クロックホロウブレイブ〜時を戻った勇者は世界をもう一度巡ります〜

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第一章 巻き戻された世界

29.新たな旅路と黒き影

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 炎を掲げた壮大な宴も終えて、一晩たった翌日の朝。

 アルトは村の入り口で荷物を背負い、周りに出迎えてくれている面々を見つめていた。

「んじゃ、ありがとな。世話になった。この恩は必ず」

「何言ってやい。盛大な恩を受けたのはこっちの方やい。気をつけて行ってな。アルトやん」

「あぁ、ありがとなタックさん。酒飲みすぎんなよ」

「はっはー!まだまだ若えもんに心配されることじゃねえやい!」

「いや、だいぶ心配したけどな」

 軽口でアルトは目の前の髭をはやしたおっさんと気さくに話し合う。
 実際、目の前にいるタックというこの中年男性は昨夜デロンデロンになるまで酒を飲みまくっていた。が、たった今ケロっとした態度でアルトを見送ることが出来ているというのはこの場合、酒に強いというのか。
 まあ、どちらにせよ正気を保ちながら出迎えてくれるのは何より。

 と、その酒豪の横からこちらに声がかけられ、

「行ってらっしゃい、アルトさん。あまり無理はしないでね。」

「お兄ちゃん、気をつけて」

「あぁ、行ってくるよ。いろいろありがとな」

 セシルとミナの親子が一緒に笑みを浮かばせて、アルトに別れの言葉を告げる。アルトもそれに応じて、柔らかく破顔し気兼ねなく手を振った。
 それに続いて大勢いる村の人達がそれぞれ声を掲げて、

「じゃあなー、アルトの兄ちゃん!今度あったらけんじゅつ教えて!」

「アルトさん、また良かったらこの村にでも!」

「アル坊や、元気でのお」

「あぁ、みんなも元気でな!」

 様々に告げられる村人たちの別れと激励の言葉に、アルトも拳を掲げて返答する。みんな世話になった人たちだ。気さくな人ばっかりで本当に良くしてくれた。
 
 そして、嬉しい言葉をかけてくれる皆にアルトは応じた後、最後に目の前にいるこの村の長老オーベウに目線を向けて、

「ありがとな。オーベウさん。こんな俺を匿ってくれて。」

「フォッフォッ。こちらとしても満足させられたようで何より。お礼としては物足りないかもしれないが、アルトがすっきりした面持ちで何よりじゃ」

「物足りないなんて……。そんなことねえよ。一晩だけど、この村は楽しかった。みんないい人ばっかでさ」

「そう言ってもらえると長老としては嬉しい限りだのお」

「あぁ、感謝する。一緒に過ごさせてくれて。……で、一つ聞きたいんだけど」

 そこまで言い、アルトは唯一の気懸りに目を歪めてびしりと横に指を指した。

「なんでこいつが俺の横にいるの?」

「…フォッフォッ」

 アルトがオーベウへとそう問いを投げ、微妙な面持ちを浮かべながら指差した先にいる人物。
 それは真紅の髪色をし、朗らかな笑みを浮かべている女性だ。

「ん?」

 皆から別れを告げるアルトの横でなぜかリーネルも皆から盛大にお出迎えされる側に佇んでいた。
 背中に荷物を背負い、腰に刀を差しながらまんまるとした目を不思議そうにこちらに向けている。

「………」

 アルトはそんな彼女にチラリとジト目を横に向け、

「なんでお前がこっち側にいるんだ?」

「ん?何が?」

「なんでお前が俺を見送る側じゃなくて、みんなから見送られる側にいんだって聞いてんだ」

「え、なんで?アルトと私一緒に行くんじゃん?そう話したじゃん?」

「いつ、そんなことになった…」

「昨日の夜じゃん?」

「話はしたが、許した覚えはねえ。」

「考えといてって言ったじゃん?」

「考えるもなにもついてくんなって俺は言っただろ。その結論は変わんねえんだよ」

「むむう。相変わらずいけずぅ」

 リーネルの物言いにアルトはそれを真に受けることなく同行の許可を提示しない。目を歪ませ、不本意だというように不満顔。
 対して、頑なに拒む彼の様子にリーネルもぷっくら頬を膨らまして不満顔。

