異世界転生した俺はまったりスローライフを送りたいのだが案外修羅場だらけであり

D・D

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10. 駆け引きは慎重に

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男子トイレと女子トイレ。その区別ができないという現状はだいぶ致命的ではなかろうか。

いや、まず文字が読めない時点で相当な難点なんだけど。
ヤバイな、俺これからこの世界でやっていけんのかね。

「…………」

待て待て、そのような懸念は今のこの状況が済んでから考えよう。
文字とかは後でいくらでも学んでやるから、とりあえず今は男と女の文字を教えてほしい。
じゃないと、下半身を苛むこれを扉の前でさらけ出してしまう。

「……………」

それだけは絶対やだ!

ちなみにこれはあくまでも余談だが、俺は女子トイレに入った経験はある。あぁ、勘違いしないでほしい。しっかりと許しを得た上で、だ。

あれは、バイトの閉店作業、その清掃としておれはよくトイレ掃除に抜擢されていた。
副店長の「今日もトイレ掃除お願いね」と、微笑みながら頼まれてしまっては流石に断れもしないだろう。
ちなみにそこのバイトは1カ月経たずにやめてしまったがな。

「…じゃなくて、ふざけてる場合じゃない!」

股の間に手を添えなければこの場でスッキリしてしまう事態にまできている。

第三者から見ると、何とも無残な姿だろうがそんなこと知ったこっちゃない。
こっちは抜き差しならない状況なんだよ!

「……くっ」

俺は首を振り周りに人間がいないか確認した。
幸い、このトイレの位置は多勢の目から離れたところに設置されてある。だから、今の俺の情けない体勢は誰も見ていない。

落ち着け。大丈夫だ。俺。
そう、焦ってはいけない。この状況をよく考えるんだ。

扉の選択肢は二分の一だ。右か左のどっちかだ。
つまり、5割。
ソシャゲのSSRキャラだったり星7以上のキャラを当てる方がよっぽどきつい。

そう考えると確率的に低くないとは思わないか?

それに、俺の生まれ育った日本という地にはこんな言葉があるじゃないか。

右左の分かれ道。その未知の道を選ぶ時には無意識に人間は左を選んでしまうのが普通。
だから、あえてここは右を選ぶのが定石。
かの有名な作品から抜粋。クラ◯カさんの言葉だ。

よし、そう考えると迷いなんてもうない。
そして、下のあれも限界だ。立ち止まることなくおれは行くぜ!

「ホーリーチェェエエエエン!!!」

意を決した声音を上げ、勢いよく右の扉を開ける。

そして、花の香りが匂ってきたのをおれは瞬間的に感じとった。

んん?うん?おかしいな、トイレってこんなだっけ?

勢いよく入ったその空間。綺麗に物々が置かれており、汚れもあまり目立たない。だが、そんなことよりもっと気にかかることがあったわけで、

あれ、なんで小便器ないの?

元の世界の男子トイレには小便器は必ずあった。だって男の子はそれでトイレするからね。

しかし、ここにはそれが見当たらない。

あれー?この世界には小便器って概念ないのかな?
みな個室にこもって用を足すのかな?

と、いうように自分なりに解釈する。

けれども、さすがにもうやめようと己の中の心がそう告げていた。

これは現実逃避だと。ここは男子トイレではないと。

「普通に間違えた……」

女子の花園の中での独り言。それも男子一人での。とてもやばい光景だ。

「……っ!」

俺は即座に振り向き扉に手をかける。すぐさまここから出るためにだ。

大丈夫だ。誰にも見られていない。すぐにここから出て反対側の扉に入っちゃえば無事終了。一件落着だ。
俺は罪を犯してなぁい!

