異世界転生した俺はまったりスローライフを送りたいのだが案外修羅場だらけであり

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20.宥めて あやして どうどう

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「…テトナ、もう魔法解いたげて。」

幼女と幼女の壮絶な光景。そこに制止を促したのは、場を静観していた、レイネルの声音だった。

はあと嘆息しながらテトナにささやかれるレイネルの言葉。それを聞き俺は、ホッと胸を撫で下ろした。

まあ、コラル先生の土下座はもう見たくなかったし。ちょっと、ほんの少ーし、不憫さが醸し出されてる感じがしてるし。

コラルの悶絶している様子に気を配ったレイネルは肩を竦めつつ、テトナに慈悲の心を助長する。

けれども、それを聞いたテトナはこちらを向くとハテナという表情と共にキョトンと首を傾げた。

「…もう、魔法使ってないよ?」

ええ?でもでも、猫耳コラルはまだ地べたをガン見したまんまだよ?
全然こっちに顔向けないよ?

などと、俺は不可解に猫耳幼女を見遣る。
見た感じコラルは未だに土下座の状態なのだが。

しかし、一方でレイネルは額を指で押さえながらため息のみをそこに残す。
それからしゃがみ込みコラルの方へ顔を向けると、

「コラル先生、勝負はもう終わりましたよー。」

柔らかな呼び声でコラルの様子を伺った。

「にゃああぅぅぅ。」

レイネルのあやすような声音。
けれども、それに応じるのは震える獣の唸り声だけだった。
地に反発し、こちらに聞こえた声音には野生のような雰囲気が交じっている。
まあ、特段、怖さはない。確か、近所の猫が威嚇の際に放つ鳴き声ってこんな感じだったなぁ。

なんて、昔のことに浸っている場合じゃないんだけど。

そんな俺を他所に、レイネルが「おーい」や「コラル先生?」などと返事を求めるがそれに応じられるのは依然として猫の鳴き声のみ。

掛けられる言葉に「うぅ~」とか返答にもなってない唸り声しか言わない始末。

あれれ?テトナの「魔法をもう使っていない」という発言から察することができるようににコラルはもう念魔法の縛りからは開放されているはずなのだけど。
それでも地に額を付けたままってことは意識的に蹲っているってことになる。

というか、意地でも顔を上げないという意思を感じる。
蹲ったまんま動かないことを貫き通すかとでも言うように。

コラルは地に伏したまま。
これはそういうことですかね。

「…………」

コラルの埋まる様子を見遣る俺やらレイネルやらテトナ。

そして、俺とレイネルに至っては「あぁ…」とため息まじりに訝しげな面持ちを浮かべる。どうやらレイネルさんも俺と同じ心境のようだ。

いや、まあ、ね。
なんでコラルは顔あげないのかなー?なんーて疑問はある。そりゃ、あるよ。

あるけど、…コラルが下を向いたまんまの理由はだいったいなんとなく察してはいるんだわな。
多分、レイネルも分かっていた。

 まあつまりは、自分から仕掛けた決闘で完膚なきまでに負かされたという現状と、

 あんだけ怒ったというのに無残にもそれらが打ち砕かれたという実情。

とか、そんなこんなのしっちゃかめっちゃかのせいで間違いないだろうが、まあ、いわゆる、今の猫耳コラル大先生は、普通に拗ねちゃってるんですね。

まだ9歳の子供が蹲ったまんま悶えているってのが全てを物語っているのです。

プライドとかが今、ズタボロなんでしょう。
多分、涙やら鼻水やらで顔は今、くしゃくしゃなんでしょう。
たまに「…うぅ、ひっく」と鼻をすするような音が全てを物語っているんだよなぁ。

レイネルはそんな様子のコラルに「大丈夫ですよー」と声を掛けているけれど、うーん、効果は今一つのよう。

まいったなー。拗ねちゃってる小さな子を宥めるのってだいぶ難しいんだよなー。

「にゃああぅぅぅ、にゃああぁぁぁ。」

「コラル先生。おーい。」

「うぅうぅうぅ。」

「コラル先生。顔を上げてー。」

「にゃにを。にゃああぁぁぁ。」

レイネルは猫耳幼女を気にかけて声を掛けるが相変わらず返ってくるのは言葉とも言えない声音だけ。

なんだか、人間を敵視し心を閉じた動物と会話してるみたいだよ、レイネルさん。

「うーん…」

どうやってもコラルの心を開くことができない状況にレイネルは頭を悩めている。

 俺としても後ろから様子を俯瞰しながらどうすりゃええんやと思い馳せるけれど。
 どうすりゃええのか全く打開案が俺の脳みそじゃ浮かばなく。
 正直、頭を掻くくらいしか今の俺にはできなかった。(無能?何それ美味しいの?)