「………ふふん、でもね」

 だが、彼女は二マリと目を細めて軽く微笑を浮かべると、

「アルトはイルエス王国に行きたいんでしょ?一刻も早く」

「あぁ、そうだ。ちゃっちゃと俺は帰んなきゃなんねえ。だから、お前邪魔。ついてくんな」

「へっへーん。だけどね、それならばアルトは私と行かざるを得ないのです」

「何でだよ、そんな理由ねえよ」

「ほおほお。では一つお聞きますが、アルトはこの村が地図のどこにあるのかお分かりですかー?」

 体をくねりと曲げ、上目でにまりとした顔でリーネルはそう告げる。少々、いやかなり癇に触る表情。
 だが、今彼女が言ったことはアルトにとって図星な言葉でもあり、

「……………。……いや」

「ならなら、この村からアルトの国に行くまでの道のりはちゃーんと分かってるのですかー?」

「……………」

 ニヤリとした含み笑いを浮かばせながらリーネルはそう言う。
 だがやはり、そんな彼女の物言いにアルトは図らずも言い返す言葉を見つけることが出来なかった。

 たしかにリーネルの言う通り、アルトが今世界のどこにいるのか皆目見当もつかないのは紛れもない事実だ。
  いきなり女神に飛ばされ、この村に行き着いたアルトだ。そんな自分の居場所なんて分かるはずもない。

「あー、で、何が言いたいんだよ、お前は」

「ご察しの通り、私がアルトと一緒に行けばあっという間にイルエス王国へと着いちゃうのです!」

 頭をガシガシと掻きながらぶつくさに言ったアルトに対して、リーネルはピンと指を立ててウインク。

「お前は分かってんのかよ、道のりってやつは」

「何を今更。ばっちり頭の中に叩き込んであります!」

「……ちっ」

 リーネルの元気の良い言にアルトは横目で舌打ち。

 どうやら、自分一人で道を模索しながら国へ戻るより、彼女について行った方が早く到着しそうなのは確からしい。
 たしかに理にはかなっている、が、それをこの女性に言いくるめられたのが少し癪だ。

「アルトや。リーネルを頼むぞえ」

 と、不満げにしていたアルトに対し不意にオーベウが柔らかく口を開いた。慮るようなその目つきは孫娘に対する温情だ。

「オーベウさんも、これには異議なしかよ。身内なら止めるとこじゃねーの」

「祖父から見て孫というものは可愛がりたくなるものでのお。それに若いうちはいろんなとこに行った方がええ。ワシはそう思うとるでの」

「そう言われると何も言い返せねえよ……」

 オーベウの言葉にアルトは大きくため息を吐く。
不本意だが今は戻ることが最優先だ。どうもこの横にいる女性と一緒に行くのが最短ルートには違いない。不本意だが、

「…………」

 アルトは横にいるリーネルへと見下すように視線を向けた。次いで、横でキラキラとした笑顔を浮かばせているリーネルに向かってぶつくさげに口を開き、

「くそ、分かったよ、おら行くぞ。ちゃっちゃと行けこの野郎」

「はいはーい!お話しながら楽しくゆっくりと行きましょう!」

「急ぐんだよ、馬鹿野郎」

 ピーんと手を挙げ、リーネルは満面の笑みでそう告げる。
 その言い草の中で不安にさせるとこにアルトはジト目を向けて物申し、くるりと村から背を向けた。
 
「みんなー!じゃあね!私行ってくるよ!」

 リーネルは育てられた村へと手を振り、一緒に過ごしてきた仲間に別れを告げる。
 そんな彼女に村のみんなは笑顔で見送り、「頑張れ!」「行ってらっしゃい!」などと声をかけ激励の言葉をリーネルへ送った。

 別れ際だというのに彼ら彼女らはお互いに笑顔を浮かばせて、手向けの言葉を交わし合う。

 そして、尾を引くことなく別れを済ませた二人は新たなる旅路へと歩みを進めるのであった。






















ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 アルトたちが村に別れを告げたと同時刻。

 遠く、遠く離れた地。そこは大きく、綺麗で栄えた街だった。自警団による警備も行き届いており、治安の良い市街地。

 だったが

「…足りねぇ」

 今やその美しい街の外観は一切ない、栄えた街の面影など無くそこは無惨な姿と成り果てていた。
 人々が賑わっていた大きな店の残骸。壮大な建築物はほぼ瓦礫となり、もはや原型を留めている建物はない。ガラクタだらけとなったその場、見た目だけでも酷い有り様だ。
 
