだと見るや否やすぐさまその青年に呼びかける。青年は一瞬、俺を見て困惑と動揺が混じった態度。しかし、それから「どうしました?」と丁寧口調で返してくれる。
なんだよ。この人。めっちゃ敬語使うやんけ!めっさ礼儀正しいやんけ!どっかの金髪のレイなんとかさんとは大違いだ!
じゃなくて!
俺は首を横にぶんぶん振り、優しげな青年に話しかける。
「用を足したいんだけど、その…する場所ってどこかな?」
「えっ。あぁ。それならあちらの方に向かわれるといいかと。そこにトイレはありますので。」
「あっち?」
青年が指差す方向。そこに俺も顔を向け、同じく指を差して確認する。
「…ええ。」
「ありがとう。この恩は一生忘れない。」
感謝の言葉を伝え終わると同時に颯爽と走っていく。行き先は今の状態をすっきりさせることのできるあの場所だ。
「…そんな大袈裟な」
青年がポツリと言った言葉は俺の耳には届かなかった。
ーーーーーーーーーー
「…なん、だと。」
俺はそこでただ立ち留まっていた。
青年の指差す方向へ一直線に向かい、すぐさまこの体内を蝕む緊迫感を排出しようと試みる。試みようとしたのであるが、
「どっち…?」
俺はトイレと思われる扉の前で頭を抱える。
なぜなら、男子トイレと女子トイレ。その区別ができないのだ。
扉に描かれている文字。おそらくあれが男子女子を判別させる言葉なのだろうけれど。
何あの文字?どこの古代文字?古代ギリシア語ですか?(違う)
そう。文字が全く読めないのである。言葉は通じるが読み書きができない。これも異世界転生定番の設定か。
くそがぁ。ふざけんな、こっちは切羽詰まった状況だってのに!
世界の理が俺を邪魔してくる。読み書きもできる設定にしとけよ。コン畜生!
胸中で誰に向けられているのかもわからない文句を垂れるが、体内の異常事態は刻々と進行している。早くしなければ、このトイレの前で大惨事を起こしかねない。
5割の可能性で男子トイレに入れるが残りの5割を引いた場合のリスクが高過ぎる。
しかし、確実に尿意の危険度が増しているのも事実。
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