クロックホロウブレイブ〜時を戻った勇者は世界をもう一度巡ります〜

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第一章 巻き戻された世界

21.年の差

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「うう、うぅ、痛いよアルト。女の子の頭叩くなんて、私涙が止まらないよ?」

「その涙は笑って出たもんだろうが。くそが。性悪女が」

「あぁー、ちょっとその呼び名はあれだから。…………まあ、何にせよ小悪魔チックな私にアルトは弱々だからねえ。ふふ、アルトの照れた顔、可愛いかったなあ」

「うざい、うるさい、黙れ」

「楽しかったな、癖になりそう。可愛いアルトを誘惑するの」

「最悪な性癖持つんじゃねえ」

 彼女の言にアルトは低い声音で言い返すも、リーネルは「あっははー」と満面な笑みを浮かべるのみ。

 そんな彼女の様子に「やってらんねえ」とアルトは顔を背けては布団を頭から足まで覆い被る。構わない、相手にしないといった意思を主張するように完全に羽毛の中へ埋まった。

 不貞腐れてしまい、顔を見せないアルト。それに対してリーネルはふうんっと鼻息を鳴らして、

「だいたいね。アルトは私のどタイプなんだよ。威勢が良くて元気で強気な男の子。」

「そーかよ、俺は全くの逆だ。清楚でもっとしっかりした女性を要求する」

「清楚でしっかり?え?私じゃん、え?まさかアルトは私のこと?」

「おまえはもっと自分を省みろ、馬鹿」

 布団の中から機嫌悪そうに言葉が放たれる。
 反面、依然としてにやけ顔のリーネルは頬に指を添えて少し斜め上を見上げては、

「あと、年下ってところもちょっとありだなー」

「……おい」

「お姉さんはやっぱお姉さんしたいから、アルトみたいな子はドンピシャなのだ」

「てめえ、それには異論がある」

「…ん?」

 布団の中へ引きこもったアルト。だったが、リーネルの発言とともに、彼は羽毛の中から身を起こして彼女を鋭く睨め付けた。

 そんな彼の態度にリーネルはキョトンと首を傾げて、

「どったの?拗ねて布団にこもったと思ったら、急に出てきて?やっぱ私が恋しいの?」

「その線はどう転んでも絶対にありえねえ。じゃなくて、戦ってる時も言ったが、お前が俺より年上だと?どういう了見で言ってんだそれは。」

「いやいや、見たまんまだけど?ちなみに私は今年で19歳!もうすぐ大人の仲間入り!でもね、アルトは多分見た目からして16、5?あ、いや4?まあ、13では無いかなってとこでしょ?」

「はあ?ふざっけんじゃねえぞ、てめえ。俺は今年で………、」

 今年ではたち、と言いかけて、アルトはその言葉を呑んだ。
 言おうとした瞬間、唐突にある事柄が脳裏を過ぎったのだ。

「…………」

 あの体験を思い出す。あの白き空間で起きた出来事を、白銀の女神と話したことを。 
 ここは過去なのだ。自分は過去へと戻ってこの場にいる。
 そして、魔帝に負け、女神と話をしたあの瞬間のアルトは二十歳だった。
 
 それならば、時間を戻されたこの世界での自分はいったい何歳になるのだ?