しかし、

「あん?」

一息に扉を開けてもう一つの方へ行こうとした俺。しかし、扉の前にいた者たちに行手を阻まれてしまっていて、

「誰だ?あんた。てか、そんなところで男児が何をしているのだ?」

「いや、えと、ちょっと間違えまして。すいません。」

「あぁ、そうか。気をつけな……………………て、ちょっと待て。」

「あがぁっ!」

そそくさと女子トイレから出て行こうとする俺。しかし、前にいた人物に足をかけられ盛大に転げてしまう。

「見苦しい。見苦しいぞ、言い訳が。もっとマシな発言はないのか、貴様。」

「メラちゃん、この人の心中も察してあげなよ。年頃の男の子がこの扉から出てきた、つまりはそういうことだよ。」

「………うぅ、怖い。」

転げ落ちた俺を見下ろすのは衛兵服を着こなした三人の女性だ。

一人は口調が鋭く目つきも鋭い濃い青色の長髪がたなびくメラと呼ばれた女性。
なんだろう。なんとなくだけどこの人学級委員長向いてそう。いや、生徒会長も向いてそう。

もう一人は朗らかな口調で割と容赦ない言葉を告げた、明るい黄色が眩いロール髪の女性。
なんだろう。この人は朗らか天然系タイプだな。
フワッフワッしてる印象を持つ。さっき何気に俺、ディスられた気がしたけど。

三人目は、ロールヘアの女性の後ろでポツリと言葉をこぼした、茶色のショートヘアの女性だ。
俺を怖がっているのか、おどおどしている様子が見てとれる。絶対にその場から前に出ないという強い意志を感じる。つーか、ちっさいな背も胸も。
この子は見たまんまビクビクおどおど系だ。心霊スポットとか行ったら失神しそうな子だなぁ。

「貴様、何の用件があってここに入っていたのだ。
誰かに頼まれたのか?いやしかし、その線は薄いな。さすれば、生粋の変態か?」

「メラちゃん、メラちゃん、変態だなんて…、あまり本当のことを言わない方がいいよ。」

「しかし、ルネル。私はこやつを処罰せねばならないと心の奥底が語っているのだ。私の教訓の中ではこのような輩は罰せよとご教示されている。」

「…メラちゃんは真面目だねぇ。まあ、でもこの人の弁明も聞いてもいいと思うけどな。いったい何を間違えてこの場所に入っていたのかぁ、とかとか。」

「む、たしかに、ルネルの言うことも一理ある。こやつのような変態の申することなど少しも利がない気もするが、しかし、いきなり誅するのもいささか無謀であったな。ミリイもそれでいいか?」

青髪女性メラが後ろに目を向けて縮こまっている茶髪のミリイに確認。

「………うう。メラちゃんがそれでいいなら。」

ルネルと呼ばれた者の後ろから微塵も動かず、おどおどミリイはメラの意志を尊重する。

「よし。ならば、聞こう。おい、貴様。貴様はいったい何用でこの女子専用のトイレから出てきたのだ。経緯を聞こうじゃないか。」

膝を曲げ、転げたまんまの俺と目線を同じにするメラ。
見下してる時も思っていたが、近くにくると余計に怖い。鋒のように突きつけられた目線が怖い。

やばぁい!何この状況!何この追い詰められているこの状況!
怖いよ。目の前のこの人怖いよ。瞳の奥が暗黒だ。
ヤンキーに威圧された時ってこんな感じなのかな。
蛇に睨まれたカエルの気持ちがよくわかるよお。

「メラちゃん、メラちゃん。その人、萎縮しちゃってるよ。そんなんじゃ、多分声出せないと思うよ?それとも、まともな言い訳がおもいつかないだけなのかなぁ?」

ニコニコ笑顔のフワッフワッした声音で手厳しいことを言ってくるロール髪のルネル。
嘘っ。その口調で、その見た目で毒舌なの?

「むむ。そうか。私とした事が少しばかり仕損じたな。」

そう言うと、メラはしゃがんだまま少しだけ後退りをし、

「さあ、言え。内容によっては貴様を切らなければならない。」

いや、怖えよ。言うこと為す事全部怖えよ。さっきのルネルとやらが助言した言葉をどう理解したのこの人。相変わらず睨みつける目線は顕在だし。

ええと。まずいな。どうすればいいのこの状況。
一人は俺をまっすぐ睨めつけてくるし。
あとの二人は上から見下ろしてくるし。

女子トイレの真ん前で。

なんで俺はこんな事に。













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