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悪役令嬢、親友との過去を思い出す
しおりを挟む「へえ、つまりはあのいけすかない男と2人で食事を楽しんだってのね、私とは全然会ってくれなかったくせに。」
不貞腐れたように私が言い放つと、私の親友はあからさまにあたふたし始めた。
これは一種のイジワルだ。
「ち、違うのよ、エリー! 最近仕事が忙しくて中々会う暇がなかったの……それにディナーのチケットがペアだったのよ! もしも誰とでも行けるのだったら、勿論エリーのことを誘っていたわ。」
レアの必死な様子に嬉しさを感じて私はクスリと笑う。こういった様子を見たくて、つい悪戯心が湧いてしまうのだ。
「わかったわ、そんなに必死に弁解しなくても良いのに。」
くすくすと私が笑っていると、レアはしょんぼりとしながらもチラリとこちらを見て様子を伺っていた。
「だって……大好きなエリーに嫌われたらとっても悲しいんだもの……。」
あぁ、どうしてこの子はこんなに可愛いのかしら。
いつだって彼女は私にとって1番大切な存在だ。
彼女の幸せを願わない日はない。
そう思ったのは、いつのことだったか。
「エリー! 見てみて!!」
「そんなとこに登ったら危ないよう……!」
レアはいつも破天荒だ。
今日も貴族の令嬢らしからぬ行動で私は肝を冷やされる。
木の上から大きく手を振るレアに、幼い私はただオロオロとすることしか出来なかった。
「大丈夫だよ! エリーもおいでよ!」
「む、無理だよぅ!」
レアの提案に対して私はぶんぶんと首を振るう。
彼女が登っているのは、オールクラウド侯爵家の庭に植えられている大木だ。慣れた様子で登っていたので、かなり木登りの頻度は高いかもしれない。
しかし、彼女は使用人の目を盗んで行なっている。
おそらく見つかれば叱られるどころ騒ぎではないだろう。
「も~、しょうがないなぁ。」
レアはピョンと木から飛び降りて、それから私の右手をギュッと握って駆け出した。
「秘密の場所、教えてあげる!」
オールクラウド邸の庭を駆け、奥へ奥へと進んでいく。一体どこまで行くのだろう、と疑問に思っていると大きな木の下でレアは止まった。
私は大木を見上げて目を輝かせる。
ピンク色の花がたくさん咲き乱れ、花びらがひらひらと落ちている。とても幻想的な光景だった。
「ここ、レアのお気に入りの場所なの!"サクラ"っていう花でね、この時期にだけ咲いてるんだ。」
レアも木を見上げている。何だかすごく愛おしいもののように見つめていた。
「懐かしいな……。」
レアの小さく漏らした言葉を私は聞き逃さなかった。一体何を懐かしんでいるのか、疑問に思ったが何だか聞いてはいけないような気がして私は黙り込んだ。
レアは木の下にストン、と座り込む。ポンポンと横を叩いて私にも座るように促した。
地面に座るなんて、お洋服を汚したら怒られるかな……と戸惑ったが、意を決して座ることにした。
「あ、そうだ! エリーに言わなきゃってずっと思ってたことがあるの! 絶対、ぜーったいにヒロインを虐めたらダメよ!」
「ヒ……ヒロイン?」
私はレアの言うことが何のことかわからずに首を傾げる。"ヒロイン"とは一体どんな意味があるのだろう。
「今はわかんなくても、絶対いつかわかるから、とりあえず覚えておいて! ね!?」
レアな気迫に押され、私はとりあえず「う、うん。」と頷いてみる。すると、レアは満足したようにニコリと笑みを浮かべた。
この時の私は、大きくなるまで……いや、なっても度々この言葉を言われるとは全く予想していなかった。
それから、私は俯いて彼女に言わなければならないことをいつ言おうかとタイミングを見計らう。
本当は言いたくない、でも言わなきゃいけない。
「あのね、レア……私ね……。」
とても小さな声で話し始めると、レアが「ん?」とこちらに顔を向ける。笑みを浮かべて前のめりになり、私の話を細部まで聞き漏らさず聞いてくれるというような気持ちが伝わってきた。
「もう、レアと遊べないの。」
「え……なんで?」
私の発言に、レアはとても悲しそうな顔をする。
たったその一言だけで、泣き出してしまいそうになっていた。私の胸がとても痛む。
「私、たくさんたくさんお勉強しなきゃいけないの。だから、遊ぶ暇が無くなっちゃうんだ……。」
幼くして、ログレス様の婚約者候補に決まってしまった私は、彼の妃になっても申し分ない人間となるために妃教育を受けなければならなかった。
そんなこと本当はしたくない。もっともっとレアと遊んでいたい。だけどそれは許されないことだった。ノグワール公爵家の娘として決められたことを覆すことは出来ないのだ。
幼いながらに私は公爵家の娘としての使命を理解していた。
「そっか……お勉強はしなくちゃダメだよね……。」
レアも俯いてそう呟く。しばらくの間静寂が流れた。もっと2人の時間を楽しみたかったのに、重苦しい時間になってしまった。
私も何だか涙が溢れてきそうになる。嫌だ、もっと遊びたい、お勉強なんかしたくない。
「じゃあ、エリーがお勉強してる間、レアはその隣でご本を読んでお勉強する!」
「……え?」
予想外の言葉に私は目を見開いた。
「私も一緒にお勉強すればきっと怒られないよ! 絶対に邪魔はしないもん! それでちょっとの休憩時間にお喋りしたりしよ!」
レアはもうそれは決定事項なのだ、とでも言うように何の本を読もうかと考え始めていた。
これからもレアとお話しできるんだ、私は一人ぼっちじゃないんだ。そう思うと、どっと安心感が押し寄せた。
「じゃあ、どんな本が良いか私も考えるね。」
「わー! エリーのオススメの本か、楽しみだなぁ!」
そう言って楽しそうに笑うレアの笑顔を、私はきっとずっと忘れない。
もしもレアがいなかったら、私は孤独な幼少期を送っていたことだろう。勉強しかしなかった幼少期によって、ログレス様の婚約者という立場に固執して、今のような私はきっと何処にもいなかったはずだ。
私にはずっとレアが居た。彼女は知らないだろうが、彼女の存在が私をたくさん助けてくれた。
だから、レアが苦しんでいるならば絶対に私が助ける。レアを悲しめる人間は必ず排除する。
私は、永遠に貴方の親友なのだから。
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