「そうだ、俺は飛ばされた」

「………アルト?」

 目を見開き呆けたままそう呟いたアルト。そんな彼を見遣り、リーネルは怪訝な目を向ける。

 だが、彼は顎に手を添えてから少し黙考し、リーネルへと顔を向けると、

「なあ、鏡ってあるか?近くに」

「へ?何?急に?あるよ?乙女は鏡を所持しているものですから」

「あんのか?なんかちょうどいいな」

「む。ちょっと。それは失礼ではなくて?乙女として自分の身だしなみには気を遣ってます!」

「……?なんだその言い方?」

「言い方も何もアルトが私に対して無礼なこと言ったからでしょ。鏡くらいちゃんと所持してます。ここは私の寝室ですよ?」

「…………」

 それを聞き、アルトは思わずジト目を浮かべた。それはリーネルに対してではなく、この状況に対してだ。

 ここは女性の部屋だということ。アルトはそこで寝させてもらっていたということ。
 なんだろうこの感覚、心が乱されるようだ。気が滅入りそうになる。

「おまえの部屋かよ。なんで俺はここで寝かされてんだ」

「なんでって言っても……なんか、成り行き?私も怪我してたし、一緒に戦ったもの同士だし、村の人たちがここで休むようにって」

「気配りの方向性がおかしい」

「まあ、私アルト好きだし。むしろ願ったり叶ったりだったから、私反対しなかった。てか、喜んじゃってたかな」

「それのせいじゃねえか」

「はあ」と重いため息を吐きながらアルトは顔面を手で覆う。

 すると、四つん這いになったリーネルが触れ合うくらいの距離に顔を近づけると、

「そのお布団、毎晩私が使ってるやつだよ?…ふふ、興奮した?」

「……っ⁈」

 急に耳元に甘い吐息が囁かれた。言葉とともに伝わった彼女の温かな息遣いは耳をジーンと熱くさせる。

 びっくりし、思わず腕を振り上げて仰天してしまう。
 間近に彼女の顔があったので反射的にのけぞった。

「ふふ。やっぱアルト面白い」

 艶めく唇をニッと緩ませ、微笑を浮かべているリーネル。それから、彼女はひょいとアルトへ手にしているものを渡して、

「はい、これ鏡。何するの?」

「………。お前、覚えてろよ」

「ふふ、観念なさい。私、アルトのすること全部許して受け入れちゃうから」

 手渡された鏡を不躾に取りながら、アルトは彼女に鋭い目を向けて低く言葉を投げる。
 対してリーネルは、かかってきなさいとでも言わんばかりに胸を張って微笑を浮かべた。

「……ちっ」

 舌打ちを残し、アルトは鏡に自分の姿を写す。
 確かめるべきこと、それを明瞭にしておきたいことがあって、

「…………やっぱり、なんだか」

 自身の身体が幼いと、思った。

 顔つきが、自分の想像していたものと違う。腕の大きさが少し小さくなっている気がする。今にして思えば、多分背丈も低くなっているのではないだろうか。

 未来から過去へと飛んだということ、リーネルがアルトを年下と豪語する理由、そして今判明した自身の身体が心なしか変化しているということ。

 おそらく、16歳頃の身体になっているということ。

「アルト?どうかした?」

「………いや」

 沈黙するアルトを気遣うようにリーネルが語りかける。
 だが、彼はそんな彼女に目を向けては、

「…俺は17歳だ」

「……え?あ、え、うん。なんでこのタイミングで年言ったの?」

 少し、アルトは見栄を張った。
 つまるところこの世界が何年前なのかは知らない。数年前の世界に飛ばされるとはあの女神から聞いてはいたが、まあ、せいぜい3、4年前くらいだろう。だと願う。それに16も、17も変わらない。

「………」

 だが、この女は19か。

「やっぱり、アルト私より年下じゃん。やったー!お姉さんはお姉さんできる。年下は年下らしくお姉さんに甘えていいぞう。よしよしよし!」

「無闇に頭撫でてくんな!」

「ひゃうっ!もう、素直じゃない。もうちょい自分に正直にいたら?」

「正直にした結果がこれだ。馬鹿野郎。」

 表情を綻ばせながら彼の頭を撫でたリーネルに対し、瞬時にアルトは彼女の手を引っ叩く。

 だが、彼女は相変わらず心躍るような様子を見せており、

「運命ってのはあるんだねー。こんなにも理想的な相手が見つかるなんて、神様ありがとう。」

「くそ。神なんて信じねえかんな。マジで俺はそんな曖昧なもんに、………ん?神?………。
…あの女神め、よりによってこんな奴のいるとこに送り出しやがって」

 舌打ちし、アルトは今この場にいないあの白銀の女神に文句を垂れた。神の座にいるのならば、もうちょい配慮があったのではないかと胸中で不満を並べ立てる。

「アルト?」

 不可解な彼の発言にリーネルは眉根を寄せながら首をコテンと傾げる。
 そんな彼女の仕草に取り合うようにアルトは嘆息し、

「いや、なんでもね、それより早いことこっから出ていく。俺にはやることがあるんだよ」

「そういえば、さっき私を振ったのもそれが理由だったよね。さっき、アルトが…顔真っ赤にして、口籠らせながら言った、言葉…、ブフッ!」

「掘り返すんじゃねえ。クソ馬鹿野郎。ちっ、忘れちまえ」

「ううん、絶対に忘れなーい。もう頭の中に刻み込まれましたー!」

「うぜー、」

 言うこと為すこと全て癪に触るリーネルの発言に、アルトはプイッと目を逸らし辟易の意志をあらわにする。

 一方、リーネルはまん丸とした目つきを浮かばせながら口元を綻ばせて、

「それに、アルトのやることって何?私としてはそれは気になるんだけど。」

「あぁ?いいだろ、別に話さなくて。お前には関係ないことだ」

「いいや、話してもらいます。私、アルトと約束しました!」

「は?約束?いつそんなん言った、出まかせ言ってんじゃねえぞ」

「細かいことは後で話すからって、戦ってる最中に言った!誰でもないアルトが私に言った!」

「…………。……あー」

 そう言えば、そんなことを自分は彼女に言っていた気がする。戦闘中とはいえ、何を口走っているのだ。

「言質は私の耳がしっかりと聞き取っています。愛人としてアルトのことは知って置きたい!」

「何が愛人だ。却下した覚えしかねえ」

 リーネルに対して、倦怠げな態度でそう応じるアルト。
 だが、そこでフウと嘆息し、「あぁー」と言いながら髪をむさぼり掻いた。そして、彼女へ目を向けては、

「分かったよ。ある程度話す」

「やたー!律儀なアルト大好き!」

「寄んな」

 抱きつこうとしたリーネルを片手で制御する。
 それからアルトは胡座をかきながら彼女に対して口を開いた。


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