「……………」

しかし、こんな詰まりに詰まった現状、コラルの閉じ切った幼女の繊細な心の扉を開かせるという難問であるが。

なんとその心を開いたのは、この猫耳幼女をこんなにした張本人だった。

ジッとコラルの様子を見つめているテトナ。
そんな純白の幼女だが、一歩コラルに歩み寄ると、

「…コラル、強くなってたよ。」

「…にゃうぅぅぅぅ。うぅ?」

純白の幼女の告げられた言葉とともにコラルの悶絶が一瞬止まり獣耳がピクリと動いた。

同時に服の隙間から這い出ている尻尾も一瞬ふわりと軽くはねる。
うわー、あの尻尾、もふりてぇ。

「コラルは治療に特化した魔法使いなのに、ちゃんとそれ以外のところも成長してた。」

「にゃあ?」

「ちゃんと鍛錬してるんだね。治療魔法だけでなく他のところも。」

「それは…」

「他の人にはできないよ。明らかに前戦った時よりかは強くなってるのが分かったよ。」

「ええ…?そうかにゃ?」

「うん、そうだよ。ね?レイネル?」

褒め言葉の猛襲に加えてテトナは第三者に助言を求める。

急に声を掛けられ「え?」と呟き、呆けて二、三度目を瞬かせたレイネル。それから慌てた様子で視線を泳がしてはいそいそと言葉を紡いで、

「え?そうっ…ね…うん。そう、成長ね。そうね」

あたふたした様子で何とか言葉を見つけたとでも言うようにレイネルはテトナの呟きに応じた。

駄目だよ、レイネルさん、そこは少しも動揺せずにはっきり同意しないと。
ちょっと怪訝さが滲み出てるよ。

まあ、その気持ちには異存はないけどね。

レイネルの思惑に俺は理解を示すことができてしまう俺。
なぜってそりゃ、コラルの戦いぶりには素人目線から見てもまあ足掻く事すらできてなかったと思うし…。あんなに一方的に出し抜かれてて強くなっているって言われても…なんかな。
純白の幼女は優しく褒めてるけど絶対心こもってないんだよなぁ。

コラルをお世辞にも肯定しきれないし、テトナは何食わぬ顔で空っぽな褒め言葉告げるし。
レイネルさんが頑張って虚勢を張ってるのがよく分かる。苦労してんね。

「そうだよねー。」

けれどもテトナは(圧倒的な勝利を勝ち取った)テトナはそんなこちらの心内など気にはせず、レイネルの発言に微笑を浮かべた。

そしてさらにレイネルに向かって褒め言葉の続きを求める目線を向ける。

相変わらず奔放としたおったりした目つきで、だ。(威圧感がすごい)

「……コ、コラル先生はとてもすごい魔法使いですよ。みんなもそう言っています。」

レイネルはテトナの目線に一瞬たじろいだが、何とか応じるようにどうにかこうにか言葉を紡ぐ。

すごい魔法使いって何?レイネルさん!ちゃんと具体的に言ってあげてっ!

「そう…なのかにゃ?」

しかれども、レイネルの褒め言葉に満更でもない反応を垣間見せるコラルさん。けれども、まだ表情は見せたくないみたい。彼女は蹲りながらもピクピクと耳を揺らしている様子を見せている。
レイネルさん、もうちょっとだよ!頑張って!

「え、ええ!実際コラル先生が偉大な魔法使いなのは事実ですから!いつも使う魔法は凄まじいものばかりですっ!……ねっ!」

最後に力強く紡いだ言葉。
と、共にレイネルは大胆に俺の方へ目線をつきつけた。

大胆に俺の方へ目線をつきつけた。

は?

急に声を掛けられ「え?」と呟き、俺は呆けてニ、三度目を瞬かせてしまう。

は?え?なんで?こっちに振るの?

「え、え?あ、いや、うん、そうだねっ、その通り」

唐突な展開に一瞬、呆然としてしまったが、何とか言葉を見つけたとでもいうように慌てて応じる俺。

駄目だよ、俺。そこは少しも動揺せずにはっきり同意しないと。
ちょっと怪訝さが滲み出てるよ。

あたふたしてしまいながらもなんとかレイネルの目線に応じる。
ちょっと、いやかなり異議を唱えたかったが、今はその心をグッと胸にしまい込み、的確なことを言うべきだと俺はヒイこら言葉を紡いだ。
さすが俺、冷静さが滲み出てるよ。声音に動揺さも滲み出てるけどね。

「えと、えあーっと、…とても、すごい…猫耳、じゃなくて……魔法の使い手だと思います!」

「で、でしょ?コラル先生は偉大なお方なのよ。あんた!それを語り尽くしなさい!」

声音を上げながらその場しのぎの言葉を告げる。
するとそんな俺のセリフに同意しながらビシッと指を突きつけながら口弁を求めるレイネル衛兵女性。
そのまま、俺から必死こいて視線を逸らすのはやはり、レイネル衛兵女性。

あぁー!この女!俺に押し付けやがった!自分が苦しいからって俺に全部責任転嫁しやがった!
おい、ちょっとその背けた目ぇ、こっち向けろ!貴様ぁ!手で顔を隠すなぁ!

片手で顔を隠し、俺に表情を見せまいとレイネルは頑張っている。
あんた、衛兵なら自分の言葉に責任持ちなさいよ!

「……………」

「……ぐうっ」

俺は胸中で叫びをあげる。
しかし、そんな俺の元にやんわりと突きつけられる目線に思わず口籠もってしまった。
レイネルの指差しと共に純白の幼女テトナがおっとりとした目線で小首を傾げてこちらを見つめていたために。

そのテトナの目線は変わらずぼんやりしているのだけれど、なんだか期待じみた目線に感じるのは考えすぎだろうか。






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