 だが、目を引くのはそれだけではない。

 多くの赤い水溜まり。崩れ落ちた石造りの家に疎らにつけられた赤い痕。数多の赤く染められたものがそこかしこに付着している。

 その赤色の正体は血だ。鉄の臭いが充満し黒く変色しているものもあるほど、多くの血溜まりが街中の至る所に出来上がっていた。
 しかしそれだけではない。街の様々な場ににグチャリと潰れた何か柔らかいものが転げ落ちたりこびりついたりしている。
 さらに言うとこれも赤いものだった。
 目にするだけで不快感を募らせてしまう、それはもう機能を停止した人のどこかの部位の臓腑だ。

 今やこの街中にその人間の臓物ががそこかしこに転げ落ちている始末。
 加えて、腕や足も切断された状態であちらこちらに飛び散っている。とても人々が住んでいた街とは思えない悲惨な現状。
 それが指し示すこと、それは幾万もの人の死体だ。
 見渡す限り、死体、死体、死体。死体の山。

 もう、この街に生ある人間はいない。
 いるのは、否、あるのは人だったものの成れの果て、ただの人間の死骸だけだった。

「なぜ、………だ。なぜ、貴様のような、……ものが」

「あぁ?」

 いや、生ある人間がいないというのは語弊がある。何万人もの人が暮らしていたこの街で、今生き残っているものは二人だけだ。

 一人はかろうじて息をし、体中を血だらけにしたこの街の兵士。吐血し、片目は潰れ、見る限り瀕死状態だ。

 そして、もう一人は濃い灰色の髪に漆黒の瞳をすぼめさせたまだ若さの見える男。
 この街をこんなにも破壊し尽くした張本人。

「……なんだよ。そんな目で見つめやがってよ」

「貴様、何……者……だ。なぜ、街を……襲った。」

「あぁ?うるせえな。死にかけの分際が」

「なぜ、その…ような……強さを、持ち……ながら」

「うっせえつってんだろ。なぜなぜなぜなぜって、それに俺が答える意味あんのかよ。無ぇよな。お前がやんのは俺の質問に答えるだけだ。カスが」

「…あがっ」

 言葉を吐き捨てながら男は兵士の頭蓋を握り締める。痛がる兵士の様子に労う気など毛頭なく、無理やり自身の目前まで掴んで持ってくると、

「てめえが、今生き残ってんのは俺の気まぐれだってこと忘れてんじゃねえぞ。てめえの命なんざすぐ他の奴らと同じようにできんだぜ?」

 そう告げ、男は周りに目を向けて言葉の意味をわからせる。それもそのはず男と兵士の周囲には数多くの屍が転げ落ちていた。
 血が滴り、人としての生を失い、点々と死体が転げ落ちている。
 それらは皆この兵士の見知ったものであり、仲間だった者たちだ。

「てめえはこの街の中で魔力が一番多かったからな。だから残してやってるだけだ。別に殺しても良いんだがよ。それじゃ、足りねえからな」

「……ぐ?」

 男の言葉に兵士はよく理解が及ばなかった。痛みに苛まれながらも不可解な表情を浮かばせる。
 それに対し濃い灰色の髪の男は恐ろしい凶笑を浮かび上がらせ、

「俺は魔物だぜ?こんななりをしてるがよ」

「……な、…ぁ⁈」

 力の無い目つきではあるが兵士は男の告げた言葉に驚きの顔をする。
 そう思うのも仕方なく、今目の前にいるのは少年かと思われるようなただの若い男だ。それが自分を魔物だと言う。完全なる人間の姿だというのに。

「そんな意外そうな目をすんなよ」

 鋭い眼光を放ちながら男は凶笑した。
 そして、もう息の根が止まりそうな兵士に対し頭蓋を握る手に力を込め、

「どうせ死ぬお前には無意味な反応だ」

 歪めた笑いを浮かばせながら男はそう口を開いた。
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